第68話 鍛冶屋にて
「そっちをもう少し強くしたほうがいいんじゃないか?」
「あまり強すぎると全部流れてしまいます。それじゃ意味がない」
「うーん、やっぱり篩にかけるほうがいいのでは?」
「やってはみたんだけどな。案外この砂、粒が揃っているんだ。大きさで分けようとしてもうまく行かなかった」
「磁石が使えりゃなあ。砂鉄の選り分けなんざ、一発なんだが。何でダンジョンには磁石がないんだ?」
「天然物の永久磁石が出ないんですよ。過去にも記録がありませんし。磁力を扱う魔法陣も発見されていませんから、ここでは磁力の存在が外の世界とは異なるのかも」
「電磁石とかはダメなのか?魔法で電気を作るとかさ」
「工業的に利用できるような安定した電力を生み出す魔法がありませんし、銅線とか鉄芯とか金属系の資源は軒並み品不足で手に入らないんです。どうしても直接的な魔法や武器が優先されるので、この分野は研究が遅れているんですよ」
「うーむ。いずれにしても今から新技術を研究するなんて非現実的だな。やはり地道に水流を調整して比重で選り分る方法を突き詰めるしかないか。もっと水路を長くして上流の水流を速くしてみよう」
「わかりました」
ボクらが鍛冶屋さんに到着したとき、部員の人達がベースになる枠を継ぎ足して水路を延長する作業を急ピッチで進めているところだった。砂の不純物を取り除いてガラスの透明度を上げる作業をもっと大規模にできないかと工夫を凝らしているところらしい。ほかの部活の人もお手伝いに来ているようで、お祭り前夜のような活気に満ちていた。
「こんにちわー」
「おう、嬢ちゃん。よく来たな。コウタもいっしょか」
「こんにちは、テツさん。ずいぶんにぎやかですね」
「ああ、誰かさんのおかげでここんとこ大忙しさ。ま、嬉しい悲鳴ってやつだがな」
「すみません、ボクも手伝いましょうか?」
「生徒会のサポートがあるから大丈夫だ。他の部活からの応援要員を斡旋してくれているし、資材の調達も優先的に回してもらえている。至れり尽くせりで怖いくらいさ。あとで目ん玉飛び出るような請求書が回ってくるんじゃないかってな」
がはは、と豪快に笑うテツ先輩。いつもカウンターでくすぶっていた姿とは違って、とても生き生きして見える。
「ちひろくんもお手伝い?」
「あ、ひよりちゃん。僕は先輩から魔法陣の設定のお手伝いに狩りだされてね」
「ふうん、どんな魔法を使っているの?」
「水系統の魔法なんだ。流速を変えながらちょうどいい値を見つけようとしているんだけど、あんまりうまくいっていないよ」
大勢の体格のいい先輩方に混じって一年生の男子生徒が一人、ちんまりと座っていた。どうやら魔法陣研究部の部員でひよりの知り合いらしい。ひよりが駆け寄って互いに身振り手振りを交えて話し込み始めた。二人並んでわちゃわちゃやっている姿が微笑ましい。手の空いている上級生たちが小動物の動画を見る表情で眺めている。
「大量の水を魔法で生成して砂を流し、比重の重いものと軽いものに選り分けるんだ。けれど生成した水はそのまま消えて無くなるわけじゃないから無尽蔵に流すわけにはいかないんだよ。もちろん、水の生成にかかるエストの量も馬鹿にならないしね。だから水の流量は減らしつつ流速を速くしてちょうどいいところを探っているんだけど、なかなか思うようにいかなくて」
「長い水路を作ればある程度はイケることはわかっているんだが、スペースの限られた室内では難しくてな。ウチとしてはほかの作業もあるわけだし」
「せめて下処理である程度珪砂と砂鉄を分けてから水流にかけられればいいんだが」
「いま取り組んでいる方法でも案外人手が掛かってる。原料の砂はどんどん入荷するし、製品のガラスの引き合いは客が列を成して待っている状況だし、せめて珪砂の精製だけでももっと少人数で量産できるようにしたいんだ。なんとか魔法を使って自動的にできないものかな」
いつの間にかひよりも巻き込んでの検討会になっていた。
「砂の粒がそろっているっていうんでしたら、振動を加えて分けてみればどうですか?ある程度は分別できると思うんですけど」
「振動?」
「はい。こうやって砂を入れた容れ物を小刻みに揺するんです。砂粒が動ける状態になると、重い粒は下へ、軽い粒は上へと移動します。境目は混じってしまうけど、一番上と一番下はそれなりに比重が異なる粒子が集まるんですよ」
「振動を与えるだけなら簡単な魔法陣で実現できますよ。魔法陣が一定時間で止まるようにすれば放っておけばいいだけなので手間もかかりません。さすがだよ、ひよりちゃん」
「ほほう」
「水路のほうも直線で考えるから場所を取っちゃうんじゃないかな。魔法で水を動かすんだから普通の勾配のある水路で考えなくてもいいでしょう?ドーナツ状につないでグルグル回せば、スペースの問題も排水の問題も解決します」
「その手があったか……嬢ちゃん、すごいな」
「いえ、皆さんが作っている水路を見ていたら流し素麵を思い出しちゃって。あれって最近はテーブルの上に置いてぐるぐる回すおもちゃがあるでしょう?」
「素麺流しか。確かに似てるな。俺の地元じゃ専用のテーブルでぐるぐる回るスタイルなんだが、いやはや、思いつかなかったよ」
「水を同じルートでぐるぐる巡回させるだけなら魔法陣を効率よく配置すればエストの消費もかなり抑えられます。勾配の影響を考えなくていいから流速の微妙な制御も簡単になりますね」
「嬢ちゃん天才だな。俺たちが雁首揃えて頭ひねっても出てこなかったアイデアがぽんぽん出てくるなんてよ。君川もすぐに効率のいい魔法陣を思いつくなんて、たいしたもんだ。おまえたち、名コンビだな」
「いえ、そんな」
テツ先輩に称賛されて照れまくるふたり。
「食いしん坊が役に立ったね」
「あー、コウくん、ひどいー」
「わはは。ところで今日は何か用事があったんじゃないのか?」
「はっ、そうでした。映写機のケースの調整に来たんでした」
「それならもう仕上がっているはずだ。奥に伊丹が居るから声をかけてみな」
「ありがとうございます」
「それ、ひよりちゃんが新しく作っている魔法道具?僕も見たいからいっしょに行っていい?」
「いいけど、あんまり大人数で行ったら邪魔にならないかな」
「ボクはここで待ってるから行ってきなよ」
こういうモノ作りとか魔法の話になると役に立たずだからね。
「そう?じゃ、ちひろくん見てみる?」
「うん、ありがとう。へぇー、なるほど、こんなふうになってるんだ……」
モノ作りが好きなもの同士、分かり合えるものがあるのだろう、二人は熱心に話し込みながら工房の奥へと消えていった。
テツさん達も新しいアイデアを実現するためにあれやこれやと忙しそうに動いている。ボクは手持無沙汰気味に工房を後にして、店舗のカウンターで鍛冶屋の商品を眺めながら待つことにした。
読んでいただき、感謝御礼申し上げます。いかがでしたか?
今後も連載や読み切りの投稿を頑張っていきますので、ぜひブックマークやフォローをしていってくださいませ。
別作品ですが、短編も投稿しています。ちょっとテイストの違う作品ですが、是非お読みください。
https://t.co/nLDoPEct9s
『硝子の宝石箱 ~悲しみを集める無垢な少女の物語~』
カクヨムにも同時投稿しています。そちらでもフォローや応援をいただけると嬉しいです。




