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第19話 接触

「砂漠の早朝って寒いよね。日が昇って少しは暖かくなってきたけど、寒がりの僕にとっては地獄だよ。」


ミミーは両腕を抱えて、凍えるような仕草をして見せた。


「もう少ししたら灼熱地獄だぞ。俺は暑がりだから、今の方が、ずっとマシだ。」


リドルノートは、朝日に向けて、中指を立てた。


「リドルは男だから、日焼けとか気にしないだろうけど、女の子だと、砂漠の日焼けなんてありえないよ。まあ、これはゲームの世界なんだけどね。」


ミミーもリドルノートに習って、ゆっくりと登りゆく太陽に向かって、中指を立てた。


周囲を警戒しながら先頭を歩く舞鬼は、漆黒の鎧を身にまとい、その右腰には漆黒の″魔王の剣″、左腰には純白の″大天使の剣″を携えている。

いずれも、強い魔力が付与された極めて希少な魔剣である。

そして、戦闘に備えてのことなのだろうか。

長く美しい髪が後ろで束ねられており、エルフ特有の尖った長い耳が、あらわになっている。


「俺は、舞鬼が反対するとは思わなかったよ。」


「僕も意外だった。」


謎のエルフとの接触に反対をしたのは、舞鬼だけだった。


突然、獅子王の魔力が消えたのは、なぜか。

今もなお、マップウインドウ上において、獅子王の座標位置が白帝城を示し続けているのは、なぜなのか。

そして、獅子王の側にいた強い魔力を持つ者は、何者で、どこへ消えたのか。


不可解なことが多すぎた。

ゆえに、リスクを避けるために撤退した方が賢明だ、という結論を舞鬼は出した。


リドルノートは、獅子王がウェルスに向かっていた可能性が高いことから、ある程度の危険を冒してでも、わからないことは、はっきりさせないといけないと考え、賛成に回った。


そして、獅子王に心を奪われている可能性がある可哀想な少女を助けたいという曖昧な理由で、ミミーが賛成票を投じたことにより、ニ対一で賛成多数となり、謎のエルフに対して接触を試みることになったのだ。


