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第86話 最後のメンバー

「どこに行っていたの?ヨギ」

「生徒指導室」

「そっかー、残念だなあ。せっかくボクが転校して来て知り合えたのに、一ヶ月でお別れかー」

「ちょいちょいー!勝手に退学にすんな」

「あれ、違うの?二月くらいなら留年って可能性もあるけど、今の時期ならそれもなさそうだから退学かなーって思ったんだけど」

「……」

 わーっと反論が来るかと思ったら、涙目で押し黙るヨギ。

「マジか」

「マジだね」

「「がんばれよ、後輩」」

「まだ決まってねぇし!っていうか、助けろよ。親友だろぉぉぉ!」

「はいはい。で、どういう話になっているの?」

 助けろってことは何か方法があるのかもしれない。まあヨギの勉強に協力して、彼の成績が上がるよう祈るくらいは協力できるかもだし。

「中間考査の成績が全科目きっちり三十点台だった」

「そりゃあ、まあ先生方もお怒りになるだろうね」

「おまえ、苦手科目以外はそこまで成績悪くはないだろう?」

「だからわざとじゃないかって叱られた。そんなわけはありませんって、ヤマ張って予想問題作ってそれしかやりませんでしたって正直に話したんだ」

「そこで正直に話しても変な言い訳にしか聞こえないんじゃ?」

「うん。ふざけてるのかって火に油を注ぐ感じになっちゃって、心証は最悪。期末考査で挽回してもおまえは進級させないって話になって……」

「それはさすがに横暴では?あり得ないかもしれないけれど、期末考査でヨギが全科目満点とったらどうするんだろ?」

「だよな!普通そう思うよな!」

「おまえ、まさかその場でそんな反論したんじゃ……」

 こくりとうなだれるヨギ。

「そっちのほうが火に油だよ。大炎上じゃん」

「で、結局どういう話になったんだ?」

「全科目満点か、それに匹敵する業績を上げないと留年させるって言われた」

「あちゃー。自分でハードル上げちゃったかあ」

「全科目満点はさすがに無理だろうから、匹敵する業績っていう代替案を付けてくれたんだな。理性が少し残っているところが逆に先生の本気を感じさせるよな」

「全科目満点に匹敵する業績って何だと思う?皆勤賞で行けるかな?」

「んー、やっぱりインターハイとかの大会制覇じゃない?全国一位なら認めてもらえると思うよ」

「ンなの無理だよぉ。部活にだって入っていないのにぃ。積んだぁ……」

 がっくりと机に突っ伏すヨギの頭をなでなでしてあげる。

「いや、一つだけ方法があるかもしれない。この学園特有の方法が」

 ヨギがガバッと身を起こす。

「なになに、何がある?教えてくれよぉ、ヒコぉ」

「ダンジョンで、固有ユニーク称号ネームを手に入れるってやつだ」

固有の称号(ユニークネーム)?」

「ああ。『階層到達者』みたいな誰でも手に入れられる称号じゃなくて、ただ一人にだけ与えられる称号だよ。初代生徒会長の『導きを開きし者』みたいな」

「いいね、カッコイイじゃない」

「それこそ無理難題だよ。固有の称号(ユニークネーム)なんてもう何十年も出ていないんだぜ?こんな枯れたダンジョンに、どんな称号が残っているっていうんだよ」

「いや、あるかも」

「ほう?」

「なんだよ?これ以上ぬか喜びはごめんだからな」

「『岩壁の門』さ。あれを開く」

「へっ?そんなの無理だろう。崖に彫られた扉だぜ?一休さんじゃあるまいし」

「コウタ、おまえ本気だったんだな」

「えっ?ヒコまで?今のは笑うところじゃ……」

「理由は言えないけどボクはあの扉を開く方法があると確信しているんだ」

「本物は見たことがないんだろう?なぜそこまで自信があるんだ?」

「それも言えない。イエスとノーでも答えることはできないんだ」

「イエスとノーの二択でも答えられないっておまえ……。コウタはこのまえプールの調査でどこかに転送されたって話だったな。詳細は話せないって言ってたけど、それと関係があるってことか……」

 こっちを見るヨギに、唇の前に人差し指を立てて沈黙のジェスチャーをしながらニヤリと笑う。

「それで、いまボクは第四階層を探索するパーティを募集しているんだ。空きは戦士と魔術師の枠だけど?」

「はいっ!はいはいはーい!魔術師を希望しますっ」

 成り行きで誘ったのはいいけれど、ヨギで本当に戦力になるのかな?

