第13話 勇者と猫のぶらり旅
牛若丸たちは、魔力回復のために、10日ほど滞在していた白帝城を後にした。
振り返ると、崖の頂上にある白帝城が、夕陽に照らされていた。
この城は、強い魔力を含む白狼石でできており、石が放出する魔力が空気と反応するため、白く発光している。
そのため、日が沈むと、城全体が白く浮かび上がったようになるのだが、日没前の白帝城は、夜の幻想的な美しさとは別の艶やかさがある。
夕陽に赤く染まる白帝城を見て、牛若丸は思った。
綺麗だな、と。
牛若丸たちが向かっているのは、西の大国ウェルスランドの王都ウェルスである。
分身体に入った獅子王は、尻尾をピンと上に向け、トコトコと猫のように歩いている。
栗が上に乗ったモンブランを食べることで、頭がいっぱいなのだろう。
機嫌良く、ゴロゴロと喉を鳴らしている。
牛若丸は、少し先を歩く獅子王に話しかけてみた。
「聞きたいことがあるんだけど。」
獅子王は耳をピンと立てて、少しだけ立ち止まり、後ろの牛若丸を一瞥すると、再び前を向いて歩き始めた。
「答えることができる内容であればな。」
「答えられないことがあるの?」
獅子王は黙っている。
質問されると、困る何かがあるのかもしれない。
「獅子王ってさ、僕との戦いで倒れちゃったけど、あれって、魔力切れが原因だよね。」
獅子王は、フンッと鼻を鳴らした。
「あれほど魔力を大量に使ったのは、あの時が初めてだったからな。」
牛若丸との戦いに敗れたことが、よほど悔しいのだろう。
機嫌が悪い猫のように、耳を後ろに寝かせている。
ーー わかりやすい性格だな。
「獅子王は魔力切れで倒れたあと、すぐに立ち上がったよね。」
「あぁ、立ち上がったぞ。」
「でも、それとは逆に、まだ魔力に余裕があった僕が、急に魔力切れの状態になったよね。」
「そのことか。」
″支配の鎖″の効果が発現すると、勝者は支配者として、敗れた者の命を守る義務が生じることと、ひどい魔力切れを起こしていた獅子王を癒すために、牛若丸は、大量の魔力を持っていかれたということが、獅子王の説明でわかった。
つまり、魔王に取り憑かれてしまった牛若丸は、魔力を使い果たした魔王を癒したことで魔力切れを起こし、強制ログアウトしてしまったのだ。
「それって、かなり迷惑な話だよね。」
「しかし、俺は忠実な従者として、強制ログアウトしたあとの若様を守り続けたんだぞ。若様の寝顔は、すごく可愛かったぞ。」
「強制ログアウトすると、睡眠状態になるんだ。」
牛若丸は、獅子王に対して、ペコリと頭を下げた。
「ありがとう。」
獅子王が頼もしい相棒のように思えた。
「主人を守るのは当然のことだ。礼を言う必要はない。」
と言いながらも、満更でもない様子である。
獅子王は再び足を止めて、後ろを振り返った。
「俺も、若様に聞きたいことがあるのだが、よいか?」
「答えることができる内容だったらね。」
牛若丸は、仕返しのつもりで意地悪く答えたが、獅子王は構わずに質問を始めた。
「若様が、世間ではあまり知られていない聖級魔法を使用したことが気になっているのだ。」
「あぁ、そのことね。」
牛若丸は、足を止めている獅子王の横を通りすぎて、短く答えた。
「僕は、ハイエルフなんだ。」
マジックジェネシスの世界には、ヒューマンやドワーフなどの様々な種族が存在するが、ハイエルフは、ほとんど出会うことがない、極めて希少な種族である。
「おぉ!ハイエルフだったのか。ならば俺が負けたとしても不思議はない。」
と、そこまで言ったところで、獅子王は妙な顔をした。
「いや、そうではない。ハイエルフであることと、聖級魔法が使えることは、まったく別の話だ。俺は、いつ、どこで聖級魔法を覚えたのかを知りたいのだ。」
牛若丸は、そんな獅子王の様子を見て、クスリと笑った。
「まさか、神級魔法も使えるのではないのか?」
「それは答えられないな。」
牛若丸はそう言うと、今度は大きく笑った。
「若様は、意外と意地悪だな。」
獅子王は、むすっとしている。
「いつか教えてあげるよ。いつかね。」
獅子王の反応が、よほどおかしかったのか、それとも、箸が転んでもおかしい年頃だからなのか、牛若丸は、まだ笑っている。
「約束だぞ。絶対に教えるのだぞ。」
からかわれている獅子王が、真剣に念押しをしたものだから、とうとう牛若丸は、腹を抱えて笑い出した。
獅子王は憮然としながら、牛若丸の横に並び、再び歩き始めた。
牛若丸たちが、このようなやりとりをしていた頃、彼らが向かっているウェルスでは、王命によって各地から戦士や魔法使いが集められ、その数は日ごとに増していた。
そして、大量の武具や魔道具、そして大量の兵糧が城内に運び込まれるなど、戦支度で慌ただしい状態にあった。
原因は、獅子王が、牛若丸との戦いで放ったホワイトボールである。




