第54話 光る石像
「七不思議って他にどんなのがあるの?」
「うーん。勝手に鳴るピアノとか、無人の体育館で弾むボールとかかな」
「それってどこの学校にもあるやつじゃん。この学園独自の本当の本物があるってわけじゃないんだ?」
定番の七不思議ネタではあるけど、噂が立つなら全国のどこかにひとつくらい本物があってもおかしくない。ダンジョンなんてトンデモ物件があるこの学園ならなおさらだ。
「そうだな、オレの知っている七不思議はこうだ」
・旧校舎の幽霊
・プールに響く歌声
・向きを変える銅像
・数えながら上ると段数が変わる階段
・ひとりでに演奏を始めるピアノ
・無人の体育館で弾むボール
・トイレの花子さん
「明らかに他からの流用が混じっているよね?」
さっき聞いたばかりの話もしれっと上位にエントリーしているし。
「まあ、七不思議なんて数合わせで無理やり入れられることも多いからな。オレも全部が本当にあったことだとは思っちゃいないよ」
「だよね」
「だからこそ、だ。旧校舎の幽霊という証言が得られたこのチャンスは貴重なんだよ。本物の七不思議の一端に触れられるかも知れないんだ」
どうやらヨギは七不思議に相当な思い入れがあるようだね。今は時間が余っているし、つき合うとするかな。
だべりながら歩くうちに旧校舎についた。鬱蒼と茂る深い森を背景に建っている木造の洋館風の校舎だ。学園が出来た頃からある建物らしい。近年の耐震基準の厳格化で校舎としての適用条件を満たさなくなったため、今は使われなくなって久しいということだ。
無人だけど廃墟になっておらず、窓もや扉もちゃんとしている。使わずに保存されているということは、学園にとっても思い入れのある建物ということだろうか。生活感はないのにやけに人の手が触れている感じがかえって生々しい怖さを感じさせる。
「入っていいの?ここ」
「いいわけないだろ」
じゃあ、どうやって入るの?鍵が掛かっていそうな感じだけど。
「こっちだ」
ヨギが声を潜めて建物の裏側に案内する。慣れた足取りは下見をしてあるということかな。
「ここの窓が開いているんだ」
アーチ型の両開きの窓を覗き込んで中の様子を伺う。まだ暗くなるには早い時間で、採光もある部屋の中は良く見通せた。中は丸テーブルと木の椅子が一脚あるだけで、他の家具類は持ち出されている様子である。
窓枠に指を引っかけてゆっくりと開く。古い蝶番は軋み音ひとつ上げずにするりと動いた。事前に油を差しておいたらしい。どこまで用意周到なんだ、ヨギくん。
口に人差し指を当てて静かにするよう合図を送り、さっと音もなく窓枠を越える。すぐに向こうからヨギの手首から先がにゅっと伸びて、入るよう合図を送ってくる。
ボクも同じように滑らかに窓枠を越えて中にはいる。ボクは最近パルクール部で鍛えているから出来た動きだけど、ヨギは帰宅部のくせに難なくこなして見せているってのが地味に凄くないかな。
部屋は五、六人くらいがゆったりと過ごせる広さで、窓の正面に書架があり横の壁に小さめの黒板が設置されていた。書架は空で、それ以外の家具はさきほど外から見たとおりテーブルと椅子が一脚残されているだけだった。
床は大理石張りで、黒板に近い位置に円形の模様が象眼細工で描かれている。色の違う大理石が優雅な曲線を描く真鍮の線に縁取られていて美しい。建てられた年代を考えると天然の大理石だろう。板張りじゃない床といい、日本式の西洋建築にはない異国感がにじみ出ている。
一つだけある扉から廊下の様子を伺っていたヨギがほっと息を緩めて立ち上がった。
「潜入成功。とりあえず監視はいないみたいだな。行こうぜ」
「窓は閉めて行かなくていいの?」
「退路は確保しておきたい。お化けが襲ってくるとは思わないけど、逃げるときにどこかの窓を割って怒られるより、忍び込んだのを叱られるだけのほうがダメージ少ないだろ?」
なるほど納得である。ヨギのくせに頭が回るね。ちょっと手際が良すぎて怖いくらいだよ。
「幽霊が出るっていうのは、二階らしいぞ」
「よく知ってるね」
「まあな。情報収集は任せてくれ」
「幽霊を見たっていう人もここに忍び込んだの?」
薄く埃は積もっているけれど、季節ごとには手入れがされているように整頓されている。
「うんにゃ。夕方の暗い時間帯に、二階の窓がぼんやり光っていたんだと」
「それだけ?光っていただけなら幽霊じゃなくて電灯が点いていたとかでは?」
「それはないな。この建物には電気が来ていないんだ。明かりはガス灯で、すぐに点けたり消したりは出来ない仕組みなんだ」
「へぇ」
「まあ、ろうそくとか懐中電灯とか、誰かが持ち込んで使っただけかもしれないけどな」
なんだよ、ぜんぜん笊な根拠じゃん。感心したボクの気持ちを返せー。
ボクたちの侵入した部屋は建物の左翼にあった。廊下に出て中央ホールへ向かう。正面玄関だ。
中央ホールは吹き抜けになっていて、両階段で二階のホールに上がっていく。シャンデリアは地震対策だろうか、外されて金具だけが天井から覗いていた。そのほかにも花瓶やタペストリーなんかがここを飾り立てていたんだろうな。取り外し可能な装飾品はすべて片づけられているようで、きらびやかな両階段もなんだか右に傾いで見える。
やっぱりここで人の営みがあったのは旧い昔のことなんだな。
「本当に上がっていいのかな……」
「だから、ダメにきまってるだろ。立ち入り禁止なんだから」
ヨギって思ったよりも豪胆なんだね。ちょっと意外だけどこんな場面では頼もしい。




