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第98話 土魔法(3)

 振り向いて相手を確認する。棒の先には光が集まり、すでに魔法のチャージが八割方完了している様子に見える。もう一体の中衛も健在だ。いつこちらに向かってくるかわからない。ゴブリン・メイジに止めを刺す前に魔法が発動しそうだ。

 武器、武器は……クナイ!

 腰裏のベルトに留めてあるクナイを走りながら抜き、逆手に構える。

「させないよッ」

 ゴブリン・メイジの構える棒に掴みかかり、右手のクナイで敵の手の甲を串刺しにする。

「ギャーッ」

 思わず手放した棒を掴んでそのまま後方に転がり離れる。ゴブリン・メイジは左手を押さえてうずくまっている。

「グギャ、ウココ」

 ゴブリン・メイジの指示で中衛ゴブリンがこちらに向かってくるのが見える。奪ったゴブリン・メイジの武器を背後に隠し、低い姿勢で向かってくる敵を見据える。

 どうしたものか。手持ちの近接武器ではリーチが足りない。

「おまえの相手は俺だ!」

 大きく振りかぶった直剣が中衛ゴブリンに襲い掛かる。ヒコだ。

 わざと大振りにした攻撃に反応して中衛ゴブリンが小盾を構える。ヒコは小盾の中心を狙って重い一撃を振り落とす。真正面から受けた中衛ゴブリンは衝撃を受け流すことができず、全身を硬直させて耐えるしかない。一瞬動きが止まった隙を見逃さず、翻ったヒコの直剣が敵の右腕を切り落とす。

「グワーッ」

 中衛ゴブリンに止めを刺したヒコは、そのままゴブリン・メイジに肉薄し一刀両断に切り捨てた。

「道庭君の左はつまらないわね、敵が残らないから。次から右側にしようかしら」

 好戦的な台詞を吐いている白井さんもきっちり担当分を倒したようだ。

「えーっ、なんで?あんなに活躍したのに、戦果なしはオレだけなの?」

「前衛を取りこぼしてすまなかった、ヨギ」

「勝手にとどめ刺しちゃってごめんね、ヨギくん」

「一発目の魔法、止められなくて悪かったよ、ヨギ」

「あんた、腰抜かしてたじゃない。マジ?」

「なんか一人だけ扱いが違いますよね?それにあれは腰を抜かしたんじゃなくて砂に足を取られただけだから。ビビってないから」

「ひえ~って言ってたじゃない。聞こえてたわよ」

「ううっ、ぐすん。コウタぁ」

「ま、まあボクもあまりカッコイイ勝ち方は出来てないし。次がんばろ?」

「あれ、コウタくん、それなに持ってるの」

 ひよりがボクの手の中にある棒を珍しそうに見ている。

「ああ、これ?ゴブリン・メイジから奪い取ったんだよ。ボクが握っていたからかな、敵が消滅しても残ったみたい」

「敵の持ち物を奪うって、そんなことできるのか?」

「さあな。剣術部では聞いたことはないな」

 でも、マーマンの槍を入手したときも通常のドロップと違う感じだったし、何か条件を満たすと魔物の持ち物を奪うことってできるのかも知れないね。

「コウタ、手癖悪ぅ」

「これは『盗む』っていうスキルだよ。うん、シーカーのボクにはピッタリのスキルだね」

「いやいや、このダンジョンにはスキルなんてねーし、シーカーとか職業もないし」

「正式になくても自分で作っちゃえばいいんじゃない?コウくんのオリジナルスキルは『盗む』なんだよーって」

「……外聞が悪いからやめておきます、すんませんでした」

「で、その棒ってやっぱマジックアイテム?」

「どうだろ?」

「ストレージに収納してみなよ。名前が出るかも」

 ほいっと。

「『ロッド・オブ・ファイアボール』だって」

「「「おお」」」

 ボクと白井さん以外の三人がどよめく。

「何で?どしたん?」

「前にいったじゃんか。炎の魔法は難しいって。魔術は木火土金水と五行説に従った分類をされているけど、実は炎をあやつる術は確立されていないんだよ」

「そっか、燃料がいるんだっけ」

「そのとおり。ゲームに出てくるような炎の魔術を駆使するためには燃料が必要になる。だけどダンジョンではいわゆる燃料はほとんど入手不可能なんだわ。だから炎魔法は実用化できていない」

「なるほど。でも、実際に敵は使ってきてたよね?」

「ああ、ファイアボールを使うゴブリン・メイジの存在自体は知られている。だが、ヤツらがどうやってファイアボールを打っているのかはわかっていない。それが秘められた魔法なのか、種族的な特徴なのか、誰でも使えるマジックアイテム的なものなのか。そんな基本的なことすら十分な知識が得られていないんだ」

「このマジックロッド、今まで誰も手に入れてないの?」

「聞いたことはないな」

「超が四つ着くほどのウルトラレア品だぜ」

「ということはこのロッドは……」

「大発見だな」

「うん、大発見だ」

「うへぇ、また生徒会に目を付けられる案件?」

「とりあえず戻ったら美宮みるく先輩に相談してみよ?」

「わかった。ちなみに魔術師のヨギはこのロッド、欲しくないの?」

「いんや。オレ、魔法関係で悪目立ちするのはちょっと。もっとすべてを焼き尽くす地獄の業火みたいなレベルなら考えるけど。それにオレのマイブームは土魔法だぜ。だから、ほれ。手伝え」

「なに?」

 ヨギから手帚てぼうき塵取ちりとりを手渡される。

「オレの秘密兵器さ。こうやって使う」

 そういいながら手早く床を掃いていく。

「さすがヨギ。毎朝神社の掃除をしている人は年季が違うねぇ」

「馬鹿なこと言ってないで手伝えよ」

 ヨギに押し切られて掃き掃除を手伝う。もっとも、ダンジョン内は基本、ゴミが落ちていないので先ほどヨギが撒いた砂粒以外の物はない。

「で、集まった砂をこの革袋に戻す」

「どゆこと?」

「ん?オレが使う土魔法の媒介は砂じゃん?媒介が無くなったら魔術師は役立たずじゃん?水は床にしみ込んだり蒸発しちゃったりで回収が難しいじゃん?でも砂は再利用可能じゃん?だから戦闘後に回収すれば、オレ様はいつでも使える魔術師って寸法よ」

 あのとき言ってた秘密兵器って箒と塵取りのことかよー。

「だったら自分で回収しなよ」

「せっかく美宮みるく先輩が二組くれたんだから手伝えよー」

「なんで美宮みるく先輩が出てくるん?」

「購買に箒を買いに行ったら事情を聞かれて、砂の再利用の話をしたらサービスしてくれた」

「なっ」

 あの人、絶対楽しんでるよ。私情で購買部の商品をオマケするの、くない。

美宮みるく先輩、コウタの分って言ってたから。次もよろしく」

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