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第10話 ログアウト!

「何だよ!そんなの聞いてないよ!」


少年は、蹴るようにしてベッドから飛び起きた。


窓の外は、雲ひとつない青空が広がり、小鳥たちが楽しそうにさえずっている。

しかし、心の中は、青空を吹き飛ばすほどの暴風が吹き荒れている。


「魔王が僕の家来?!」


ヘッドギアを外して頭を抱えている少年は、若宮一周という、13歳の中学生である。


「そんなこと、あり得ないし!」


若宮は、つい先程まで、マジックジェネシスというゲーム上の仮想世界に身を置いていた。


マジックジェネシスは、ファンタジー世界で冒険を楽しむ、自由度の高いフルダイブ型VRゲームである。

このゲームは、アップデートやマイナーチェンジを重ねるごとに利用者層を拡大させてた結果、運用開始から現在に至るまでプレイヤー数を増やし続け、プレイヤー数が1億人を超えるビッグタイトルとなっている。

そして、若宮も例に漏れず、2年ほど前から、このゲームに夢中になっている。


このタイプのゲームは、デジタルデバイスを介して人間の脳をCPUと繋ぎ、システムにログインして、プログラムによって作り出された仮想世界で、剣を振ったり、走ったり、痛みを感じることもできる。


若宮が手に持っているヘッドギアは、マジックジェネシスと繋がるためのデジタルデバイスである。


プロゲーマー等が使う身体全体を包み込むような筐体型の高性能デジタルデバイスもあるが、若宮が使っているヘッドギアは、ベッドで横になって利用する、最も普及している簡易タイプのものである。


若宮のアカウント名は、″牛若丸″である。

歴史上の英雄の幼名に因んで、この名にした。

そして、今し方まで、強大な魔力を誇る魔王である獅子王と死闘を繰り広げ、勝利は目前だった。

いや、勝っていた。

いまだかつて、マジックジェネシスの世界において、魔王を倒した者はいない。

つまり、魔王打倒という前人未到の快挙を成し遂げるはずだった。


だが、予想外の事態が発生した。

魔王を倒すのではなく、配下として従えてしまったのだ。

そしてその直後にシステムが、脳の過剰な負荷を感知したのか、強制ログアウトしてしまった。


ヘッドギアを机の上に置き、窓の外に目をやると、先ほどまでの死闘が嘘のような平和な光景が広がっている。


若宮は、目を瞑って心を落ち着かせた。

そして、これまでのことを思い返してみた。


若宮がマジックジェネシスのプレイを始めたのは、リリースされて8年が経過したころだった。


最初から、魔王を倒そうなどと考えていたわけではなく、他のプレイヤーたちと同じように、モンスターを狩って経験値を積み、レベルを上げて、ありふれたクエストをクリアするなどしていた。

ある時、ゲームがリリースされて8年が経過するのに、白帝城にいる魔王を倒した者がいないことを知った。


何故なのか?


この疑問が、興味となり、少年の好奇心を刺激し、若宮を突き動かした。

いつしか、謎のベールに包まれている魔王のことを調べるためだけに、マジックジェネシスにログインするようになっていた。


様々な街を渡り歩き、魔王のことを聞いて回った。


調べ始めてすぐに、獅子王という名の魔王は、純白の毛に覆われた獣で、見上げるほど、体が大きな割には、動きは豹のように俊敏であること。

そして、岩をも切り裂く鋭い鉤爪は魔力を帯びており、一撃でも食らえば致命傷となることなど、漏れ伝わる恐怖伝説は、獅子王が、とんでもない怪物だということだということを物語っていた。


しかし、最も重要なのは、大きな体や鉤爪などではない。

底なしとも思える魔力である。


一体を錬成するだけでも、相当な魔力を消費するゴーレムを大量に生み出し、プレイヤーたちを踏み鳴らして蹂躙するという。


これまで獅子王に挑んだプレイヤーの多くは、大人数によるパーティーを組んで、多重攻撃を行なっているが、例外なくゴーレムたちによって粉砕されている。

この事実は、物量に頼った攻撃では、ゴーレムの攻略が難しいことを示している。


極め付けは、″支配の鎖″という神級魔法である。

この魔法には謎が多いが、魔王から流し込まれる魔力量に耐えられなくなると、支配されてしまうというとこりまでは判っている。

″支配される″いうのは、時間をかけて育ててきた大切なキャラクターが乗っ取られるということを意味している。


底なしの魔力を持つ獅子王と、真正面から勝負をしても勝ち目はない。

みすみす自分のキャラクターを献上しに行くようなものだ。


どれだけ調べても、獅子王に弱点らしいものは見当たらなかった。

もはや魔王打倒は、攻略不可能なクエストとしか思えなかったが、一つだけ気になる情報があった。

高ランクプレイヤーが一人になった時に、必ず″支配の鎖″を発動させていることだ。

もしかすると、″支配の鎖″には、一人のプレイヤーにしか発動できないといった制約があるのかもしれない。


″支配の鎖″が、魔力消費量が桁外れに多いため、複数のプレイヤーに使うことができないのではないかとも考えた。

もしそうであれば、獅子王の魔力量は膨大であっても、無限ではないことを意味している。


直感ではあったが、この″支配の鎖″こそが、獅子王打倒の突破口だと思った。


あえて単独で挑んで、″支配の鎖″を使いたくなる状況を作り出してはどうか。


″支配の鎖″によって流れ込む魔力を逆に利用することはできないか。


″支配の鎖″に関する、たった一つの情報から、ジグソーパズルのピースをはめていくように、丁寧に作戦を立てていった。


隠蔽魔法を使って魔力などを偽装し、魔法が使えないと誤信させて油断させるなどして、作戦は、怖いくらいにうまくいった。

獅子王が、ホワイトボールという魔力弾を放つまでは。

追い詰めまれた獅子王が、ホワイトボールという魔力弾を放った時から、作戦に綻びが生じた。


若宮のシナリオにはない攻撃だった。

それもそのはずである。

これまで、誰も獅子王は追い詰めたことがなかく、ホワイトボールが使われたこともなかった。

当然、魔力が尽きたあとの獅子王が、勝者の従者となるという情報も、あるはずがなかった。


獅子王が牛若丸の従者となった直後に、瀕死の状態だった獅子王が、急に元気になり、逆に牛若丸には魔力切れの症状が出て、強制ログアウトしてしまったが、その理由も判っていない。


魔王は悪の象徴であり、打倒する対象である。

それ以外に存在意義はない。

魔王が部下になるなど、もってのほかだ。


知らなかったことや、わからなかったことの代償は、あまりに大きかった。


今、白帝城で、牛若丸と獅子王がどうなっているのかもわからない。


確かめなければならないことは、たくさんある。

落ち込んでばかりは、いられない。


意を決した若宮は、獅子王がいるマジックジェネシスの世界に戻ることにした。

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