第59話 お買い物
「さあ、助手くん。今日は水泳部に聞き込みに行くぞ」
「やだよ。そんなの」
「なぬーっ。昨日約束したじゃないか、旧校舎の調査が終わったら次はプールだって」
「してません」
ヨギが周りの様子をうかがいながら小声でささやく。
「旧校舎の件はおまえが証拠品を掻っ払ったから誰にも言えないだろ?」
「うっ、まあ、うん」
「だったら責任取って付き合えよな」
「うう」
「いーじゃん、おまえも七不思議好きなんだろ?」
いや、ヨギほど入れ込んでいるわけじゃないし。けど、旧校舎の幽霊がただの噂話しじゃなかったことを考えると、プールの歌声についても興味がないと言えば噓になる。
「オトコ二人で何こそこそ話ししてんの?」
「うひゃぃ、白井さん?」
「その反応は、何か後ろ暗いことがあるわね。何を企んでいるの?」
「企んでいるだなんてそんな。コウタと放課後の予定を話し合っていただけさ。な、コウタ?」
こっちに振らないでほしい。
「はん、ごまかされないわよ。あんたがプールがどうのこうのって言っているの、聞こえてたんだからね。おおかた、競泳プールを覗きに行こうって計画してたんでしょう?」
「いっ、そんなわけないじゃん。冤罪だよ、冤罪。な。コウタ?」
だから、こっちに振るなって。
「さー、ヨギはプールに行くとかっていたからそうなのかも。ボクは行かないから詳しいことは知らないけどね」
「あー、この裏切り者~」
「コウくん、今日はプールに行くの?」
「ん?あ、ひより。いいや、ボクは行かないよ。何か用事あった?」
「よかった。あのね、今日ちょっと作っている物のことで相談したいことがあるの」
「ん、わかった。じゃあ今日は放課後は部室に顔を出すよ」
「ありがと。じゃあ、あとでね」
ひらひらと手を振ってひよりが前のほうの自席に戻っていく。
「と、いうわけで部長命令で本日は部活に出ることになりました」
「ぐぬぬ、コウタぁ。オレのほうが先に誘ってたのにぃ~」
「どこに誘ってたのよ」
「だから水泳部だ……って、白石さん」
ヨギはギリギリで『まだいたの』という言葉を飲み込んだ。
「やっぱり。不審者は出る前に摘まないとね」
「だから違うって。男子水泳部、そ、男子のほうに用事があるんだよ」
「だ、男子のほう?フケツよ~」
あらら、なぜか顔を真っ赤にして行ってしまったよ、白井さん。
「助かった~」
んー、なんか助かったというのとは違う気がするよ?ヨギくん。
「過足進、双子座。恋愛運上昇の気配。守護星が第五惑星ラーフの影響を受けるのでアブノーマルな世界に足を踏み入れる暗示も……」
「どゆこと?」
「……大丈夫。多様性は世界標準だから」
「えぇぇ、水泳部行くの、やめとこうかな……」
***
さて、放課後である。
ひよりから作成途中の作品の説明を受け、課題について相談された。ずいぶんと買い被られている気がするけれど、頼りにされて応えられないのは男が廃るじゃないか。ここは無い知恵を絞ってがんばってみよう。
「細くてシャープな線を映したいってこと?」
「そうなの。倍率とかピント調整とかはおいおい改良していけばいいと思っているんだけど、魔法陣を拡大表示するっていうコンセプトが実現できないなら、他の手段を考えないといけないし」
「なるほど。これって要するにスライドを映す映写機ってことだよね。写真のフィルムみたいなやつをセットして映し出すんだっけ」
小学校のときに先生が理科の教材だったか社会の授業だったかで見せてくれた記憶がある。デジタル世代のボクたちはフィルムそのものを見たことも触ったこともなかったから、授業そっちのけでみんなでスライドの駒のほうを窓にかざして『すげー』を連発してたっけ。
「うん。ダンジョンにはカメラもフィルムもないからそこまでの物は作れないんだけど」
「それでガラスの板に手書きなのか」
「そう。ガラスに書けるペンってどうしても先っぽが太い作りになるから線が太くなっちゃうの」
「拡大するなら普通のシャーペンの細さでも足りないよね。そんなの、針かなんかで引っ搔き傷つけるくらいじゃないとできないんじゃ?」
ガラスに引っ搔き傷をつけるなんてできないと思うけど。それとも魔法で何とかなるのかな。
「引っ搔き傷か……。そっか、線を書く必要はないんだ。線を彫れば……。ガラスにカーボン皮膜を形成してそれを鋭利な物で削る……、うん、いけるかも」
ひよりが難しいことを言い出したときは、たいてい何かアイデアを思いついたときだ。どうやら一人で解決策を思いついたらしい。
「ありがとう、コウくん。コウくんの案なら何とかなりそうだよ」
「へっ?」
ボクの案?アイデアなんて何も出していなんだけど。
戸惑うボクをよそに、ひよりが身支度を始める。
「さっそく材料を買いに行くよ。コウくんも来るよね?」
「あ、うん」
なんだかわからないけれど、ダンジョンに潜らないならひよりの手伝い以外にすることはない。荷物持ちくらいはできるかな。あ、重い荷物はストレージに仕舞えばいいから要らないか。うーん、つくづく役立たずに思えてきた。
しょんぼり気味のボクとは裏腹に、ひよりはスキップをしかねないくらいの上機嫌で通路を歩いていく。すぐにアリバス商会に着いた。




