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第95話 スライム攻略

 そして、放課後である。

 今日はひよりが持参した紫外線照射装置(別名、UVライト)でスライムの壁に再挑戦する日だ。外の世界のモノを持ち運ぶために、ひよりは斜め掛けしたポシェットを身に着けている。前に一緒に第二階層を回ったときと同じ腰丈のマントを羽織っているが、こちらはダンジョン製のため、外の世界のポシェットが半分突き抜けて見える。古いビデオゲームのバグ表示のようでなんだか現実味がない。本人はまったく気にしていないみたいだからいいんだけどね。「ようし、出発するぞ。今日は琴浦さんを中心にして、俺が先行、白井さんが左翼、コウタが右翼の中衛だ。ヨギは殿しんがり。前回の感じだとバックアタックはなさそうだが、警戒は怠らないように」

「わかりましたー」「「了解」」「ラジャー」

 うーん、白井さんとはそろったけど、返事はやっぱりバラバラだね。


 今回、ボクはヒコと事前に話し合って、ひよりを守れる中衛の位置にポジションを変更した。ひよりを中心としたインペリアルクロスだ。

 ボクの役割は、敵と遭遇する前は偵察、エンカウント初手で遠距離攻撃、接近戦になったらひよりとヨギの防御に回ることになる。

「なあ、今回ひよりちゃんもいることだし、せっかくだから砂の泉を見に行かないか?」

 とヨギが提案する。

「あんたねぇ。観光に来てるんじゃないのよ?自分の進級が懸かっているってこと、わかってる?」

 白井さんがじとーっとした目でヨギを見る。

「だけどさあ、何十年も見つかってなかった場所なんだろう?興味あるじゃん。ダメならいいけど……」

「わたしも見てみたいなー。オベリスクが建ってるんでしょ?行こうよ、あかりちゃん」

「ちょっと遠回りだけどその分魔物とも遭遇しにくいルートだし、寄り道してもたいしてロスにはならないと思うよ」

「いいわね。わたしも見てみたいな。行くわよ」

 ひよりのお誘いに白井さんはにっこにこの表情で乗っかる。

「理不尽だぁ」

 ヨギの嘆きが空しくダンジョンの通路に木霊こだました。


 砂の泉の部屋までは日頃から多くの人が通っているようで、魔物の気配はなかった。

「ここが砂の泉なのね。オベリスクが輝いてる……」

「うん。なんだか天井から明かりが差し込んでいて神秘的なんだよね。女神様の右腕もここにあったんだよ」

「ほう、他では見ない感じだな。水晶が埋め込まれてるのか、この文字」

「うほー、砂が採り放題。面白れー」

 ヨギが用意していた小さめの巾着袋に砂を詰めている。袋はいくつか用意してきたようだ。

「砂遊びして喜んでるなんて、ほんと、ガキねー」

「うるへー。これは後で役に立つんだよ」

 ヨギが砂を詰め終わったところで部屋を出た。


 第四階層に着いても敵の気配はない。前回このあたりのゴブリンは一掃したのでまだリスポーンしていないようだ。

「敵、出ないね」

「ああ。アンノウンの討伐で巡回しているからかもな」

「ちぇっ、オレの新魔術が炸裂するはずだったのによー」

「ひよりちゃんがいるんだから魔物が出ない分にはいいじゃない」

「白井さんはひよりちゃんには過保護だよねー」

「そうか?」

「なんでそこでコウタが返事すんの」

「あー、あれ、スライムなんじゃない?」

「ちょっと、ひより、走らないの」

「はーい」

 という感じで、なんとも危機感のない行程になったけれど、まあ楽して来れるならそれに越したことはないかあ。


「これがダンジョンのスライムかぁ。一度来たことはあるんだけど、改めて見ると大きいよね」

「だよね。スライムと言えば小さくて青くてプルプルのイメージだから……」

 ひよりは白井さんと雑談しながら持ってきた道具を手早く石畳の床に並べていく。

 ヒコが大盾を構えて後方の警戒に当たっている。

 ひよりは最初に何の変哲もない木の棒をつまんでスライムの表面をなぞる。スライムに差し込まれた部分がみるみるほそって消えてしまう。

 次に弁当箱サイズで薄手のプラスチック製の製品を手に取る。どうやらこれが紫外線照射装置もとい、UVライトらしい。折りたたまれた脚部を展開するときにちらりと見えた裏面に、いくつものLEDが見えた。

 ひよりがてきぱきと準備を進めてUVライトにモバイルバッテリーをつなぎこんでいると、ヨギが興味深そうにのぞき込んだ。

「へぇー、これがUVライトねぇ……うぎゃー」

「あ、ごめん。スイッチ入ったままだった」

「あんた、やっぱり紫外線が弱点だったのね」

「いや、普通に覗き込んだら誰だって目がやられるって」

「それがわかっているなら不用意に覗き込むなよ」

「危ないから気をつけてね」

「馬鹿」

「ううっ、誰も慰めてくれない……」

 さて、自ら破滅の呪文の餌食になった馬鹿は放っておいて、いよいよスライムへの紫外線照射実験である。

 ひよりがスライムの表面から五センチメートルほど離してUVライトを構える。

 スイッチをオンにすると、紫色の光が照射された。光を浴びたスライムの部分がわずかにぶるぶると震えている。UVライトは1分ほどで自動的に消灯した。ひよりは一旦UVライトを床に置いて木の棒をとり、再びスライムをつんつんとつつく。先ほどと違って今度はコツコツと硬質な音が響く。

「コウくん、ここをナイフで切り付けてみて」

「了解」

 ボクは大型ナイフを鞘から抜いて、包丁を振るう感じでスライムに切りつける。

 コンコン。少し強めに切りつけてもまったく傷がつかない。ボクはナイフの切っ先で固くなったスライムの表面をなぞり、柔らかくなっているところとの境目にナイフを差し込んだ。

 グッと数センチメートル差し込んで、そのまま境目をなぞって硬化しているスライムの表面をぐるりと一周切り抜く。すると、切り取られたスライムの表面が三センチメートルほどの厚みで剥がれ落ちる。剥がれ落ちたスライムの欠片はパーティクル状になって消えずにその場に残り続けた。ひよりが手を伸ばすと、「入手しますか」の文字が浮かび上がる。

「へぇー、アイテム化するんだ」

 そういいながらスライムの欠片をストレージに収納する。

「照射時間を変えるとどうなるのかな?」

 ひよりがブツブツとつぶやきながら次々にスライムにUVライトを当てていき、ボクは紫外線を照射された部分を切り取ってアイテムとして保管する作業を黙々と進めた。

 結果から言うと、スライムはUVライトを照射する時間が長いほど硬化する部分の厚みが増すことが分かった。硬化部分はかなり硬いみたいで、ある程度の厚みがあるともう簡単には切りつけられなくなる。そこで、UVライトの照射時間を十秒程度にしてみたところ、薄皮一枚固まったような状態になった。ヒコに思い切り切りつけてもらうと、薄皮を貫いた剣がスライムを大きく切り取った。

「ほう。一撃でこれだけ削れるなら、スライムを削り切るのに従来ほどの手数は要らないな」

「ねぇ、見てみて、コウくん。ジェル状の部分も一緒に採れたよ。まだ固まっていないから造形材に使えるかもー」

 ぴりぴりするー、と言いながら人差し指でスライムの柔らかい欠片をつんつんしているひより。

「ああもう、ダメだって、ひよりちゃん。直接指で触らないの。そこに棒があるでしょ」

 白井さんに叱られているひよりは、やっぱりマッドサイエンティストの資質があるなと思いました。

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