第70話 サークル・ランチャー
いつの間にか鍛冶屋さんに来てかなり時間が経ったみたいだ。そろそろ下校時間を意識しないと。モノ作りに夢中になったひよりを工房から引き離すのに苦労しそうだ。
ボクは工房の奥、伊丹さんが金属加工をしている作業場に足を運ぶ。ちひろくんと呼ばれていた一年生もいつの間にか珪砂を精製する作業のほうに戻っていた。
「ひよりー、そろそろ戻って帰る支度しないとだよー」
「あ、コウくん。見て見てー」
じゃじゃーん、という感じで太い円筒形の装置を差し出す。
「これが映写機の完成品?」
「ちっちっち、『魔法陣焼き付け装置』だよ」
三十センチメートルほどの長さの円筒に握りやすい形状のグリップが付いている。
大きめのレンズを収容しているため、円筒の直径は五センチメートルくらいはあるだろうか。
円筒の下部には四角い断面のレールが取り付けられていて、円筒のお尻の部分から木製のグリップが流れるようなカーブでつながっている。すべすべに磨かれていてとても握り心地が良さそうだ。
グリップの末端にはフックを引っ掛けるような輪っかの金具までついている。
「ここをこう持って、つまみをスライドさせてレンズの焦点を合わせるんだよー」
左手で底部のレールを支え右手でグリップを握ることで重みのある本体をブレずに支えられるようにしている。魔法陣を投影する位置を狙いやすい構造ということだそうだ。
「魔法陣を描いたスライドガラスは横から差し込む感じで考えてたんだけど、持ち運びのときの固定を考えると内臓するほうがいいっていうことになってね」
ひよりがそういいながらグリップの上にあるレバーを親指でずらすと、レールの中ほどにあるヒンジを軸に円筒部分とグリップが分かれて中身が見えるようになる。いわゆる中折れ式という構造だ。
「ここにカートリッジ式のケースに入れたスライドガラスをセットするの。これなら簡単に焼き付ける魔法陣の取り換えができるでしょう?」
「確かに、道具は便利さを追求すべきだよね」
カポッという心地いい音を立てて開いた『魔法陣焼き付け装置』がカチッと小気味いい音を立てて閉じる。
うーん、これって……。
「これ、なんで筒が真っ黒に塗ってあるの?」
「スライドを投影するときに筒の中の乱反射が多いと映像がボケるから真っ黒に塗ってもらったの」
その理屈だと外側まで黒く塗る必要はないはずだけど。塗料にどぽんと漬けて着色したんだろうか。
何となく製作者の伊丹先輩のほうを見ると、さっと目を逸らされた。
「この引き金は何に使うの?」
「これを引いている間だけ魔結晶から光魔法が放たれるの。できるだけ出力を絞ってあるけど、もとが強力な魔法だから短時間の照射で十分なんだー。だから制御しやすいように引き金でオン・オフできるようにしてあるんだよー」
「なるほどねぇ」
『魔法陣焼き付け装置』を受け取って構えてみる。
確かに、重い本体を支えやすく狙いをつけやすい形状になっている。
照準を合わせた姿勢でピントを調整する操作もやりやすい。
でも……。
「それぞれ理屈は通っていますね」
じっと伊丹先輩を見る。相変わらず目を逸らしたままで、頬をポリポリ掻いている。
「でもこれって絶対、先輩の趣味ですよね」
だってこれ、そのまんま見た目グレネードランチャーじゃん。
「いや、ほら、人が使いやすい道具は似たような形になるじゃない?だからこれも使い方を追及した結果というかなんというか……形をデザインするのに参考にする物があるほうが作りやすかったというか……」
しどろもどろである。
ひよりはこれでいいのかな?見た目が武器の道具ってポリシーに反しない?
「銃器ってカッコいいよね。機能美のカタマリっていう感じで素敵だもの」
どうやら道具としての美しさには理解があるようだ。伊丹先輩もほっと胸をなでおろしている。
「それに男子はこういうの大好きでしょう?道具作りにモチベーションは大事だよ。楽しんで作るのが一番だもん」
ごもっともです。
「じゃあ、これだけゴツイ姿していて『魔法陣焼き付け装置』じゃ締まりがないよね。カッコイイ名前を付けてもいい?」
仕方ないなーという表情でひよりがうなずく。
「そうだね。魔法陣を打ち出すイメージで……『サークル・ランチャー』!」
「おお、それっぽいな」
はい、わかってます。自覚はありますって。高校生になっても中二病はそう簡単には治りません。
次のエピソードはちょっと短めなので連投します。
不規則な投稿になりますがご容赦を。




