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第14噺 王都ウェルス

白帝城の西にあるウェルスは、様々な商店が競うように立ち並び、多くの商人や冒険者たちで賑わう商業都市である。

そして、ウェルスランドの王都として、国の中枢機能を包括的に担う、政治の中心地でもある。


普段は、港で陸揚げされた舶来物や各地から集まった珍しいアイテムが、所狭しと店頭に陳列され、往来する様々な人々で賑わうウェルスであるが、今は混乱の真っ只中にある。

市中を往来する商人たちの姿はなく、店先には休業のプレートが吊り下げられ、慌ただしく動く兵士以外に出歩く者はいない。


白帝城の周辺に設置されている魔力計が、大きな魔力を捉えたことに端を発し、王都ウェルスが大きく揺れているのだ。


魔力を感知したのは、今から8日前のことである。


あまりにも大きすぎる魔力であったため、すべての魔力計が振り切ってしまい、正確な数値を計測することができなかった。


そして、魔力計が大きな魔力を捉え始めて間もなく、ウェルス東方の洋上で巨大なキノコ雲が立ち上がった。

その膨大なエネルギーが引き起こした衝撃波と津波は、広範囲に被害をもたらし、交易において重要な役割を果たすウェルス港が、壊滅的なダメージを受けてしまったのだ。


ウェルスランド政府は、魔力感知を含めた一連の異変が、獅子王によるものであると断定し、これを魔物の大群による再侵攻の予兆であるとして、王都ウェルスに戒厳令を敷いた。


このような状況を憂いた王は、ヒューマン族、エルフ族、ドワーフ族、ドラゴニュート族、そして獣人族によって構成する5大ギルドマスターたちに対して、ウェルス城に集まるように呼びかけた。


ギルドとは、職種や目的によって集まるグループの総称であるが、数あるギルドの中でも、構成員が最も多く、強い結束力を有するのは、彼らのような同一種族によって組織するレイシャルギルドである。


今、レイシャルギルドを代表する5人が、王の招集に応じて、王都ウェルスの中央にあるウェルス城の一室に集まっている。


しかし、呼びかけた王はいない。


男たちは口を固く閉じて、沈黙を守ったまま、円卓を囲んで睨み合っている。

彼らの険しい表情が、ことの重大さを物語っている。

そんな重い空気を破ったのは、チンギス・ア・ハーンであった。


「少し前に、白帝城で凄まじい魔力が検出されたことは、既にご承知のことと思う。そして、これに関連して、ウェルス港が壊滅的な被害を受けている。」


この大柄で筋肉質な男は、ヒューマン族のレイシャルギルド″戦神″のマスターである。


「これらのことは、どこかの誰かが、白帝城を攻撃したことが原因だと考えているが、なぜ盟主である俺に対して、何も報告がないのか?」


ハーンの鼻息は荒い。


そして、大きな声で「これは盟約違反だ。」と言い放ち、テーブルを殴りつけた。

広い部屋に、乾いた音が響き渡る。


ハーンが言っているのは、5つのレイシャルギルド間で交わされた同盟憲章のことである。

それぞれのギルドにおける重要な軍事行動は、盟主に対して、事前に報告をして、許可を受ける必要があり、報告を受けた盟主は、他の同盟ギルドに対して通知をしなければならない取り決めになっているのだ。

それは、白帝城に対するものであっても同様である。


「まるで、我々が抜け駆けをしたかのような言い草ではないか!」


ハーンの無礼な言動に、髭面で、ずんぐりとした体型の男が噛み付いた。

男の名は弁慶という。

近接戦闘を得意とするドワーフ族で構成するレイシャルギルド″鉄神″のマスターである。


「盟主といっても、取りまとめ役に過ぎない貴殿が君主面するのは、おかしいのではないか?」


ドラゴニュート族のリュウトも、ハーンの上からの物言いに釘を刺した。

ドラゴニュート族は、背中に生えた翼を使って空を飛ぶことができる。

この種族によって構成されるレイシャルギルド″龍神″のギルドマスターであるリュウトは、さらに続けた。


「王都の危機を救うために、我がギルドの7割以上を連れて参陣したというのに、ヒューマン族は、我々を歓迎していないようだな。」


ヒューマン族は、このマジックジェネシスにおいて、最も非力な種族であるが、その数は全人口の7割を占めている。

このダーウィンにおいても、ヒューマン族は、数において主要な種族であることから、政治、経済の両面での影響力は強い。


戦神は、この都市で最大のレイシャルギルドであり、ギルドマスターのハーンは、ウェルス港の代官として得る莫大な富を背景に、政府に対する強い発言力を有している。


そして、ウェルスランド王国で力を持つハーンは、政府とのパイプ役として、ギルド同盟の盟主の座に収まっているが、弁慶たちが言うとおり、ハーンと、他のレイシャルギルドとの間に主従関係があるわけではない。


