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第93話 紫外線照射装置

「ただいまー」

「コウくん、おかえりー」

「なあなあ、コウタ、これ見てみ」

 魔法道具同好会の部室に戻ってきた。いまはスライム攻略の準備期間ということで、ヨギもウチの部室で作戦会議という名目の休憩をしている。何やらリバーサルミラーをいじくりまわして遊んでいるようだ。もちろんヨギだけじゃなくて白井さんもいる。今日は何か用事があったみたいだけど、ヨギが部室に行くという話を聞いて着いてきた。本人曰く、ひよりを男子と二人きりにできないんだって。それじゃあボクは?と思わないでもないけど、自分からややこしくしなくてもいいかと考え直して突っ込むのはやめておいた。

「それ、壊さないでよ」

 ボクにとっては初めて手に入れたアイテムで使い勝手もいいから思い入れが強い魔法道具なんだからね。

「これさ、背中合わせにくっつけると、ほら」

 リバーサルミラーの鏡じゃないほうの面には魔法陣を隠すように立体的な模様が刻まれている。そこのでっぱりとくぼみの一部がうまくかみ合ってはまるようになっているみたいだ。ボクも気付かなかったことをヨギが発見したのはちょっと悔しい。

 でも何のためにそんな仕組みになってるんだろう?

「んで、この状態で魔法陣を起動するとぉ」

 むむ、何が起きる?

「じゃじゃーん、透明鏡~」

 魔法陣が起動するときに発する鏡面の輝きが引くと、そこには向こうから覗き込むヨギの眼が映っていた。

 そりゃあ、そうだよね。片方の鏡に入った映像がもう片方の鏡面に映し出されるわけだから、背中合わせに張り付ければ向こう側の景色が見える道理だ。でも。

「それって鏡って言わないんじゃ?ただの透明なガラスじゃん」

「だよなー。なんだろこれ?微妙びみょいアイテムだなー」

「ひとのモノで勝手に遊んで勝手にケチつけんなー」

 ぷんすかと怒りながらリバーサルミラーを取り返す。くそー、もうヨギにはマジックアイテム貸してやんないかんなー。

「悪ぃ悪ぃ。で、どうだった?収穫あったか?」

 そうだった。魔法生物研究所で情報収集したんだった。まったく、ヨギが絡むとすぐ脱線するよ。

「紫外線が弱点なんだってさ」

「紫外線?そりゃまた、意外というべきか古典的というべきか悩ましい特徴だなあ」

「ダンジョンの生き物は日光を浴びていないから紫外線に弱いんだってさ」

 高升部長の説明を少し端折はしょっているけどまあだいたい理屈は合っているはず。

「じゃあ、あんたも紫外線を当てたら溶けるかもね。引きこもりだから」

「誰が引きこもりだよ。ちゃんと散歩もしているし神社の掃除だって……ああ、くそっ、あんな無駄骨なこと始めるんじゃなかったなあ」

「神社の清掃、まだ続けているんだ。中間考査が終わったからすっぱりやめたのかと思っていたけど」

「オレもそのつもりだったさ。でもテストの点が悪かったことを神様に文句言いに行ったら朝の清掃のときに仲良くなった爺さん婆さんに捕まっちゃってさ。いつも境内を清めてくれてありがとうねーとか、急に来なくなったから体調崩したのか心配したんだよーとか言われて辞めづらくなっちゃって」

