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たからばこを開けたらどろぼう!  作者: KillYou_1729
第一章 死を乗り越えて
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第四/五話 教育は嫌がる子にこそ

ハム(私)……この物語の主人公。生まれと頭と性格が悪く、顔は良い。

レオンハルト……ユウシャ。マ王はすでに討伐しており、ハーレムの女たちと悠々自適に暮らしている。

ユウシャ・ハーレムに入れられてしばらくして、毎日のように国語の家庭教師が部屋にやってくるようになった。レオンハルトに曰く。


「読み書きもできんやつは俺様のハーレムには要らんからな。頑張れハム!お前のダウナーボイスで官能小説読み聞かせ寝落ちもちもちができるようになるんだ……!」


その他にもマナー講師、プロギャンブラーなどが住み込みで働いており、ハーレム内の教育レベルの低い女の子に社会を生きる術を教えている。


これでも私は慎重派、最初のうちは大人しく学習に参加するつもりでいた。読み書きができることは決してマイナスにならない。弱者として生まれ落ちたからには勉強が唯一の対抗手段だ。.......しかし、コミュニケーション能力的に厳しいことが分かった。

毎回授業が近づくほどお腹が痛くなる。


今日も家庭教師が部屋に来る前に抜け出し、庭にある木の上に隠れていた。どこか楽になったけれど、誰かが下を通りかかるたびビクリと肩が震える。


抜け出すべきではなかった、そう分かっているのだけれど。正解をそう認められない人間だからこそ、私は何をやってもうまくいかなかったのだ。


一度は逃げたという事実がさらに首を絞めることもわかっている。でもでもだってbutしかし。


ああ、私は最高に愚かだ。背中に手を回して自分を強く抱きしめる。拒食に傷つけられた腕には碌に力が入らず、また体も痩せさらばえたままで、その頼りなさに泣いてしまった。

別の枝に住んでいる小鳥がピィーっと翼をはためかせる。


(ごめん、ごめんなさい)



ハムの部屋。


「いえ、あの子は真面目なのです。聞くだけではなく、積極的に学び実践しようとします。しかし......ペースは遅く要領を得ないことも多々あり、それもあってか徐々に授業を嫌がり逃げ出すようになりました。」

「うーむ……今日は1ミス1ピストン鬼畜レッスンのつもりだったのだがな……まさか貴様ら……ハムに何かしたのではないだろうな…」


裸のレオンハルトが家庭教師の女をじろりと睨め付ける。自分の女に手を出すことは絶対に許さない___これは武名と同様によく知られていた。


ハムの目の深いクマは消えず、レオンハルトがいない間は寝ていないようだ。彼が訳アリの女の子を引き取ったことはコレが初めてではない。しかし、底なしの財力と武力をもってすればたいてい股を濡らして感激させることができた。


「長いこと独りで生きてきたらしいですし、信頼関係の構築が苦手なのかもしれません。」

「それは時間が解決するものか?」

「必ずそう、とは…。」

「ハァ…...俺様が何をしてもいいと言われれば気が済むまで寝てやるがな。」


最近、ため息が多い。頭をさすると机に置いてあった筆を取り上げた。インクとノートは手付かずで丁寧に机の隅に置かれていた。


「これは?」

「水を使って文字を練習した跡ではないかと。下級貴族がよくやる練習法ですわ。」

「ああ、懐かしいな。せっかく最高級のモノを用意してやってるのに。」


文具だけではなく、部屋もほんの一部分しか使用していないようだった。せっかくの茶器に埃が積もっている。気性の荒い野良猫を引き取った気分だ。


「そういえばハムは呪に侵されていたんだったな。」

「ええ、今のところ症状は出ておりません。腕利きの解呪師が到着すれば解除できるでしょう。」

「ま、楽に構えよう。一度抱いた女は必ず幸せにしてきたのが俺様よ。」


裸コートを翻して他の女を抱きに行く。すぐに隣の部屋から水音と嬌声が響き始めた。


(あの方、一日の殆どを情事に費やしていませんか?よくやりますわね、逆に……)


