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第60話 ロウソク

「こんにちわー」

「いらっしゃいませ」

 接客のお姉さんが挨拶をくれる。

 ん?なんか横の一年生っぽい男子生徒に目配せしたぞ。男子生徒は軽くうなずくような仕草のあと、店の奥に消えた。

 そんなやり取りに気づくふうもなく、ひよりはカウンター脇の書見台のようになったテーブルでカタログをチェックしている。

「あった。あのー、このロウソクってあります?」

「『獣脂のロウソク』ですね。少しお待ちください」

 お姉さんがカタログの番号を控えて、後ろの壁にびっしりとしつらえられた薬棚のような抽斗ひきだしを指でたどる。目的の抽斗ひきだしを見つけたようで、一つを引き抜いてカウンターに持ってくる。意外と長い抽斗だ。興味本位で中を覗くと、薄い油紙のようなもので一本ずつ丁寧に包まれた棒状のものが数本入っているようだった。

「おいくつご入用ですか。あいにく、それほど多くの在庫はありませんが」

 棒状のものを一つ取り出して梱包を解く。中からは濁った黄色のロウソクが出てきた。思ったよりもぶっとい。そして汚い。包み紙が清潔感のあるきちんとしたものだっただけに、中身の質の悪さが目立つ。

「一本でいいです。おいくらですか?」

「百二十エストになります」

「たっか……」

 つい言葉が漏れてしまった。慌てて口を手で塞ぐ。でも、ダンゴムシ百二十匹分だよ?

 お姉さんはイヤな顔一つせずに説明してくれる。

「最近では原材料の獣脂が手に入らないんですよ。レシピはあるので材料さえ手に入れば作れるのですが、もう数年前から製造はできておりません。ここにある分が最後の在庫なのです」

「そ、そうですか。それは値段が上がっても仕方ないですね」

「幸いほとんど需要がないので問題にはなっていないのですが、当店でもやむなく取り扱いを停止した商品も多くなって参りました。ちょっと寂しいですね」

 にっこりと笑みを返してくれるけれど、言葉の内容のせいか寂し気に見える。なんとなく罪悪感を感じてしまう。

「一本いただきます」

 ひよりは躊躇なく支払い手続きを済ませる。必要なものにはお金を惜しまないって感じだ。男前だなー。

 さて、買い物は済んだようだ。着いてすぐに目的の物を購入してしまったからちょっと拍子抜け感はある。女子の買い物は長いって噂には聞くけど、ひよりはそんなところも男前なんだね、と思っていたら書見台のカタログに戻って詳しく目を通し始めた。まだ何か買い物があるのかな?

「ほかに何か買うの?」

「ううん、何か面白いものないかなーって見てるだけだよ」

 あらら。ま、気が済むまで付き合いますか。

 ボクも店の中をぶらぶらと見て歩く。アリバス商会の店舗は鍛冶屋さんよりも広く、展示品も多岐にわたっている。だけど、見た感じ防具の類は少な目だ。革鎧が何パターンかあるのと、レガースや革靴の類。手袋関係は他に比べて種類が豊富だ。アクセサリ系はもっと豊富だ。シンプルなブレスレットや指輪。石がはまっていないということは完成品ではなくパーツ扱いなのだろうか。少し先にはショーケースに入ったものが並んでいる。こちらはブレスレットに微細な紋様が刻まれていたり複数の金属が組み合わされていたりとても凝った作りになっている。指輪も宝石が留められていた。どうやらこちらが完成品のコーナーらしい。

「ダンジョンで売っているんだから、装飾品じゃなくてマジックアイテムなんだろうか」

「そうですね。こちらは氷属性の魔術用のブレスレットになります」

 わっ。独り言のつもりが相槌が返ってきて思わず叫びそうになる。

「驚かせて申し訳ありませんでした。当店のお買い物をお楽しみいただけていますか?」

 声のほうを振り返ると、すぐ後ろにサラサラの髪をうなじの高さで切りそろえた端正な顔立ちの男子生徒が立っていた。

「あ、はい。いえ、買いに来たのはひよりのほうで……」

「魔法道具同好会の琴浦ひよりさんですか。ではあなたが姫野荒太さんですね」

「はい……」

 唐突に始まった会話に戸惑う。この人誰?

「これは失礼しました。私は金今かねこん眞秀ましゅうと申します。この店の、まあ相談役と言いましょうか、末席ながら経営に参加させていただいている者です」

「はあ」

 にこにこと人当たりのいい笑みを浮かべている。アリバス商会の経営陣ってことは商売人なんだろう。さしずめ営業スマイルといったところかな。ボクに何の用だろうか?

「実は姫野さんに謝らなくてはならないことがありまして、こちらから伺おうと思っていたところでした。ご来店のついでのような形になって申し訳ありませんが、少しお時間をいただけないでしょうか」

「あ、いえ、お構いなく」

 なんだろう。ボクに初対面の人に謝られるような心当たりはなかった。

「コウくん、コウくん」

 ひよりが金今さんに気づいてボクのそばに寄ってきて袖を引く。

「この人、生産系部活の代表の人だよ」

「えっ」

「琴浦さんもどうぞご一緒いただけますか。魔工技術共同機構アカデミーとして説明責任があると思いますので」

「わかりました。コウくん、行こう」

「わかった」

「では、こちらへ」

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