第2話 魔刀二振り
夜空を覆う満月の下、獅子王は純白の立髪を大きく揺らして、再び雄叫びをあげた。
その咆哮は衝撃波となってバルコニー全体に広がり、今度は石畳の砂煙を巻き上げながら牛若丸を飲み込んだ。
魔王の咆哮には精神系の魔力属性があり、人の恐怖心を増大させ、最悪の場合、意識を失わせることもあると言われているが、牛若丸は何事もなかったかのように大きく前に踏み出して間合いを詰め、左手に握る青い刀で突きを繰り出した。
冷気を帯びた切先が、獅子王の鼻先に迫る。
この凍り付くような青色をした刀の名を″氷月″という。
氷の妖精王の祝福を受けた魔刀である。
この氷属性の魔力を帯びた強力な武具を使う者には、魔刀の力に負けないだけの肉体と精神の強さが求められる。
使うに相応しい者が振えば、大河をも凍り付かせることができるが、力なき者が使えば、その者の身も心も凍てつかせることになる。
つまり誰にでも使えるような代物ではない。
そして、使い手によって、その威力に大きな差が出るのも、この魔刀の特徴である。
まるで魔刀自身が使い手を選んでいるかのようである。
氷月による獅子王への突きはかわされたが、刀身の冷気に少し触れただけの立髪が凍りついた。
牛若丸が右手に握るのは、炎陽という名の魔刀である。
この魔刀は、太陽の欠片できていると言われている。
なるほど、太陽の如く真っ赤な刀身は、燃えるように熱い。
氷月による突きがかわされると、間髪を入れず、炎陽を抜刀し、勢いよく横一文字に薙いだ。
今度は刃が胸元に深く入り、あたりに焼けたにおいが立ち込めた。
獅子王はバルコニーの手すりに沿って、トントンと軽く飛び退く。
二振りの魔刀は、いずれも高い魔力を宿しているが、相性が良くない。
いや、極めて悪いと言った方がいい。
互いに相反する性質を有しているのだ。
熱した鉄に冷水をかけると水蒸気爆発が起きるように、使い方を間違えれば、使い手を大きく傷つけてしまう。
しかし、牛若丸はその性質を理解した上で、その反発エネルギーを相手への大きなダメージへと転化して戦っている。
突きや居合等によって斬撃を繰り出す際、それぞれの刃を当てることなく、ぎりぎりまで近づけて小さな水蒸気爆発を起こし、その反発エネルギーを利用して、相手に刀身を叩き込んでいるのだ。
その威力は想像を絶する。
牛若丸はリスクを顧みることなく、二つの魔刀を振り続けている。
獅子王は、牛若丸の剣技よりも、その強い精神力に感嘆した。
そして、危険な剣士であると認識した。




