第18話 多数決
「獅子王が消えた?それってどういうことなの?!」
ミミーが身を乗り出してきた。
「獅子王の魔力が、少し前に、まったく感じなくなった。」
「それって、僕たちが気づかれたってこと?」
「それはわからないが、獅子王の近くで感じていた、もう一つの大きな魔力も感じなくなった。」
「この先には、誰もいないってことなのか?」
リドルノートは冷静を装っているが、獅子王追跡の前提が揺らぐ事態の発生に、心中は穏やかではないはずである。
「いや、獅子王の魔力を感じていた場所には、猫を連れたエルフの少女が1人いる。」
判断材料が不足しているのだろう。
望遠魔鏡を覗く舞鬼は、リドルノートの問いかけに対して、手短に答えた。
「少女と猫?どういうことなの?僕にもわかるように言ってよ!」
「しっ!あまり大きな声を出すなよ。危険な距離まで近づいてるんだからさ。」
リドルノートは、人差し指を唇に当てた。
「ご、ごめんなさい。」
叱られたミミーは、今にも泣きそうである。
「大丈夫だ。獅子王はいない。獅子王は、巨大な純白の魔獣だが、この先にいるのは、魔力を全く感じないエルフだけだ。」
「獅子王と戦ったことがある舞鬼さんが、そう言うのなら間違いはないんだろうけど...。」
「だったら、ヤツはどこに行ったんだ?」
舞鬼は、首を傾げているリドルノートに、望遠魔鏡を渡した。
「あぁ、あれか。確かに猫を連れた女の子しかいないな。」
リドルノートは、望遠魔鏡をミミーに手渡した。
「たしかに...。この先にいるのは可愛い女の子だけだね。」
「あぁ、可愛い女の子しかいない。」
「え?あんな幼い女の子が好きなの?リドルノートって変態ロリコンなんだね。」
「お、お前が可愛いって言ったから俺は...。」
舞鬼は、ミミーとリドルノートの会話に割って入った。
「私は、あの女の子が、獅子王と無関係だとは思えない。」
「あの女の子の心は、獅子王の魔法で支配されているような気がする..。」
「またそれか...。」
リドルノートは呆れ顔で、ため息をついたが、″支配の鎖″の効果によって、獅子王にまとわり付かれている牛若丸が、この場にいたら、ミミーの意見に同意していただろう。
「はっきりさせるには、あの女の子に接触する必要があるな。」
ミミーは、眉をひそめている。
「やっぱり、あの女の子が気になってるんだ..。」
「いや、だからそうじゃないって!いい加減にしないと、怒るぞ!」
「リドル、静かにしないといけないんだよ。シー。」
「く...。」
2人の痴話喧嘩にも似た、他愛もないやりとりをよそに、舞鬼の表情が、いよいよ険しくなっている。
「舞鬼、何か気になることでもあるのか?」
「さっきも言ったが、エルフなのに、少女から魔力をまったく感じないことがな。」
舞鬼の疑問に、2人は顔を見合わせた。
「たしかに、エルフだったら、それなりに魔力を帯びているはずだよね。」
「戦士タイプの舞鬼や半蔵殿でも、魔法は使うからな。」
「私は、魔力を隠蔽していると思う。」
舞鬼は言い切った。
「確かにそうだな。しかし、魔力をゼロの状態まで抑えることなんて、できるのか?」
リドルノートの表情も険しくなってきている。
「僕たちだって、魔力隠蔽をしてるよ。」
「俺たちは、獅子王を警戒して隠蔽しているが、あの女の子は、何に対して警戒しているのかが問題なんだ。」
「リドルって頭いいね。だとすると、僕たちのことがバレているってことじゃない?」
「この濃い魔力で満ちた砂漠で、極限まで魔力を抑えている俺たちを感知したうえで、魔力をゼロの状態まで隠蔽できるやつがいたとしたら、そいつは、獅子王じゃなかったとしても、化け物だぜ。」
リドルノートは、動揺を隠せない。
「でも、舞鬼さんも、獅子王の魔力を感知できてるよ?」
「舞鬼も十分な化け物だからなぁ。」
「私を化け物扱いしないでくれ。」
顔を赤くして抗議する舞鬼を見て、ミミーが口を押さえて笑うと、他の2人も、つられて笑った。
「たしかに、リドルノートが言うように、接触する必要があると、私も思うが...。」
「俺は、このまま進むにしても、撤退するにしても、決断するなら、今しかないと思う。」
「だったら、いつものように、アレで決めるのは、どうかな?」
ミミーが言う″アレ″とは、多数決のことである。
積極的な行動を好む舞鬼と、中立的で冷静沈着なリドルノート、そしてリスクを極力避けようとする臆病なミミーという、異なる性格の3人による多数決で、選択ミスということが、これまでなかった。
そういうこともあって、この3人は、重要な局面では、必ず多数決で方針を決めていた。
「そうだな。この状況なら、俺も多数決で決めた方がいいと思う。」
「私も、ミミーの意見に賛成だ。」
舞鬼は、2人と向き合った。
リドルノートは、いつになく、緊張した面持ちである。
そして、言い出しっぺのミミーは、いつも以上に怯えた目で、周囲をうかがっている。
「このまま先へ進んで、少女と接触することに賛成の者は、手を挙げてくれ。」




