第97話 土魔法(2)
鉄つぶてをセットしておいたスリングを頭上で素早く回転、三回転目で奥のゴブリン・メイジを狙って放つ。こちらの狙いを悟らせない強襲だ。
ガツッ
「!」
防がれた?
ゴブリン・メイジの手前に控えていた中衛のゴブリンが小盾を掲げて鉄つぶてを弾いたのだ。これまで魔物たちが互いをかばうような連携を見せたことはなかった。どうやら同じ第四階層でも、ここから先は敵の難易度がワンランク上がるようだ。
「ギィィ」
大盾を少し傾けて構えたヒコがゴブリンに向かって走る。
「ふんっ!」
衝突の瞬間、大盾を持つ左の肘を内側にひねりこんで上腕に力をため、腰の入ったショルダータックルをぶちかます。大柄なヒコの上半身が一塊の質量となり大盾越しに衝撃を与える。それだけで小柄なゴブリンの二体が数メートル吹き飛ばされた。
「しまった、一体右に逃がした」
だが、ゴブリンも今までとは一味違った動きをしていた。真正面からぶつかるそぶりを見せていた三体が、最初の位置から斜め前に進んで突っ込んできたのだ。結果、ヒコと対峙したのは正面中央の二体になり、敵左翼の一体はボクの側に回り込む動きを取る。初手の投擲を防がれたボクは接近戦を仕掛けようと奥のゴブリン・メイジに向かって走り出していた。すでにトップスピードに乗っていたボクは左翼の一体とすれ違う形になり、カバーすることができない。「任せろ!」
味方の最後列から声がした。
杖を向かってくるゴブリンに突き付けたヨギが左手の巾着を逆さに振る。
ザサッと砂粒が床に落ちる。
「オレの引き立て役になってもらうぜ」
ピッと杖を床に積もった砂の小山に向け、音声コマンドを唱える。
「『サンド・ブラスト』ぉぉ」
杖の動きに追従するように、砂の奔流が空中を迸り、向かってくるゴブリンの顔面に直撃する。
「ギャワワワァ」
たまらず剣を取り落としたゴブリンが顔を掻きむしる。目潰し以上の効果があったようで、顔面から血のようなパーティクルを巻き散らして呻いている。
「とどめだッ!『サンド・ニード……』るぅ?」
「えーいっ!」
目潰しを喰らったゴブリンの頭部をひよりのメイスが襲う。
ぱかーんといい音がしてゴブリンはキラキラと光を巻き散らして消えていった。
「ちょっとぉ、ひよりちゃーん。オレがカッコよく決めるところだったのにぃ」
「あ、ごめんなさいー」
ボクはひよりとヨギの場違いな会話を後頭部で意識しながら、敵の中衛と対峙していた。一気に回り込んで後衛のゴブリン・メイジと一対一の接近戦に持ち込む目論見が、この中衛のゴブリンに阻まれたのだ。
こいつに狙いを読まれたのはこれで二回目だ。戦闘センスが今まで戦ったゴブリンと一味も二味も違う感じがある。
大型ナイフを素早く閃かせて手数で勝負を挑んでいるけど、ことごとく小盾でカバーされてダメージを与えられない。逆に相手はこちらの攻撃が緩んだタイミングでショートソードを振り抜いてくる。
「おっと」
中衛ゴブリンの剣をバックステップで躱す。そのとき、後衛のゴブリン・メイジの掲げる棒が赤く輝いているのが目に入った。
「ヨギ、魔法がくる。回避っ!」
「えっ、ひえっ」
ヨギが自分の撒いた砂で足を滑らせたか、尻餅をついた。
ゴブリン・メイジが火球を放つ。ゴルフボールサイズの小さいものだけど、炎の勢いは強く本能的に危険を感じる代物だ。
ヨギが迫りくる火球に向けて杖を向ける。
「さ『サンド・ニードル』!」
ジャキッ
先ほど倒したゴブリンの辺りに散らばった砂が集まって床から槍が生え、針状の壁を形成する。
火球は針の壁にぶつかって飛散した。
「ひぇ~~」
間一髪のタイミングだったな。
などと他人の心配をしている余裕はない。ボクのほうもこちらの攻撃は通らず、相手の攻撃を躱しつつの手詰まり状態に陥っている。
ボクの火力では堅い防御は崩せない。ならばこいつの攻撃力を削ぐしかない。
こちらのアタックが下火になるとヤツは剣を振ってくる。
その攻撃の出鼻を狙う。
振り抜く前の地点。まだ力が乗り切らないポイント。
ここだッ!
「『リップ』」
反発術式を展開した左の手のひらでショートソードの刃を受け止める。
「グォ?」
二の手を継ぐ隙を与えず、右手に構えていたナイフを手放し空いた手のひらをショートソードに合わせる。
「『スティック』」
右の手のひらががっちりと刀身の平たい部分に張り付く。
「ウガッ」
腕を伸ばした状態で剣を固定された敵は身動きできなくなった。
「無刀取り~、なんちゃって」
刃を受けていた左手を手刀に構えて相手の手首を強打する。同時に相手の体の外側へショートソードを捻るように押し込む。
「グギャッ」
手首を挫いて離したショートソードはボクの右手に張り付いたままだ。
「『リリース』」
奪ったショートソードを右手に持ち変えて、くるりと体を入れ替え敵の背後に回る。そのまま、腎臓の位置を一気に刺し貫いた。
「グアァァ」
中衛ゴブリンが断末魔を残して光となって砕け散る。
「次ッ」
こいつは本命じゃない。後ろに控えたゴブリン・メイジを倒さなきゃ。




