第67話 特注品
「でも、どうすればいいんでしょうか」
「そうですね。彼らの言い分では、もともとやりたかった部活動の内容に集中したいとのことでしたが」
「もともとの部活動って、『倉庫番』だよね」
「うん、そうだと思う。浮遊術式を埋め込んだ箱を作ってあげたらとても喜んでいたし」
「倉庫番をするのはいいけど倉庫業務はダメってこと?どっちも同じ倉庫の荷物運びに思えるけど」
「ううん、違うよ、コウくん。『倉庫番』は浮遊術式で滑りを良くした箱を動かすパズルゲームで、倉庫業務は重い荷物を運ぶ労働だもの」
「荷物の重さを気にするような体格じゃないと思うけど。やっぱりスーって動く感じが楽しいのかな。それなら倉庫業務のほうも同じ感じにすればいいのに」
「ですが、商会の商品はいろいろな大きさがあります。彼らが好んで扱うような大きな箱に毎回詰めたり出したりするのは、結局人手が必要になるのであまり効率的ではありません」
「うーん、大きな箱に入れないで、大きな箱と同じように運べるようにする、か……。あ、アレが使えるかも」
またひよりが何かを思いついたようだ。
「商会のほうではパレットって使っていないですか?」
「パレット?絵具を出しておくやつ?」
「そっちのパレットじゃなくて、輸送に使うパレットだよ」
「ええ、商会も倉庫内の荷物の運搬にはパレットを使っています」
パレットというのは一メートル四方で厚さ十センチメートルほどの四角い板状の台のことだそうだ。輸送の世界ではこれが運搬するときの基本の単位で、パレットの上に荷物を並べてひとまとめにし、フォークリフトを使って棚に上げたり下ろしたり移動したりする。そういえば、映画で観たことがあるかも。巨大な倉庫でそんな風にパレットに乗せた荷物を運んでいるシーンがあったっけ。
「パレットの裏に浮遊術式を埋め込めば『倉庫番』の荷物と同じように運べるようになりますよ。それなら倉庫番同好会の皆さんも運んでくれるようになるかも」
「わかりました。さっそく手配しましょう。特注品の転写シートの用意もお任せください」
びっくりするくらい判断が早い人だなー。あれよあれよという間に段取りを決めていく。パレットに魔法陣を焼き付けるのに特注品の転写シートが必要だとひよりが説明したら、そっちのお代も商会が持ってくれることになった。最近エストの消費が激しい我が魔法道具同好会としては大変助かる提案だ。
「いろいろとありがとうございます」
「いえ、こちらもお客様として来ていただいたあなた方に無茶な注文を振って申し訳ありませんでした」
「倉庫番同好会の説得がうまくいくかはまだわからないですが、いいんですか?」
「ひよりさんの発明が完成すれば、画期的なものになるのは素人でもわかります。相談役からも魔法道具同好会には協力を惜しまないように言われておりますので」
眞秀さん、いい人だな。
「申し遅れました。わたくし、当商会のCOOを務めております、奈良屋千寿と申します。改めまして、今後ともよろしくお願い申し上げます」
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「……というわけで、アリバス商会さんのお仕事を手伝ってほしいの」
「わかりました。やりましょう」
なんと、二つ返事である。
「いいの?これまでさんざん安い時給でこき使われたから手伝いたくないんじゃ?」
「まあ、前の経営者にはいい思いはないな。報酬と称してあのようなガラクタを押し付ける輩だったからなおさらだ」
倉庫番同好会のリーダー格の大男が苦い顔で部屋の隅を見る。そこでは部員の一人が重たげな金属製のヘルメットのようなものを身に着けてせっせとスクワットをしていた。古いSF映画に出てくる宇宙服ような丸い覗き窓がついたヘルメットで、頭部から肩までをすっぽりと覆っている。真鍮の板を打ち出して作られており、全体の重量は六十キロを超えるのではないだろうか。あんな風に完全に頭を覆っていたら息ができないんじゃないのかな、と思ってよく見たら覗き窓にはガラスがはまっていなかった。
「だが、我らを虐げた前任者は更迭されたからな。新しい経営者は報酬アップを申し出てくれている。我らとて、部活動を続けるにはエストを稼ぐ必要がある。ここらが折り合いをつける潮時であろう」
「ひより様が我らのために倉庫番に相応しい浮遊パレットまで用意してくださるのだ。そのご温情に応えぬわけにはいかぬ」
「なにより、ひより様のお望みを叶える一助になりますれば、我らの受けた御恩を僅かなりともお返し差し上げる好機」
「救世主様の思し召しならば、我ら倉庫番同好会は粉骨砕身尽くしましょう」
フン、とマッスルなポーズを極める四人。
うーん、なんだかアブナイ人たちに気に入られちゃっているみたいだよ、ひより。
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「へえ、さっそく倉庫番の件を解決したんだ。やるねぇ、今度のCOOは」
「魔法道具同好会の協力を仰いだそうです。経費はかなりかかったようですが」
「彼女たちにかかった費用ならば問題ない。いい投資だと考えればいいさ。それにしても面白いことを考えるねぇ。透明な転写シートか。光の魔結晶の提供がこんなに早く結果に結びつくとは」
「代表の慧眼には恐れ入ります」
「おいおい、追従は不要だよ。私が凄いんじゃない、彼女が凄いのさ。それにしても打てば響くように結果を出すなんて、経営者冥利に尽きるねぇ。思わず欲しくなっちゃう人材だよ」
「……」
「わかっているさ。彼女は野に放ったままのほうが輝く人材だってことはね。だけど、生徒会に奪われたくはないねぇ」
「御意」
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