第3話 岩肌のゴーレム
「この俺が、これほどの深手を負わされたのは初めてだぞ。」
何らかの魔法効果なのだろうか、獅子王が受けたダメージは、既に回復している。
「漆黒の剣士よ、勇者を名乗っても良いぞ。ただし、この俺を倒すことができたらの話だがな。」
獅子王は、静かに魔法の詠唱を始めた。
すると石畳が軋み始め、粘性生物のようにボコボコと音を立てて盛り上がり、手が生え、足が生え、徐々に人の形になっていった。
しかし、それは人というより巨人であった。
ゴーレムである。
その足は大地に根差した巨木よりも太く、丸太のように太い腕は切り立った岩肌を思わせ、牛若丸を見下ろす様は山のようであった。
屈強なゴーレムたちは、青く光る眼光を怪しく揺らし、石畳を踏み砕きながら、一斉に前進を始めた。
そして、覆い被さるように、切り立った崖のような腕で、大振りに殴りかかってきた。
ゴーレムの僚力は岩を砕くほど強かったが、牛若丸はこれをヒラリとかわすと、その拳は目的を失い、むなしく空を切った。
そして、大気を切り裂く音とともにバルコニーの手すりを砕いた。
辺りに、大小の岩が飛び散る。
牛若丸は炎陽を抜きざまに振り下ろし、空振りでバランスを崩したゴーレムを袈裟斬りにした。
炎陽の刃が右脇から抜けると、ゴーレムは、右腕と両足を残して、上半身が石畳の上に落ち、赤い溶岩のように溶けた。
続け様に、牛若丸は別のゴーレムの胸に氷月を突き立てると、今度は、身体全体が力を失ったように崩れ落ち、凍りついた土の塊となった。
どうやら胸のあたりに核があり、これを破壊すると、ゴーレムは活動を停止するようだ。
牛若丸は二体のゴーレムを倒したが、次から次へと、ゴボリ、ゴボリと、新手が石畳から湧き出てくる。
満月に雲がかかり、闇夜がゴーレムの姿をかき消した。
多くのゴーレムたちに守られるように後方に控える獅子王は、大きく息を吸い込み、白く大きな牙を火打ち石のようにカチリと打ち鳴らした。
そして次の瞬間、獅子王は、ゴウという轟音と共に、勢いよく灼熱の炎を吐いた。
その紅蓮の炎は、目の前のゴーレムたちを焼き、さらにその先の牛若丸をも飲み込んだ。
あたりに焦げ臭い匂いが立ち込める。
燃え広がる炎が、無機質なゴーレムたちを浮かび上がらせる。
「ほう、我が炎にも耐えるか。」
牛若丸は、黒いマントで体を包み、獅子王の炎から身を守ったが、凄まじい熱風が少年の肌を焼き、嗅覚を削いだ。
ゴーレムたちは何事もなかったように炎をまとい、焼かれた身体を揺らしながら突進してくる。
そしてそれを氷月で凍てつかせ、或いは炎陽でチーズを切るように薙ぎ倒していく。
牛若丸は、再び獅子王に肉薄した。




