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第79話 潜水作戦

「山根さぁーん、話が違うじゃんかー」

 昨日で中間考査が終わってみんな少しほっとした表情の朝の教室で、ヨギが泣き言を言い始める。

「ヨギ、占いのせいにすんなよ」

「でもぉ」

「まだ結果が出たわけじゃないだろう。どのくらいできたんだ?」

「主要科目はどれも三十点くらい……」

 壊滅的である。予想問題が当たったところは出来たけれど、それ以外はほとんど当てずっぽうか空欄で出したそうだ。

「山勘張ってピンポイントで三割的中は優秀。プロ野球選手でもアベレージが三割五分いけば一流」

「そんなぁ」

「ヨギ、おまえいい加減勉強方法を改善しろよ。いいか、山を張るのは時間がないときの緊急処置だ。基本はテスト範囲をまんべんなく復習して、例題を解いたりするときにどの問題がでそうか、どこのポイントから出題されるかを予測するんだぞ。ぜんぶ山勘なら山根の言うとおり、三割の的中率って相当運がいいんだ。ベースの勉強で五十点確保できれば、そこに山勘の的中分の三十点を足して八十点になるだろう?」

「そ、そっか。うおー、次の期末考査はその作戦で行くぞ。山根さん、次にオレの運気が上がるのはいつだ?」

「過足くんの今回の好調期は例外的に長かったから当分運気は低調。年内は低空飛行の傾向」

「そんなぁ……。そうだ山根さん、占いで未来がわかるならテスト問題を当ててくれよぉ」

「自分が関わる未来は占ってはいけない。私情が入ると占いの結果なのか自分の希望なのかわからなくなる。普段の占いの精度が著しく落ちるようになる」

「当てられないとは言わないんだ」

「なんだよー、自分のことは占えないってやつ?」

「そう。自分にとって直接関係のない、どうでもいいことしか占わない」

「じゃあオレのことしょっちゅう占ってるけど、どうでもいいってこと?」

 こくり。

「過足くんはどうでも良い存在」

「ひ、ひどい……」

「なに、あんた山根さんに気があるの?」

「ぽっ」

「いや、そういうんじゃなくてもクラスの女子に面と向かってどうでも良いって言われると傷つくでしょ。山根さんも無表情でほっぺたに手を当てないの」

「まあ、ヨギだからな。そういう扱いになるよなあ」

「そういうって、どういうのだよ」

「「「「おもちゃ」」」」

「ぐすん」


 放課後、久しぶりにダンジョンの部室にやってきた。

「女神様もずいぶん修復が進んできているみたいだね」

「そうだよ。毎日魔法を掛け続けた甲斐があったよー」

 まだ多少ひび割れが残っているけれど、全身がそろった女神像は神々しい気配を放っている。一週間ぶりということもあり、部室がなんだか別のものに見えてくる。

 何というか、そう、礼拝堂?

「潜水服のほうも完成しているよ」

 そちらは倉庫番同好会の部室にある。さっそく見に行こうということになって、部室を出た。

 途中、購買部の前で美宮みるく先輩と鉢合わせする。

「ちょうどよかったわ。あなたたちに会いに行こうとしていたの。潜水服が完成したの?わたしも見に行っていいかしら?」

 三人で連れ立って倉庫番同好会を訪問する。

「ようこそお越しくださいました、ひより様……あ、美宮みるく様もご一緒でしたか」

「やあやあ、みんな。わたしのことは気にしないで。あら、これが例の潜水服ね。ぴかぴかじゃない」

 美宮みるく先輩は倉庫番同好会の面々と顔見知りのようだ。まあ生徒会役員なんだから当然だけど。

「私どもが誠心誠意磨かせていただきました」

「へえ。いい仕事しているわね。やっぱりあなたたち、力仕事なら頼りになるわね」

「はっ。ありがたきお言葉」

「コウタくん、これ、かぶってみて」

「え、あ、はい」

 ひよりを見ると、うなずいて言った。

「使い方、教えるね」

 台の上に宝冠のように置かれた潜水具に近づく。前に見たときは青緑色に錆びついていた。今は同じものと言われても信じられないくらい見事な金色に輝いている。

 自分一人では持ち上げるどころが動かすこともできそうにないので、倉庫番同好会の大男たちに支えてもらいながらおっかなびっくり頭を入れる。

 肩に当たる部分には厚手のクッションが付いている。潜水具をかぶった状態で肩にずっしりとした重みを感じ、クッションが体に密着する。

「どう?痛くない?」

「重いけど大丈夫」

「水中では浮力が付くから一人でも十分動ける重さになるよ。周りの見え方はどう?」

 視界は狭いけれど、良く見える。左右の窓には外側に格子状にガードが入っているので細かいところは見えづらい。だけど水中で周囲を確認する程度には使えそうだ。

「いい感じだよ。あ、でも曇ってきちゃった」

「魔法陣を起動すれば乾燥した空気を送り込むようになるから曇りも消えるはずだよ。ステータス画面は開ける?」

「ええと、ヘルメットを支えながらだと難しいね。よいしょっと、こうかな。あ」

 何とか片手でステータス画面を呼び出すジェスチャーを取ることはできた。だけど、画面が覗き窓の向こう側に表示されてさすがに細かいところが見えない。

「これだと水中での操作は難しいかな」

「音声コマンドを登録しておかないとだね。いったん脱いでー」

「ほいっと、ふー」

 やっぱり息苦しい。これをかぶって動き回るのは難しいな。水中でゆっくり歩くのが精一杯だ。

 ひよりの説明に従って魔法陣を音声で制御するように登録する。といっても、空気を送るのを開始するのと止めるのと、頭部に取り付けられた照明をオンオフする操作の四通りがあるだけだ。あとは緊急用のエマージェンシーコール。

「水漏れのチェックはしてあるから大丈夫だと思うけれど、水圧テストは十分じゃないの。もともと潜水用に使っていたものなら十メートルくらいの水圧は問題ないはずなんだけど、もし万が一、中に水が入ってきたらエマージェンシーコールを起動してね」

「どうなるの?」

「送る気圧を規定より高くするの。水漏れで入ってくるよりも多くの空気を送って溺れないようにするのと、万が一ひっくり返っても出てくる空気で一時的に呼吸できるようにするの。そのときはヘルメットは水中に捨てて、あとは何とかがんばって水面まで泳いで上がってちょうだい。それと地上側には救難信号が発報されるから、作業者を救助する体制を取るわ」

「了解。何とかがんばって水面まで上がってくるよ」

「潜水具のほうの準備はいいみたいね。それじゃあ、プールのほうに持って行って、さっそく試しましょうか」

「えぇっ、今から?」

「必要な人員の配置は生徒会のほうで手配済みよ。簡単な調査だし、練習も兼ねてぶっつけ本番ってことでいいでしょう」

「練習でぶっつけ本番って、矛盾してない?」

「上手くいかなかったら練習、上手くいくようならそのまま本番ってことよ。もう、オトコノコが細かいことを言わない」

 ぬう。ぶっつけ本番が男らしいと言われてしまったら受けて立つしかないよね。

 いいでしょう。失敗してもひどい怪我とかするわけじゃないし。

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