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第87話 第四階層攻略開始!

摩崖の門編開幕!

初めて本格的なパーティを組んで第四階層の攻略に挑むコウタは、ダンジョンの隠された秘密にたどり着けるのか?

「準備はいいか?」

「ポーションよし、装備よし、エストチャージよし」

 ポーション用のフラスコは鍛冶屋さんのガラス工房で調達した。途中の階層のセイフティエリアでポーションを生成し、全員分のストレージに六個ずつ用意できている。今までの標準では生徒会からの支給分として一人三個のフラスコしか持っていなかったわけだからマージンは二倍だ。装備についてはヒコが生徒会から借りた大盾を、ボクがひよりの新作グローブを着けている以外は通常通り。投擲武器も補充してある。あ、もちろんヨギと白井さんは初参加なのでボクも見るのは初めてだけど。

 ヨギはフード付きのマントに革のロングブーツ、白井さんは生成りの綿シャツの上に革のハーフベスト、下はグレーのレギンスに革のショートパンツスタイルだ。

「靴がまだなんかしっくり来ないのよね」

 そういいながら白井さんがつま先を床にトントンと打ち付けたり、軽く飛び上がってフットワークを試したりしている。白井さんが履いているのはいわゆるワークブーツ系のミドルカットモデルだ。つま先に保護用の鉄芯が仕込まれており、靴底もブロックタイヤのようにごつごつしている。フットワークは若干落ちるけれど、攻撃力が高いらしい。ちなみに両手はナックル部分と手甲部分に補強材が入った革手袋を装備している。こちらはひよりの手作りで、白井さんの手のサイズにピッタリ合うように作られている。もらったとき白井さんが一生大事にするねとしまっておこうとしてひよりに叱られていた。

 あ、ボクが着けている新作グローブは前に製作を頼んでいたやつで、手のひらのところに浮遊術式と反転術式を織り込んであり、ファンデルワールスの靴とセットになるものだ。指ぬきグローブになっているのはボクの趣味……だけじゃなくて、細かい作業がしやすいようにという実益面も考えたデザインなのです。

「よし、じゃあ行くぞ」

 今回、リーダーはヒコである。道案内をお願いしているし、いざとなったら最前線で大盾で敵を食い止めるタンク役だ。ヨギは魔術師なのでどうしても一番隙が大きくなる。だから真ん中でボクが最後尾。白井さんは前衛だけど守備力は低めなのでいつでも飛び出せる位置ということで中段の左側に位置している。変形インペリアルクロスってところかな。

 連携の訓練なんかはしていないけれど、ヒコ曰く、この程度の数なら実戦の中で慣れるから十分とのこと。目的自体も戦闘メインじゃないし、攻略が難しい箇所は何度でも戻って対策を立て直すことになっているから気楽に構えているくらいがちょうどいいそうだ。


 軽い転移酔いを感じて第四階層に降り立つ。

「クリア」

 ここはセイフティエリアになっていないから少し緊張したけど、いきなり魔物と出くわすことにはならずに済んだ。ふー。

「右だ」

 ヒコのあとに続いて通路を進む。四人くらいが横一列で通れる通路だから隊列を組んでいてもそれほど窮屈ではない。だけどいつもはソロだから前が良く見えないのは勝手が違って少し気になる。

「左」

 見慣れた通路が続く。

「第四階層っていっても他とあんまり変わらないんだね」

「ああ、ダンジョンの構造は基本的にどの階層も同じだ。第四階層は罠も少な目だし、その意味では一番通路に特徴はないな。だけど魔物とのエンカウントは多い。道に迷うと連戦になったり挟撃にあったりして割と簡単に全滅させられるんだ。その意味では特徴が無いのが一番の罠ってことかもな」