獣人族ギルド″狼神″のマスターであるガロウも、堰を切ったように、ハーンに詰め寄った。


「リュウト殿の言うとおりだ!王の求めに応じて来てみれば、俺たちは犯人扱いか?!」


「そんなことは言っていない!」


「そもそも、貴様のギルドの者が抜け駆けをしている可能性だってあるじゃないか!」


「なんだと?!もう一度言ってみろ!」


「可能性を言っている!」


「貴様!」


ハーンは激昂し、腰の剣に手をかけた。


ここで、エルフ族のレイシャルギルド″風神″でサブマスターを務める半蔵が仲裁に入った。


「あなたはギルド同盟を破棄して、種族間で戦争を始める気ですか?」


「サブマスターごときが口を挟むな!」


「私はギルドマスターの名代として、ここに来ています。つまり、私への侮辱は、ギルドマスターに対する侮辱になりますよ。」


「俺のギルドが疑われたのだぞ!」


「それは、お互い様でしょう。」


半蔵は、ため息を一つついた。


「盟主殿には事前に報告していますが、何が起こっているのかを調査するために、当方の精鋭を白帝城に向かわせています。」


だから調査結果を待つように、と半蔵は言ったが、ハーンの怒りは収まらない。


「俺の″戦神″は、この王都を拠点にしているんだ。それに、俺は王都の守護を任されているんだぞ!」


「あなたに課せられた責任や立場の重みは、理解しているつもりです。だからこそ、舞鬼をリーダーとする精鋭部隊を白帝城に向かわせたのです。」


「無断で白帝城に手を出すことを禁じているにも関わらず、どこかのバカが、獅子王とやり合ったせいで、このウェルスが危険に晒されてるんだぞ!」


ハーンが言うように、許可なく、白帝城を攻めることは禁じられているが、これには理由がある。


今から約3年前に、ウェルスランド王が、遠征軍を編成して、白帝城の攻略を試みたことがある。


少人数のパーティーであれば、白帝城の最奥にある玉座の間まで、何の障害もなく行くことができることは広く知られているが、あまりに城の主である獅子王が強く、一向に攻略が進まなかったため、大軍によって、魔王を討伐しようとしたのである。


しかし、このことが王都ウェルスに、最悪の厄災を招いたのだ。


ウェルスランドの遠征軍は、白帝城を攻め立てたが、城の守りは厚く、城壁の内から這い出てきた魔物たちによって、遠征軍は全滅してしまった。


しかし、問題はそこではない。


魔物の大群が、王都ウェルスに押し寄せたのだ。

魔物たちは、ウェルス城をはじめとする、ありとあらゆる建物を破壊し尽くし、貴重な武具やアイテムの多くが失われた。


白帝城の危険性を認識したウェルスランド政府は、白帝城の周辺に監視用の支城を築き、至る場所に魔力計を設置して監視するとともに、無断で白帝城に侵入できないようにした。


「ハーン殿は、金づるのウェルス港がやられて、どうかしてしまったのではないか?」


「ウェルス港にご執心だったからな。」


「弁慶殿もガロウ殿も、そのような言い方はおやめ下さい!」


ついに、ハーンの怒りは頂点に達した。


「お前たちは、ここを拠点にしているわけではないから、他人事でいられるんだ!もうお前たちと話すことはない!」


ハーンは席を立ち、出口に向かおうとした。


「ハーン殿も冷静になってください!」


「出て行きたい奴は、出ていけばいい。」


「リュウト殿もいい加減にして下さい!」


「ハーン殿...。」


半蔵の表情が変わっている。


「重大事だと考えているから、あの舞鬼を送り込んでいるんですよ。それとも何か?あなた方のところに向かわせた方がよかったですか?」


半蔵の目が刄のように冷たく光る。

ハーンは、半蔵の凍てつくような殺気に、色を失った。


「す、すまない。ウェルス港のこともあって、少し熱くなりすぎたようだ。他意はない。失言があったことは謝る。」


「わ、私も冷静さを欠いていた。先ほどの発言を撤回させてもらう。すまなかった。」


ガロウは、ハーンにではなく、半蔵に対して謝罪した。


「獅子王との戦闘経験がある舞鬼殿が向かわれたのであれば安心だ。私も謝罪をさせてもらおう。本当にすまなかった。ウェルス港の復興にも協力しよう。」


リュウトは、半蔵とハーンに頭を下げ、双方と握手を交わした。


弁慶は、まだ腹の虫が治らないようである。

あごひげを触りながら、憮然とした表情で「貴様のウェルス港が、どうなろうと知ったことではないわ。」などと悪態をついている。


「皆様のご配慮に、感謝致します。」


半蔵は、先ほどとは打って変わって、柔和な表情で謝意を述べた。


「とにかく、偵察部隊の報告を待ちましょう。それまでは、王都の守りを固めることに力を注ぎましょう。」


そう言って一礼すると、半蔵は煙のように消えた。

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