第71話 鍛冶屋のひとりごと
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珪砂の精製作業は順調だ。嬢ちゃんのアドバイスがあってから、水流による比重分離の性能は飛躍的に上がった。純度の点でも生産量の点でも最初の頃の十倍は効率化が図れている。
倉庫番同好会の連中が女神だとか救世主だとか言っていたな。
違いない。あの嬢ちゃんはさしずめ知恵の女神アテナだな。
それにしても、この砂はとんでもない代物だ。
精製技術が向上し鉱物の分離性能が上がったことで分かったことがある。この砂には金属製造に欠かせない鉱物が多く含まれているのだ。
一番多いのは珪砂だが、他にも金、銀、銅、錫、ニッケル、クロム、鉛、それに砂鉄だ。砂鉄はここで手に入る砂にちょうど十パーセント含まれていることが分かった。
偶然ではないだろう。
このダンジョンは大昔の魔導士が何らかの意図をもって作り上げたものだと聞く。ならば、そこで産出する砂の成分も厳密な意味を持った組成になっているに違いない。
過去の記録には鉄鉱石の鉱脈があると記されているから、鉄の原料を手に入れる方法は砂だけではないのだろう。だが、ダンジョンの一番最初に入手可能な鉱物資源が砂であり、そこに有用な鉱物が一定の割合で含まれていることには作為を感じる。
いや、配慮もしくは優しさと言い換えたほうがいいだろうか。
そんな神の恵みを見つけて届けてくれたコウタは、神々の伝令使ヘルメスといったところか。
アイテム化した状態の砂袋一つが十キログラムだ。
一袋で大きめのガラス板一枚が作れる分量になる。そして副産物として砂袋一つから一キログラムの砂鉄が手に入る。
砂鉄三十キログラムを手に入れるには砂袋三十袋が必要。
悪くない数字だ。今の精製能力を考えれば、三日もあれば足りる。
三十キログラムの砂鉄からは二キログラムの玉鋼が得られるだろう。
玉鋼が二キログラムあれば、日本刀が一振り打てる。
もちろん、一発で完璧なものが作れるなんて甘い考えは持っていない。
だが、三日で一振り分の砂鉄が手に入る環境が整ったのだ。
三年間、夢にも描くことが無かった環境が、今は目の前に広がっている。
やってやる。
まずは玉鋼の精錬だ。
卒業までの日数は情けないほど少ししか残されていない。だが、ゼロじゃない。
納得のいく玉鋼が出来たら、そのときは。
「約束ですぜ、姐さん。刀の打ち方を、刀の焼き入れを、作刀のすべてを教えてもらいますよ」
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