緊張のためか、ミミーは表情をこわばらせ、魔導士の杖″火龍の王笏″を強く握り締めている。


「ミミー、肩の力を抜け。お前は俺よりも強いんだ。それに、俺の防御魔法を頼りにしてくれていい。」


リドルノートは、ミミーの肩にそっと手を置き、右手で持つ神官の杖″神笏″を力強く、頭上に突き上げた。


「少し前も、こんなやり取りをしたよね。リドルは、ロリコンな変態おじさんだけど、頼りにしてるよ。」


「だから、違うって言ってるだろう。」


「ははっ」


「舞鬼まで笑うなよぉ。」


舞鬼が肩を揺らして笑うと、ミミーの頰は、幾分か緩んだ。



時間の経過とともに日差しが強くなる。

すでに天頂まで昇り詰めた太陽は、草ひとつ生えていない砂の大地を容赦なく炙り、強く吹き付ける熱風が、乾いた砂を舞い上げている。


にじみ出る汗が、胸元を濡らす舞鬼たちの目の前に、小さなオアシスが現れた。

オアシスの中央には、三日月の形をした奇妙な泉が水をたたえ、その周囲を背の低い木々が取り囲んでいた。


「あれか...。思ったより小柄だな。」


一匹の猫を連れた細身のエルフが、木陰で休んでいる。


「リドルノート、ミミー、油断するなよ。」


先頭を歩く舞鬼が、後続の二人に注意を促す


「この状況で油断できるほど、俺は豪胆じゃない。」


「僕なんて、足が震えが止まらないよぉ。」


謎のエルフの側には、一匹の猫がおとなしく座っている。


舞鬼は、不意に猫と目が合った。

アメリカンショートヘアのような毛色をしたその猫は、血のように真っ赤な目をしていた。


ーーあの目はどこかで...。


舞鬼は、それとなくリドルノートたちに目配せしつつ、木陰で休んでいるエルフの方へと向かった。


「このオアシスで少し休憩しよう。私は、先に休まれている方に、挨拶をしてくる。」


泉の周囲は、砂漠とは思えない、ひんやりとした空気が漂っている。


「水だよ!」


ミミーは、泉の方へと駆け出した。


「ミミー、水生の魔物に気をつけろよ!」


リドルノートは、ミミーの後を追いながら、舞鬼の方に注意を払う。


舞鬼が近づくと、猫を連れたエルフは、ゆっくりと立ち上がった。


「こんにちは。砂漠は暑いですね。」


舞鬼が一礼すると、小柄なエルフは軽く会釈した。

近くで見ると、かなり細身のエルフであることがわかった。

猫は、じっと舞鬼を見ている。


ーーこれだけ近づいても、魔力を感じない...。


砂漠の日差しを嫌っているのか、それとも他者との関わり合いを避けているのか、小柄で細身のエルフは、フードを深く被っており、表情がまったく見えない。

そして、携帯している武器も確認できない。


「エルフ族ですよね。見ての通り、僕たちもエルフです。」


いつの間にかミミーは、舞鬼の側で、接触対象のエルフに話しかけている。


「エルフ?...僕はハイエルフです。」


「ハイエルフ!超レアで、私たちの上位種族じゃないですか!ハイエルフさんに会ったのは初めてです!」


ミミーは、思いっきりはしゃいで見せた。


「それに、僕と同じ″僕っ子″なんですね!」


「僕っ子?」


「女の子ですよね?」


「あぁ...、僕は男です。よく女子と間違われるので、困ってるんですよ。」


フードのせいで表情は読み取れないが、少しイラついたような声の感じから、あまり良い反応ではなかったようである。


「ご、ごめんなさい。まだ小学生か中学生くらいの男の子なのかな?声変わりをしてないし、可愛い顔をしていたので、女の子だと勘違いしちゃった。」


ミミーは、ペコリと頭を下げた。

ハイエルフの少年は、黙ったまま下を向いている。


「すみません。このバカに失礼があったのなら謝ります。お許しください。」


まずいと感じたリドルノートが、慌てて駆け寄り、ハイエルフの少年に謝罪した。


「僕のことをバカって言うなぁ!」


「名乗りが遅れました。俺はリドルノートと言います。この僕っ子はミミーで、最初に声をかけさせていただいたのは、俺たちのパーティのリーダーをやっている舞鬼です。」


ミミーの抗議には、リドルノートは取り合わない。


「リーダーの私からも謝罪します。申し訳ありませんでした。」


舞鬼は、深く頭を下げた。


「あぁ、あの有名な舞鬼さんですか...。僕の方こそ、ごめんなさい。リアルでも女子と間違われるので、コンプレックスになってて...。僕は牛若丸と申します。まだ十三歳なので、僕に対する敬語はやめてください。」


牛若丸は、深く被ったフードを脱ぐと、舞鬼に対して右手を差し出した。

幼い少女のような顔立ちで、肌が透き通るように白い美少年であった。


「ハイエルフ殿に、私の名を知っていただけているとは、とても名誉なことです。」


舞鬼は、快く握手に応じた。

手に直接触れたことで、微弱ではあるが、魔力を感じることができた。


ーーやはり、魔力を隠蔽している。それも高度に...。


感じる魔力量は微弱だが、高濃度の魔力が、触れた手を介して伝わってくる。


ーー底が知れない...。一旦引くべきか...。


他の二人も舞鬼に習って、牛若丸と握手を交わした。

まだ労働というものを知らない、少年の手であった。

リドルノートは、牛若丸のシミひとつない手を見て、若いというより、幼いと感じた。


ミミーは、柔和な顔立ちをした牛若丸と、友達になりたいと思った。


「俺は、ピチピチお肌の牛若丸君が眩しいし、羨ましいよ。俺はダンディーなお兄さんだけど、30代になってしまったことが悩みなんだ。」


牛若丸は、首を傾げた。


「″ピチピチ″というのは、どういう意味ですか?」


「あぁ、最近の若い子は、そういう言い方をしないのね。お兄さんは、ジェネレーションギャップを感じてしまったのだよ...。」


ミミーは、リドルノートの肩を軽く叩いて言った。


「リドルは、お兄さんじゃなく、おじさんでしょ?」


「三十代までは、お兄さんだ!」


「もうすぐ四十代でしょ?」


「うるさい!」


二人のやりとりを見た牛若丸は、無邪気に笑った。

そして、そんな牛若丸を見て、リドルノートは安堵した。


「この僕っ子は、大魔導士の称号があるくせに、いつも小動物のように怯えてるんだよ。」


「あー、またバカにした!」


ミミーは、口を尖らせている。


リドルノートとミミーは、これといった理由もなく、牛若丸に対する警戒を解いてしまった。


「へぇ、大魔導士様なんですね。すごい魔法を使うんだろうな。」


牛若丸は、ミミーが手に持つ魔導士の杖をまじまじと見ている。


「これ、なんていう杖ですか?」


「これは″火龍の王笏″ていうレア魔道具で、普通レベルのプレイヤーが使ったら、一瞬で魔力切れを起こしちゃうヤバい代物なんだ。だから、ミミーみたいな、大魔導士にしか使えないんだよ。」