「ひえー」

「大丈夫、大丈夫。『岩壁の門』までのルートは確立されているんだ。途中で魔物の湧きつぶしをきっちりしておけば、退路は確保できるって寸法さ」

「ヨギは久しぶりなのにずいぶん余裕だね」

「言ったろ?歯応えがないって。オレにかかれば第四階層なんかちょちょいのちょいよ」

「へぇ、じゃあ全部お任せしちゃおうかしら。わたしはお茶でも飲んで待ってればいいわよね」

「えー、白井さん、そこはちょっとは前衛で魔物を押しとどめておいてもらわないと。ね?敵が近づいてきたら魔法の照準合わせに集中できないでしょ?」

 軽口を叩きながら歩いていると、ヒコから静かにするように合図があった。魔物を見つけたらしい。

「五メートル先、右側の通路にゴブリンがいる。おそらく五体」

「偵察必要?」

「出来るか?」

「覗いてくるだけだから任せて」

「よし、白井さんは後方警戒。ヨギは魔術の準備」

「これを」

 ボクは片割れの鏡、じゃなくて反転リバーサルミラーをオンにして片方をヒコに渡す。

「何だ、これは?」

「こっちの映像がそっちに映るんだ。通路の先を映してくるからチェックして」

「わかった」

 ヨギが興味津々で片割れの鏡を覗き込んでいる。自分の持ち場を忘れないでよね。

 さっと、身を低くして通路に出る。

 ほとんど足音を立てずに曲がり角まで進み、壁に背中を預けて耳を澄ます。少し先で物音がする。

 数歩戻って助走をつけ、飛び上がると同時に小声で音声コマンド(呪文)をささやく。

「『スティック』」

 付着術式を足場にして壁を二歩駆け上がる。

 同時に体をねじって背中を壁に向ける。

 天井に両手をついて体を支え、足場を安定させる。

 ふー、上手くいった。

 壁と天井で体を支えるようにして高い位置から廊下の先を覗き込む。

 いるいる。ゴブリンが五体。

 右手を天井から離して片割れの鏡を取り出し、そっと廊下の角から差し出してヒコに映像を送る。

 みんなが隠れているほうを見ると、ヒコがサムズアップした腕を突き出したあと、廊下に進んできた。

 アイコンタクトでヒコが突撃の合図を出す。

「オォォォ」

 雄叫びを上げながら大盾を前面に構えて突進。不意を突かれたゴブリンが二体吹っ飛ぶ。

「遅いッ」

 左に避けた一体を盾の脇から飛び出した白井さんの正拳突きが襲う。

 腰の入った左こぶしがゴブリンの胸に叩き込まれる。

 ゴツンと鈍い音を立てて吹き飛んだ敵は、地面で痙攣しながら霧散する。

 ボクは天井に固定した右手を支点に大きく体を振って反動をつけ、通路中央あたりに左手で張り付く。同時に自由にした右手からナイフを投擲する。

「ギャッ」

 高所から放たれたナイフは最後尾にいる弓兵ゴブリンの眼窩に吸い込まれるように突き立った。

 弓兵ゴブリンはナイフの勢いに押されて転倒し、そのまま動きを止めるとすぐに光のパーティクルとなってはじけた。

「ウォーター・バレット」

 ヨギの声が響く。

 左手に持った容器から撒かれた水が弾丸に変わり、右手の杖に操られるようにヒコの体を回り込んで飛翔する。後方に残った一体と、よろめき立とうとしていた一体を水つぶての弾幕が襲う。

「グギャッ」「グヒィッ」

 こちらもすぐに光となって消える。

「相変わらず見事なコントロールだな」

 踏みつけた一体に止めを刺して振り返ったヒコがヨギの技を称賛する。

「へへーん、ざっとこんなもんよ」

「あんたオーバーキルなのよ。あんなにいっぺんに水を使ったらすぐに弾が尽きちゃうじゃない」

「あ」

「それ、何回分なの?」

「うーんと、だいたい敵四体分くらい?」

「一体はふらついてたから、わたしか道庭君で十分対処できたでしょ?」

「力加減が苦手なのも変わらないな」

「ボク、攻撃魔法を見るのは初めてなんだけどさ。エストだけじゃなくて媒介になる水とかそういうのも尽きたら攻撃できなくなるわけ?」

「ま、まあ、あと三袋あるし、無くなったらポーションでも代用できると思うから」

「ポーション打ち込んだら傷が治っちゃうんじゃない?」

「どうだろ?治る前に致命傷になればイケるんじゃないかな。ヒコ、知ってる?」

「ポーションを魔術に使うなんて聞いたことないな。今までは一人一本しか持てなくて貴重品扱いだったし」

「次の戦闘で試してみよっか」

「面白そう」

「バカじゃないの。これだから男子は」

「「スミマセン」」


 第一回目の遭遇戦は完勝で終わった。この調子でどんどん進もう。

物語はいよいよ終盤へ。

ここからは戦闘シーン多めでお送りします。

第四階層の先にあるものとは?

ダンジョンを終わらせるために魔道に堕ちた時任の運命は?

お楽しみに!

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