第73話 ヒト型の魔物
時任正宗回です。
今回、後半部分は少し残酷描写があります。
レイティング変更をするほどではないですが、苦手な人は目を細めて読んでください。
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「ご活躍のようだね」
「ふん、まだまだ全然足りないさ。それより、そっちがやるといったことは進んでいるのか?」
「少しばかり時間がかかっているが、駒は順調にそろってきているよ」
「口ばかりの気もするが、やっていると言うならまあいいだろう。だが、俺の足を引っ張るようなら容赦はしない」
「おお、怖いな。怒りに触れないように努力するよ。そうそう、きみに良い物を持ってきたよ。私たちに協力の意志があることを示させてくれないか」
眞秀の脇に控えていた黒装束の小柄な人影が一歩前に出てテーブルの上に包みを置く。眞秀も得体の知れない奴だが、それに傅いている人物もまた別の意味で得体が知れない。じっと目を凝らせば凝らすほど、近くに見えたり離れて見えたりして間合いが計れない。かといってそいつが動いているわけでもぼやけて見えるわけでもない。
睨みつけていた視線を包みのほうに向ける。
「何が入っている?」
「防具と武器だよ。きみに足りていない戦力を補えるだろう」
包みが置かれたままの位置にショートソードの切っ先を伸ばして包みを破る。ばらりと崩れた包みから中身がこぼれ出る。肩当てからガントレットとレガーズまでそろったフルカバーに近い革鎧、大きな水牛の角が生えた革兜、それと両手で持つのも苦労しそうな両刃の戦斧だ。
「ふん」
相槌には不機嫌な空気を込めたが、顔には笑みを浮かべる。
頭から水牛の角を生やして獣じみた面頬を着けたらまるでミノタウロスのコスプレのようだ。
「ハハハ、悪くない。こちらを魔物と認識すれば、ニンゲンどもも全力で抗えるようになるだろうからな」
そして新しい武器を振り回す。
「うむ、いい重さだ。近頃は筋力が上限を突破してニンゲンの武器では手ごたえが感じられなくなってきたところだ。これなら存分に破壊できそうだ」
重そうな戦斧を片手で難なく振り回すたびに、ビョウビョウと風が逆巻く。
「そうは言ってもきみは一人だ。くれぐれも、剣術部の連中に正面からぶつかって返り討ちに遭わないよう注意してくれたまえ」
「ふっ、ニンゲンどもが使う『卑怯』などという言葉は持ち合わせてないからな。罠を使い、追いたて、後ろから首を刎ねてやるさ」
薬をやる前は戦闘で得られる経験値は自分の技を磨くことにしかならなかったが、最近ではニンゲンを殺すと一定のエストが手に入るようになっていた。ニンゲンから徴収したエストは自動的に自分の筋力値や素早さの向上に使われ、結果的に俺の能力を底上げしてくれることが分かった。
殺せば殺すほど強くなる。ならば何を遠慮する必要がある?闇討ちでもなんでも、最も効率のいい方法でできるだけたくさんのニンゲンを殺す。それが今の俺の行動原理だ。
その作業が今から楽しみで笑みがこぼれる。最後にブンと戦斧を一振りしてテーブルをたたき割り、挨拶など思いつきもせずに部屋をあとにした。
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「なあ、あの噂、本当だと思うか?」
「第四階層に新種のヒト型魔物が出るってやつだろう?ガセじゃないらしいぜ。三年生の先輩が背後から襲われてリスポーンしたって話だ」
「へえ、三年生がね。だけど後ろから襲ったってことは正面からじゃ勝てない雑魚って言っているようなもんじゃねぇ?」
「言えてる。そんな雑魚に負ける三年生って笑えるよな」
「なあ、俺たちでそいつやっつけてさ、三年生より使えるってところを見せてやらないか?」
「いいねぇ。三年生がリベンジする前に俺たちでやっちゃおうぜ」
「新種なら倒すと称号がもらえるかもな」
「それ、アリだな。称号を見せびらかしてやろうぜ、その三年生に」
剣術部の二年生数名が、談笑しながらダンジョンの階段を降りて行った。
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「ぶぎゃっ」
「ヒ、ヒィ」
叩き下ろされた戦斧が頭蓋骨を真っ二つに割って喉骨のあたりで止まる。
魔物は兜のように奥まった眼窩に黄色い眼光を灯して次の獲物を見る。
面倒くさそうに戦斧の柄を抉ると、先頭にいた二年生の頭が頸元から折れて光の粒子となって砕け散る。すぐに体のほうも粒子状に砕けて消え去っていく。
二列目の生徒は腰が抜けて尻餅をついた姿勢のまま動けない。その腹をめがけて容赦なく戦斧が振り下ろされる。
「がはッ」
胴体を真っ二つにされた生徒はしばらくもぞもぞと動いたあと、光の粒子となって砕けて消えた。
三列目の生徒は仲間の様子を見向きもせずに回れ右をして一目散に逃げだす。
走り始めてすぐに後ろにいたはずの仲間が消えていることに気づいた。
あいつ、先に逃げたか。まあ俺も人のことは言えないな。
そんなことを考える余裕があるだけ、この生徒は戦場への適応力があったということかもしれない。
だが、すぐに首筋に悪寒が走り、続いて熱い衝撃が悪寒の後を追いかける。
視界がぐるぐると上下左右に旋回して悪酔いそうだ。
回転する視界の中で、角を生やした二本足の獣の巨体が四人目の仲間の首を鷲掴みにしている映像を捉えた。頸椎が変な角度に曲がっている。
ああ、やっぱりあいつもダメだったか。
彼の意識が途絶えたあとも、首から下は数歩走って壁に斜めにぶつかり転倒する。もんどり打って倒れながら、死体は細かい光の破片に分解して消えていった。
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