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第55話 増える階段

 緊張を誤魔化すために階段を一段ずつ数えて昇る。十六段。一般的な日本の建物の場合階段はたいてい十三段だから、この旧校舎はやっぱり日本建築より天井が高い造りになっているみたいだ。

「こっちだ」

 周りをきょろきょろと観察しながら歩くボクを置いてヨギがずんずん奥に進んでいく。まだ少し日の光が残っていることもあるんだろうけど、本人が言ったとおりヨギは幽霊を怖がっている風ではなかった。

「この部屋のはずなんだけど」

 ヨギがドアノブに手をかけ、ゆっくり回す。鍵は掛かっていなかったようで、薄く開けたドアから中を確認してから大胆に開け放って中に入っていった。

「うーん、これのせいかな……」

 ヨギに続いて部屋に入ったボクをたくさんの顔が出迎える。

「ひぃ……って、石膏像じゃないか」

 美術準備室として使われていたのだろうか、よくあるギリシャ彫刻の胸像が五体ほど、その他にもサイズの異なる石像がいくつか棚に並べられていた。

「幽霊の正体見たり枯れ尾花、ってやつ?」

「美術の石膏像って並んでると不気味だよね。一つくらいこっちを見ていそうでさ」

「だな。それにしても、『ひっ』て可愛かったな」

 二ヒヒと笑うヨギ。

「こっちは幽霊が出るって言われて連れてこられたんだよ。そりゃ、こんなの急に出くわしたらびっくりするでしょ。ヨギは知ってたんじゃないの?これ」

 もしかしてドッキリだったのか?ヨギは準備周到だったし。怪しい……。

「悪い悪い。でもほんと、知らなかったよ。こんな場所だって事は」

 むう。

「しかし、なんだろうな、これ。他の部屋の物は全部持ち出して片づけられてるっぽいのに」

 ヨギが一つずつ石膏像を撫でながら見ていく。

「さあね。新校舎のほうに新しいのがあるから、余った物は置いてあるんじゃない?」

 適当に相槌を打ちながらボクは反対方向に見て回る。

 辺りがずいぶん薄暗くなってきた。部屋の配置の関係でこちらには西日が入らないのだろう。いつの間にか文字を読むのに苦労するほどの薄暗がりになっていた。

「ぎゃっ」

 そろそろ戻ろうかと声をかける寸前、ヨギが悲鳴を上げた。

「なに?どうしたの?」

 振り返るとヨギが腰を抜かしたように床にへたり込んで棚を指さしていた。

「こ、こ、これ、光ってる」

 それは手のひらに収まるほどの石像の頭部だった。他の胸像とは違って、生首だけが棚の上の敷物に直接据えられてる。それがほんのりと光っていた。

 少しうつむき加減で置かれた顔は観音像のように薄い笑みを浮かべている。それが光ることで不気味な陰影が浮かび、床から見上げるヨギにはニヤリと笑い掛けているように見える。

「ひぃっ」

 思わず両腕で顔をガードするヨギ。

 そばで慌てている人を見ると妙に冷静になるというか、この淡い発光現象に見覚えがあったボクは躊躇なく石像の頭を鷲掴みにした。

「コ、コウタ、触っても大丈夫なのか?」

「うん。これ、見覚えがある。たぶん、部室にある女神像の頭部だ」

 厳密に言うと女神様のご尊顔を拝見するのは初めてだ。だけどこの質感、この淡い光。間違いなく女神像の一部だと確信していた。

「へっ?」

「魔法道具同好会の部室に壊れた女神像があるんだよ。ひよりはそれに毎日修復魔法を掛けているんだ。初めは願掛けのようなつもりでやってたみたいだけど、最近ボクが欠けた腕を見つけて持って帰ったんで、修復できないか毎日試しているみたい。そのときに今みたいに光るんだよ。本体に手をかざして修復魔法を発動すると、女神像の欠片が全部いっしょに光るんだよね。

 きっといまごろ、ひよりが修復魔法を本体に掛けているんじゃないかな。ほら、光が収まってきた」

「なんだよ、脅かすなって」

「『ひぃっ』って言ってたね」

 床に座り込んで脱力しているヨギを見下ろしてニヤリとする。

「スンマセンでした。わたしが間違ってました。だからこのことは誰にも内緒ってことで、ひとつ」

 両手をあわせて拝み倒してくる。

「いいよ。もちろん、ボクの分も口外しないでね」

「へいへい」

 ヨギが差し出す手を引いて立ち上がらせる。ボクの左手は女神像の頭部を持ったままだ。

「それ、どうするんだ?」

「部室に持って行って修復出来ないか試してみたい」

「勝手に持ち出していいのか?」

「ダメに決まってるじゃん」

 にやり。

「だな」

 にやり。

 そろそろ下校時間だ。誰かに見つかる前に退散するとしましょう。


 一応、周りを気にしてこそこそと移動する。

 帰り道は嵩張る荷物を持っているのでちょっと階段を降りる足運びが怪しくなる。こういうとき、ストレージが使えない外は不便だよね。あれ?ダンジョンのモノは外に持ち出せないはずじゃ……

「おっとと」

「なんかここの階段、来たときと感じ違うくね?」

「歩きにくいなと思ったけど、ヨギも?」

「うーん……。一、二、三……二十段あるぞ」

「えっ、昇ったときは十六段だったよ?」

「一、二、三……やっぱり二十段だ」

 一段や二段なら数え間違えもあるかもしれないけれど、四段も差があるなら勘違いってことはないはず。

「これってまさか……」

「段数が変わる階段?!」

 中央ホールの一階部分はすでに明かりがないと隣に立つヨギの表情も判別できない暗さだった。

「「ひえ~」」

 とにかく足元が見えるうちにと入ってきた部屋に駆け込む。幸い、窓は開けっ放しで来たから出口に迷うことはなかった。ヨギ、本当に手回しがいいよ。感謝。


 あとで冷静になって思い返してみると、二階に上がるときは左の階段を使って、帰りは右の階段を降りたのだった。だからたぶん、右と左で段数が違う階段だったというだけの話。七不思議なんてわかってしまえばそんなものだよ。ヨギはもう一度行って確かめるって息巻いているけど、ボクはもういいかな。

 でも、なんで右と左で段数が違うなんて変わった設計にしたんだろ?

 歩幅が小さい人がいたのかな。

 それと、なんでダンジョンの外に女神像の一部があったのかだけど……まあそんなこともあるんだな、とスルーすることにした。別に何かに困るわけじゃないし。

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