第53話 ある日の魔法道具同好会(2)
きーんこーんかーんこーん……
放課のチャイムが鳴る。
「コウタ、行こうぜぇ」
待ちきれなかった様子のヨギから声がかかる。
「おう、ちょっと待って」
チャイムが鳴ってすぐに出られるとは。おまえ、さては授業中から帰る準備していたな?
「一度戻ってくるんだから、帰る準備はあとでいいんじゃね?」
そっか。いつもは部室にカバンを持って行くから一通り帰る身支度をして教室を出るけど、今日はダンジョンに行くわけじゃないから手ぶらでいいのか。でもまあ、途中でやめるのもすっきりしないし、ヨギには待ってもらおう。
「どこか行くのか?」
ヒコは珍しく放課後につるんで行動するボクたちが気になったみたい。
「学校の七不思議を調べに行くんだ」
「ああ、アレか。最近噂になってるもんな」
噂は剣術部でダンジョンに入り浸るヒコの耳にも入って来ているらしい。
「プールの歌声」「旧校舎の光る幽霊」
おや?という表情でお互いの顔を見合わせる。
「『プールの歌声』ってなんだよ。詳しく」
目を輝かせて先制を機したのはヨギだった。
「ん、ああ。第二階層のプールで泳いでいると水中から女の歌声が聞こえるんだと。女子部員には聞こえないらしいから男子部員の悪ふざけだとかいって男子と女子の間が結構険悪なムードになっているらしい」
「知らなかった。オレとしたことが……」
「ヨギはダンジョンの謎には興味ないんでしょ?」
「それとこれとは話が別だ。七不思議ともなれば調査するしかあるまい。コウタ、旧校舎が終わったら次はプールを調べるぞ!」
合点だアニキ、とはならんでしょ。ヨギはよっぽど暇なの?それともやっぱり中間考査からの現実逃避?
***
今日もコウくんは部活お休み。生徒会の呼び出しがあってからコウくんはダンジョンを避けているようだ。中間考査が終わるまでだよって言ってたけど大丈夫かな。足が遠のいているうちに部活に飽きちゃったりしないかな。
「ふう」
ため息が出るのにはもう一つ理由がある。いま取り組んでいる道具作りが行き詰まっているから。
二枚あるレンズの片方をガイドレールの上でスライドさせる。
スクリーンに見立てた壁の布に当たる光の円が大きくなる。
レンズとレンズの間にある留め具に五センチ四方くらいの大きさのスライドガラスをセットすると、スクリーンにぼやけた影が映る。
スライドガラスの位置を微調整してピントを合わせたところでスクリーンに落書きのようなスマイルサインが浮かび上がる。
「やっぱり線が太くて滲んじゃうな」
それに光量も足りない。暗幕代わりに壁のランプに被せた布を取り除くと、スクリーンに映し出された絵が薄れてほとんど見えなくなる。
私が取り組んでいるのは、ずばり、手作りプロジェクターだ。
倉庫番同好会さんのお仕事をこなしていて思ったんだけど、魔法陣のサイズを拡大するのって結構面倒なんだよね。フリーハンドでも大丈夫だとはいえ円があまり歪んでいると機能しなくなるし、大きいものを数作るのには時間がかかる。せめて模造紙に下絵を描く手間だけでも省略出来たらなと思ったんだ。で、拡大して映すならオーバーヘッドプロジェクターみたいなのがあればいいんじゃないかと思い立ったわけなんだけど。
これがなかなか一筋縄ではいかないんだ。
世の中には立派な製品がいっぱい売られている。でも、ダンジョンの中では手作りするしか手に入れる方法はない。
あんまりパーツが多いものは難しいけれど、単純な構造の映写機なら小学生向けの雑誌の付録で作ったことがある。仕組みは分かる。でもねえ。
一番のハードルはレンズだった。他の部品はともかく、レンズはダンジョンに転がっている物じゃないし、サイズだって自由にならない。
手に入らないよねぇ、と悩んでいたところにコウくんが砂を見つけてきてくれた。コウくんは私が困っているといつでも助けてくれる。やっぱりコウくんは私の女神様だよ。
そうだ、女神様に今日の分の修復魔法を掛けよう。いいアイデアを思いつきますように……。
「コウくんが居ればなあ」
コウくんはモノ作りにはあまり興味がないみたい。残念だけど、こういうことは無理に押し付けられても楽しくないだろうし。だけど、いっしょに見ててくれてもいいじゃない?そしたらこういう行き詰まっているときに相談に乗ってもらえるし、何かヒントをくれるかもしれない。
「相談かあ……」
うん、相談しよう。そういえばコウくんには今何を作っているかちゃんと説明していなかった。夢中になると周りが見えなくなる私の悪い癖だ。だけど、ちゃんとお話をすればコウくんはきっと一緒に考えてくれる。そしたら一緒に部室にも来てくれるよね。
それまではちょっとプロジェクターのほうはお休みして、このまえコウくんが見つけてきてくれた半分ずつの鏡を調べてみよう。