 ボクが思わずヒコの顔を見ると、安心させるようにうなずいてくれた。そういえばヨギがやめた部活が何だったか教えてもらうことになっていたな。

「ヨギは魔法が使えるんだ。魔術部だったの?」

「ああ、そうさ。将来を嘱望される期待のルーキーだったんだぜ?」

「それが何で帰宅部に?」

「まあ、ダンジョンに歯応えがなくて飽きたってのもあるし、人間関係でもちょっとな」

「ふーん。でも帰宅部なら今は武器とか装備を持っていないんじゃ?」

「借り物は全部返したけど個人のエストで買ったものはストレージに入ってるよ。まあ、杖は持ってないけどな」

「だめじゃん」

「まあ、何とかなるって。初級の杖くらいならリハビリがてら第三階層辺りを回ればすぐに資金が溜まるし」

「その資金を稼ぐための武器はどうするのさ。魔術部に借りるとか?」

「……あそこには近寄れないな。コウタのほうで何とかなんない?」

 どこまで世話を掛けるんだよって話だけれど、ボクだってヨギにいろいろしてもらって今がある。あれ?でももうすでに恩は返している気もするなあ。

「とりあえずひよりに聞いてみるよ」

「あんがと。さて、そうなるとあと一人か。誰に声を掛けるかな。戦士枠だと……」

 留年回避の方針が決まったことでヨギはいつもの調子を取り戻して仕切り始めた。まあいいけどね。リーダーとか面倒だし。

「なら、戦士枠はわたしね」

「えっ?」

「白井さん?いつから聞いてたの?」

「このアホが生活指導室で説教喰らったってところから」

 ほとんど初めからじゃん。

「大丈夫よ、詳細は内緒にするから」

 うう、口止め料も含んでる感じ?

 でも帰宅部の女子を第四階層に連れて行って大丈夫なの?

 そもそも、女の子に戦士枠って戦力になるのかな?

 そう思ってヒコを見る。

「白井さんが参加してくれるなら心強いな」

「でも女の子……」

 と言いかけたところでヨギが大慌てで手をブンブン振る。

「はあ?女子がいると不満?コウタくん、女子は足手まといとか、男子が守るものとかそんな感じなの?」

 ヤバい、地雷を踏んだらしい。この足をどうどければ……

「コウタ、あかりは空手の全中女子大会タイトルホルダーなんよ。実家は道場やってて実はおばさんのほうが親父おやじさんより強いって有名なんだ」

 うひー、聞いてないよぉ。

「いや、その、ついひよりと同じに考えちゃって守ってあげなきゃって思っちゃって。ゴメン。見くびったわけじゃないんだ、ホント」

「まあ、そういうことなら仕方ないわね。ひよりちゃんのことはきちんと守ってあげないとダメよ。わたしと違ってお嬢様なんだから」

 こくこくと首振り人形のようにうなずく。白井さんがひよりラブでよかった。おかげで地雷を解除できたよ。サンクスひより。

「白井さんは装備のほうは大丈夫?」

「わたしは格闘技だから武器は不要よ。ゴブリン程度なら素手で十分だわ。防具は、まああったほうがいいけど、こいつと一緒に第三階層を回ればそのくらいの資金は集まるでしょう」

「まあ、パーティの紅一点で戦士職ならビキニアーマーが相場だし安いはず、ぶっ!」

 すぱーんという音がして、いきなりヨギの顔が横を向く。

「それはセクハラ発言よ。パーティ組むからって礼儀は忘れないで」

「はひ」

 ヨギの頬がじんわりと赤くなり手形が浮き出てくる。手の動きがまったく見えなかった。恐るべし、白井さん。


 ***


「いらっしゃいませ」

「防具売り場ってこっちですか?」

「はい、こちらの商品がサンプルになります。店頭にお出ししていないものでも在庫がありますので、カタログをご覧ください」

「あ、あの、ビキニアーマーってありますか?いえ、わたしのじゃなくて友達が欲しがっていて……」

「ビキニアーマーですか。露出度の多いものはあまり女性には好まれませんのでお作りしていないのですが」

「そ、そ、そ、そうですよね。あまり固めると体のキレに影響が出るから小さめの防具がいいかなーって思ったんですけど、やっぱりナシですよね」

「そういうお話しでしたら、こちらのタイプなどいかがでしょうか。アーチャー用のショートベストと革製のショートパンツの組み合わせです。肌を隠したい場合は厚手の綿シャツなど重ね着をすることもできます」

「いいわね。お値段は?」

「在庫のあるものですと、こちらになります」

「……何とかなりそうね。試着できますか。あ、ゆ、友人とサイズが同じなんです、わたし!」

「ご試着できますよ。こちらでどうぞ」

 店員はクスクスと笑いをこらえるような生暖かい目で見守りながら奥の試着室へとお客様を案内していった。


次回よりいよいよ本格的に第四階層への挑戦が始まります。

『磨崖の扉編』どうぞお楽しみに!


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