「また朝の清掃を始めたの?」

 こくりとうなずくヨギ。

「最近は婆さんたちが交代で朝の差し入れ持ってきてくれるようになっちゃって、もう引くに引けなくなった」

「良かったじゃない。ご近所の高齢者のアイドルとして神社に永久就職できて」

「あそこは社務所もない無人の神社だから。給料出ないから」

「そういうところってどこが管理してるんだろうね?」

「さあ。日本の神様のトップは天照大御神さまだから宮内庁あたりに言えばお小遣い程度はもらえるかも?」

「そっか。ならさっそく、これまでの分と向こう一ヶ月分を先払いでもらってくるぜ」

「よしなさい。ってもう、なんであんたが絡むとこう話が脱線するのよ」

「最初に脱線させたの、白井さんじゃん……。いえ、なんでもありません」

 白井さんにじろりと睨まれて小さくなっているヨギを横目にひよりに話しかける。

「ねえ、ひより。紫外線を発生させる魔法道具とか魔法陣とかってあるのかな?」

「んー、聞いたことないなー」

「だよねぇ」

 光の魔石も黄色っぽい明りだし、魔法陣も赤とか緑に近い色で輝くのは見たことがあるけれど、青い色の光はあまり見かけない。ダンジョンの中で物を作るのはいろいろと見てきたけれど、光を作るってどうやればいいんだろう?ないモノは作ればいい、がひよりの決まり文句だけど、こればっかりは難しいんじゃなかろうか。

「でも紫外線を出す道具ならうちにあるよー」

「へ?でもいま聞いたことないって」

「ここにはないけどわたしの家にはあるってことだよ」

「外のものを持ち込んでも使えないんじゃなかったっけ?」

 現実世界のモノはこのダンジョンでは使えない。それが大原則だったはず。

「光と重力だけはダンジョンの中と現実世界で共通なんだよ。理由は分からないけど」

 確かに。

 物質同士は干渉できずにすり抜けてしまう。だけど重力自体は外から持ち込んだ物体にもダンジョンの中の物体にも同じように作用している。

 光もしかり。

 魔石から出た光がボクの制服に反射してボクの網膜に投影される。もしも物体と同様光もすり抜けてしまうなら、外から持ち込んだ物はダンジョンの中では見えなくなってしまうはず……ってこと?

「ネイルアート用の面発光タイプのなら持って来れるかな。折りたたみ式でかさばらないし。どのくらい効果があるか試してみるといいかもね」

 へぇ、ひよりもネイルアートとかオシャレに気を遣うんだなぁ。普段ネイルアートをしているところなんて見たことなかったから。って学校じゃしていないのも当然か。

「最近はこういう道具が普通に売っていて便利だよね。レジンを使ったモノ作りに重宝してるんだー。あ、紫外線で固まるっていうことはスライムってレジンみたいに造形の材料に使えるかも。ねえ、コウくん。わたしもスライム見てみたい」

「えーっと、でも危ないかも?」

 どうなんだろう?自分ではソロ攻略のことばっかり考えていたから、ひよりと一緒にダンジョンに潜るなんて考えてなかった。てっきりダンジョンは怖くて嫌なのかと思っていたけれど……って、そういえば一番最初はひよりにエスコートしてもらってダンジョンに入ったんだった。

「ダンジョンでは怪我はしないから大丈夫だよー。今までは一人でだったからあんまり遠くまでは行けなかったけど、みんながいれば大丈夫でしょ?ね、あかりちゃん」

「う」

「だめ?わたしも行きたい。実際にスライムで何ができるか調べてみたいの」

 うん、そうだね。モノ作りが絡むとひよりは途端に積極的になるんだよね。知ってた。

「うん、いいよ。いっしょなら大丈夫よ。わたしも姫野君も道庭君もひよりを守るから」

「あれぇ。オレは?オレもいるんだけど」

「あんたはどっちかっていうと足手まとい」

「ひどい。オレだって新しく土魔法の使い方を編み出したっていうのに。しくしく」

「へぇー、どんな魔法なの?」

「へへへ、そりゃあ実戦でのお楽しみってやつさ。そうだ。仕込みのための道具を買ってこないと。ひよりちゃん、コウタには内緒にしておいてな」

「うん、わかった。行ってらっしゃいー」

 ヨギと白井さんが出て行って、部室に静けさが戻った。

「ヨギとどんな作戦練ったの?」

 ボクが魔法生物研究所に行っている間、ヨギはひよりにウオーターバレットの弾数制限の解決方法を相談すると言っていた。それがいつの間にか土魔法の話になったみたいだ。どういうことなんだろう?

「んー、そうだねぇ。口止めされているけど、これだけなら言っちゃってもいいかな。水魔法は流体を扱う魔法で、土魔法は固体を扱う魔法なの。だから水魔法の媒介は水で、土魔法の媒介は……。っと、これ以上は内緒だよ。えへへ」

 なるほど、わかりそうでわからん。まあ、何かしらの進展があったってことで期待しておこう。

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