ユウシャが女たちに注ぐ愛情は……歪だ。まあ、彼は生徒じゃないのだから言及する必要もない。この世は二種類の人間しかいない。小さな子供と大きな子供だ。

呆れつつも女教師は宿題の作成を始めた。



それから。

私はボーっと小鳥を見つめていた。人慣れしているのか逃げもせず、私が泣き止むとスヤスヤ眠り始める。ああ、赤ちゃんは目を閉じているだけで可愛いなぁ。腹痛が引いていくのを感じた。触っちゃダメかな。


こうしていると子供の頃を思い出す。子供の頃から友達作りは苦手で、外遊びの時間はいつも一人で木に登っていた。ある日、木登りをしていると掴んだ枝からぬるっとした感触があった。正体を改めてみると、それは鳥の卵だった。

急いで水道水でそれを洗い流した。せんせいが無知で邪悪な子供を朝礼で叱っていた。


ブンブン、頭を振って嫌な記憶を振り払う。まったく、嫌な記憶ばかり思い出してしまう。深呼吸して目を開くと。

いつの間にか、だった。


「なにしてるんだ、お前?」


大きくて透き通った、アクアマリンのような瞳。知らない少女が0距離から覗き込んでいた。


「私はアクアマリン、よろしくな。お前もこの小鳥を愛でにきたのか?」

「あッ…!………!」


返答は言葉にならない。一瞬遅れて体が大きくのけぞる。


(あっ)


そのまま挨拶をしようとしたモノだから舌を痛烈に噛んでしまい、錆の味が口の中に広がる。


(あっ、痛っ、あっ……)


パニックになってバランスを崩し、木の上から落ちかけそうになる。


(あっ)


あわてて他の枝に捕まろうとするが、その拍子に鳥の巣を落としてしまう。


(あっ)


地面まで3mあまり。『落ちたら骨を折る』『騒ぎになる』『いや死ぬかも』『加速感がヤバい』『受け身を取らなくては。』色々な思考が押し寄せる中で、私の目の前に鳥の巣がキリモミしながら落ちてきた。咄嗟に抱き寄せて、雛たちを衝撃から保護する。


私は頭を強かに打ち付けるつもりだった。衝撃に備えて目を瞑る。しかし、何も訪れない。……目を開くと、青瞳の少女が私をお姫様抱っこしている。鳥のような身のこなしで、しかし海の丈夫のような力強さだ。


「……まず、雛は軽いから落ちても死なねえしあんま助けなくていいよ。あと、正面から声かけたのにそこまで驚かなくても良くね?傷つく。あと、何で鳥を見てる時すら挙動不審なの。あと、なんでこんなことにいるの?え、すごいな。一呼吸で何回突っ込ませるつもり?えーと、ハーレムの新入りだっけか?」


かわいい、cute。それが救世主に対する最初の印象だった。もちふわな肌に大きい瞳、ボブカットはサイドを伸ばし、青に染めている。耳から下がるイヤリングが揺れてカランと音を立てた。


「とりあえず涙拭けよ。『ヒーリング。』あ、舌も噛んでるのか。」

「もが」


しかし丸メガネやオーダーメイドのビジネスウェアは高い知性を象徴していた。胸ポケットからシルクのハンケチをしゅるりと取り出し、涙を拭う。さらに、躊躇いなく口の中を拭って、地面に降ろす。女の子…だよね?うん、スーツ越しに微かに胸が膨らんでいるのがわかる。


うん。どういう反応すればいいか分からないからとりあえず話せないフリから入ろう。まあどうせマトモに喋れんしなガハハ。


「あ___うっ」

「ああ、お前話せないんだっけ?___でも言っとくわ。驚かせてごめんな___それと。

_____お前が庇ったおかげでヒナは無事だ。」

「っ」


嬉しい。人に褒められるのは、非常に。ただでさえ顔が赤くなっていたのに。


「『よく頑張ったな』。」


彼女はヒナを木の上に戻すと、輝くように笑って、額を撫でてくれる。

口の中の錆臭さを忘れた。目がしらが熱くなり、涙がとめどなく溢れる。情緒がままならなくなるのを自覚した。あ、この人も____好きだ。


「うっ…あああっ…あー!!!あーーーーーっ」


涙の裏では妙に冷静で気持ち悪い私がいた。

(私、もしかするとあなたが好きです。それに気づいてる?結婚してあげてもいいですよ。二人でどこかに駆け落ちしましょう)…….こんなトリップした思考に恥ずかしくなって叫んでしまう。


