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第62話 呪い同好会

「ロウソクって何に使うの?」

「スライドを作るんだよー」

 ボクの目がハテナマークになる。

 映写機を改良するために部品を買いに出かけた帰り道。結局買ったのはロウソク一本だけだった。他にも何というか凄そうなアイテムを手に入れたけれど、あれはオマケだし。それでロウソク一本で何をするつもりなんだろうとずっと考えていたんだけどわからなかった。わからないことは聞いてみよう、の精神で直接ひよりに尋ねてみたけれど、やっぱりわからない。

「あのね、コウくんの案だと魔法陣を描く土台になるスライドガラスを最初に真っ黒に塗り潰す必要があるでしょう?」

「あー、うん」

 わかってない人の相槌を打つ。

「塗料を筆で塗るとムラが出来てやりにくいと思うんだ。それに引っ掻いて削れやすい塗料っていうのも思いつかないし」

 ああ、なるほど。先っぽからインクが出るペンだとどうしても線が太くなっちゃうから、真っ黒に塗りつぶしたインクを鉄筆のような尖ったペンで削り取ることで細い線を書けるようにするってことか。

「裏から強い光を当てるわけだから、出来るだけ遮光性が高い塗料がいいんだよね。で、薄く均一に着いて遮光性が高い黒っていったら、すすだーって思ったの」

「なるほど?」

 でもまだ半分わかっていない。アイデアは理解したけど、そこになぜロウソクが出てくるの?

「それでね、前に何かの番組でロウソクの炎にガラスをかざして煤を採る実験をしてたのを思い出したの。これだーって」

「なるほど、さすがひより。物知りだね」

 今度こそようやく理解した相槌を打つ。

「そんなことないよー。思いついたの、コウくんのおかげだし」

 そんな会話をしながら部室の扉を開ける。上機嫌で部室に入っていくひよりに続こうとしたところで背後から声がかけられた。

「神聖なダンジョンでイチャつくバカップル発見。わらわのテリトリーでそのようにうつつを抜かすとは良い度胸だ。天罰を下す」

 振り返るとベレー帽というのだろうか、丸いウールの帽子をちょこんと頭に乗せた肩くらいの髪の女子がケープコートを払ってボクにワンドを突きつけていた。

「ジーバ・ウーヌス、デ・ミニモ・ディジト」

「えっ?」

 杖の先から淡い光が霧のように広がり、ボクを包む。

 突然のことで何をされたのかわからない。けど、体は部室に入る動作を続けていたわけで。結果的によそ見をしたまま一歩を踏み出した。

 コツン。

「痛っ、くぅ~」

 ドアに小指ぶつけたーっ。

「ふっふっふっ。今のは小指をぶつけやすくするおまじないだ。少年、これに懲りたらこの辺りでイチャイチャするでないぞ」

 ぐぬぬ~、なんかよくわからないけど痛くて反論の言葉も出ない~。

「どうしたの?コウくん。あ、ゆーちゃん」

「む?ひーちゃん。なら、この少年は魔法道具同好会の?」

「うん、部員の姫野荒太くん。コウくん、こちらお隣さんの夜遊よあそび優冥ゆめい先輩だよ。おまじない同好会の部長さん」

「ひーちゃんの知り合いだったか。これは済まん事をした。どれ、治してやろう。ぶつけたほうの足を出せ」

 状況に流されるままに痛みの残る右足を前に出す。

 ベレー帽の女子がワンドの先で痛む部分を二度、撫でるように振るう。

「ドロォル・ドロォル・アヴォラーレ」

 ピッと指した杖からふわっと風のようなものが吹き出す。服や髪は動いていないから本当の風ではないようだけど、爽やかに肌を撫でる感触が小指の痛みを拭い去っていく。

「すごい、治癒魔術ヒールが使えるんですね」

 ダンジョン探索もそこそこ長くなったのに、本物の魔法然とした魔法にお目にかかったことがない。怪我の治療はもっぱら薬草で作ったポーション頼みだし、魔術師タイプの生徒ともパーティを組んだことが無いから、彼女の仕草は初めて見る本当の魔女のようでテンションが上がった。

「魔術ではない、まじないじゃ」

 何かこだわりがあるようで、強めの語気で否定された。

「良いか、魔法とは魔法陣で起動されるものであることは知っておろう?」

「ええと……」

「なんじゃ、そこからか。ここ(ダンジョン)で使われる魔法はすべて魔法陣で記述されておる。魔術師はマジックアイテムに刻まれた魔法陣を駆動することで魔法を放つのじゃ。魔法を放つ杖や腕輪を製作するのが魔工師、それを駆使して素早く、効率よく、正確に魔法を放つすべを修練した者が魔術師じゃ」

 こくこくと相槌を打つ。

「ではその魔法陣はどこから来たのか?まあここで我らが使う魔法陣はどれも先達の残した書物から写し取ったものだが、その昔、最初の魔法陣が作られたのはまじないを誰にでも使えるようにする研究の産物だったという。つまり、まじいはすべての魔術のいしずえなのじゃ!」

「へー、じゃあ、さっきの治癒のおまじないは治癒魔術ヒールよりも強力なんですね」

「いいや、あれはただ痛みを取るだけで傷を治す効果はありゃせん」

「えー、それじゃあ何の役にも立たないんじゃ……」

「何を言う。現におぬしの指の痛みはなくなったではないか。傷口がないなら、痛みが無くなったら治ったも同然じゃ」

「そ、そうですね」

 あまり突っ込んで機嫌を損ねたらまずい。また何か変なおまじないを掛けられかねないからね。

「ふん、治す必要もない怪我まで治すなどエストの無駄遣いではないか。ヒールなぞオーバースペックで使い勝手の悪い魔法にすぎん。その点、この痛みが飛び去るまじないは消費エストも最小限で効果は抜群、即効性にも優れるという代物じゃ」

「そうなんですかー、すごいですね……」

「ま、ヒールはこのまじないを解析し魔法陣に落とし込んで体力回復効果と組み合わせて考案されたものじゃしな」

 どうやら、最後のこれが言いたかったらしい。エヘン、とばかりに自慢げな顔になる。

「少年、お主は見所がある。困りごとがあったら来るが良い。相談に乗ってやろう」

「ありがとうございます。覚えておきます」

 ようやく解放された。ひよりは先に部室に入ってスライドガラスの加工に勤しんでいるようだ。ボクも早く行かなくちゃ。

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