リドルノートが、自分のことのように誇らしげに言うと、ミミーは恥ずかしそうに、顔の前で両手を振った。


「ぼ、僕は、全然大したことないよ!」


「この方向だと、牛若丸君の行き先は、ウェルスなのかな?」


牛若丸が機嫌を直したと見たリドルノートは、それとなく、牛若丸の行き先を聞き出そうとした。


「はい、ウェルスに向かってます。ウェルス名物の栗を買いに行くところなんです。」


牛若丸は、獅子王の方をチラリと見た。

依然として獅子王は、舞鬼の方を見ている。


ーー知ってる人なのかな...。だとしたら...。


「だったら、僕たちと行き先は同じだね。僕は、ウェルスの栗が大好き!特にモンブランが最高!」


「そうなのだ!モンブランの上に乗っている栗が絶品なのだ!」


″モンブラン″という言葉に、獅子王が反応してしまった。


舞鬼たちは、ギョッとした顔を人の言葉を話す猫に向けた。


「この猫ちゃん...、話せるんだね。僕、びっくりしちゃった...。」


牛若丸は、何をやってるんだという表情で、獅子王を睨む。


「はい、少し前に捕獲した猫型の魔物なんです。従魔契約を交わしたので、僕について来てるんですよ。」


ーー獅子王とともにいたのは、この少年で間違いない。近くに、魔力を消した獅子王が潜んでいるかもしれない。今すぐに、この場から離れるべきだ...。


強い危機感を覚えた舞鬼は、牛若丸との間合いをとった。

そして、リドルノートたちに目配せをしたが、彼らは気づかない。


ーー何か引っかかる..。赤い目...猫から感じる魔力...。


「一つ聞いていいですか?」


牛若丸は、再びフードを深く被ると、ミミーに話しかけた。


「何ですか?」


「フードを被っていたのに、なぜ僕のことをエルフだと思ったんですか?」


「え?」


「僕の顔は見えなかったはずなのに、なぜ、エルフだと思ったのかな、と思って。」


「そ、それは、フードで隠れてない部分から、顔が見えたので...。」


「ではなぜ、僕のことを女の子だと思ったんですか?」


「そ...それは声が高かったから...。...ほら、声変わり前の男の子の声って、女の子とあまり変わらないでしょ?」


「それではなぜ、″ 可愛い顔をしている″ではなく、過去形で″可愛い顔をしていた″と言ったんですか?まるで、どこか遠くから、僕のことを見ていたような言い方だな、と思いまして。」


リドルノートは、全身の毛が逆立った。

そして、少年の風貌だけで油断してしまった自分を呪った。


「ミミー!こいつから離れろ!」


リドルノートは、牛若丸から大きく距離を取って、神官の杖″神笏″を大きく振りかぶり、素早く魔力を練り上げると、上級防御魔法″光の壁″の詠唱を始めた。


「天上におわす神々よ。そしめ神々の聖なる城を守り奉る守護天使たちよ。その両翼を聖なる盾として、神々の僕である我らを...。」


「え?どういうことなの?」


″神笏″の先をミミーの方に向けると、未だ状況を理解できずにいるミミーの前に、目が眩むような光の壁が幾重にも発現した。


舞鬼は″光の壁″の詠唱とほぼ同時に、反射的に右腰の″魔王の剣″を抜き、その鋭い剣先を牛若丸に向けていた。


「この猫は、獅子王だ!」


ハイエルフと猫から感じるのは、過去に感じたことがある禍々しい魔力だった。

そして、もはや隠すのはやめたとばかりに、彼らからは、膨大な魔力が、火口から流れ出てくる溶岩のように溢れ出ている。

渦巻く濁流となった魔力の中心で、猫は、毛の色を徐々に消していき、ついには雪のように純白となった体を徐々に大きくしていくと、気がつけば、見上げるほどの巨躯となっていた。

白帝城のように白く、雄々しい立髪と、何物をも燃やし尽くすような真紅の眼光、そして魔王としての威厳を体現したかのような圧倒的な存在感は、まさに獅子王であった。


「久しいな、舞鬼よ。」


純白の巨獣は、不敵な笑みを浮かべて、口元に鋭く巨大な牙を覗かせている。


「やはり貴様か!獅子王!」


舞鬼は絶叫した。

心の中にあるのは、恐怖などではなかった。

あるのは、熱い高揚感と強烈な敵意であった。


舞鬼は、左腰の鞘から″大天使の剣″を抜き放つと、地面を強く蹴り、そして力の限り跳躍した。


「今度こそ貴様を討つ!」


獅子王の頭上に、二本の魔剣が振り下ろされた。

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