「おいおい、大丈夫かよ…。真昼間から泣き叫びやがって......そうだ、私の部屋に来るか?珍しいモンがいっぱいある…。」


手慣れた大人の対応が一応私を落ち着かせてくれた。何が結婚だバカやろう。


△視点変更


小さな手を取りエスコートする姿を、レオンハルトは屋上から眺めていた。彼は公でない場には珍しく、きちんと服を着ていた。

隣には漆黒の乙女、マギカに決して視線を注がなかった。その装いは深窓の令嬢のように整っているのに、なぜだろう。虫の死骸を見てしまった時のような不快感を覚えさせる。


二人の間には会話がなく、木枯らしと、マギカがチェスのポーンとナイトをぶつけて遊ぶ音だけが響いていた。


「言ったでしょう?姉御肌なアクアちゃんと、依存対照を求めるハムちゃん。愛情の欠乏した二人ならうまくいくって。」

「そうだな。」

「そんなに距離を空けないでよ。取って食おうって訳じゃない。」


不意に風が雲が切り裂き、夕陽が溢れる。乙女の影が花壇に投影される。

強酸の液をかけたように、じゅううと何かの爛れる音がした。


「傷ついた女の子を一人助けるだけ。____私も君の大切なお姫様なんだよね?なら、手伝ってよ。」


影に隠された花が腐る。萎れた花弁が吹雪のように吹き荒れた。



無闇に触られては困るからと、脇に右腕を回して抱き上げられた。もう一方の手では高そうなコーヒーを持っている。彼女は細腕に一般人をはるかに上回る筋力を備えているようだ。ファンタジー筋と名付けよう。これでkarateの達人とかだったらますます惚れちゃうな。


「ふわぁ…。」


アクアマリンの部屋には巻物、懐中時計、絵画などが配置されていた。


「いいだろ?宝物には眼がなくてね。職業柄、機会には恵まれてる。」


確かに、素人目にもこれが高価なものであることはわかる。しかし、金持ち特有の下品さなどは感じない。無駄にひけらかすためではなく、純粋に好きだから集めているのだろう。

流暢に一つ一つのつながりを解説してくれる。


「これはレベル9995モンスター『アベリア界の守護者』が纏っていた鱗。対に配置してあるのがそれを討伐した『炎獅子』が使っていた地図。今でも水と炎の魔力が残っている。…分かんねえよな。ふふ、ウザがれられないからいくらでも話せちゃうぜ。」

「がう。」


いえいえ、一言一句聞いておりますともアクアマリンどの。返事ができないのが残念だ。___今度こそ、授業を真面目に受けていれば理解できるだろうか。


しかし、こんなに幸せでいいのだろうか。短期間に好きな人が二人もできてしまった。一人は勇猛な勇者、一人は知的なレディだからバランスも取れている。アクアマリンさんは何をされている方なのだろう。勇者ハーレムに入りながら、世界をまたぐ貿易商でもやっているのだろうか。


(こういう人は職業柄、別に興味はないけど仕入れる必要があるから、高級ブランドや茶葉とかに詳しくなりそうだよね。一緒にカフェに行ったら絶対楽しいよなぁ。人間としての深みというか。)

「クク、崖ぎわに立たせたら簡単にウタってくれたんだよなぁ。ああ、海賊冥利に尽きるってもんだ。」


…….海賊?ウタってくれた?脅迫?


咄嗟に体を硬くしたが、強く抱きしめられ、顎をクイッとされる。顔と顔が0距離に近づく。清涼なコロンでは誤魔化されない獰猛な気配を瞳の奥から感じる。


「聾唖か。何でも話せるってのはいいな。妹分として可愛がってやるよ。」

「ぅが…。」


もしかすると、こわ〜い人に目をつけられたかもしれない。お腹の奥がすごーく寂しくなる感覚がした。


レオンハルトは毎日、ノルマのようにマギカの元へ訪れ、決まった時間が過ぎると去っていく。

一人になっても、マギカは興味しんしんでナイトとポーンをぶつけ合っていた。

かちゃかちゃかちゃガチャ。


かちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃかちゃ。

ちゃか。


ガチャ!!!!!

とナイトの駒にヒビが入り、砕け散る。


「あーあ。ざんねん、おまえは死にました。」


あはははは、と乙女は口を隠して笑う。頭上には満点の星空が広がっていた。

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