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第51話 誘導尋問

「ありますよ」

 わざと落ち着き払って言い切る。

 副会長は尻尾を掴んだというような意地悪な目になり、生徒会長はまさかという表情を浮かべる。美宮みるく先輩は……なぜか呆れたような顔をしていた。

「第三階層の隠し部屋ですけど」

「なっ!」「えっ?」「……なるほどね」

「砂の泉って、ついこの間話題になっていたでしょう?あそこを見つけたのはボクです」

「嘘を言うな、おまえが開けたのは第二階層の開かずの間だろう?」

「何ですか、それ。知りませんよ」

 知らないものは知らないとはっきり言おう。冤罪はごめんだ。

「敷町君、誘導尋問になってるよ。そんな証言じゃ何の証拠にもならないからね」

 美宮みるく先輩が副会長を諫める。

「くっ」

 副会長が悔しそうにボクを睨みつける。勝手に勘違いしたのはそっちだし、文句を言ったのは美宮みるく先輩だよ。逆恨みはやめてほしい。

「浮遊術式の魔法陣はどうやって手に入れた?」

 副会長が質問の矛先を変えてきた。これについてはボクはよく知らないんだけど……。

「あれは前から魔法道具同好会に伝わるものです」

「前々から秘匿していただと?確認したが、浮遊術式は魔法陣研究部のリストにも載っていなかった。魔術の基礎となる魔法陣の独占はマナー違反だぞ」

「えっと、違います。前から伝わっていたのは魔法陣が入っていた箱で、中身が何かは知らなかったんです」

 わたわたとひよりが拙い説明をする。

「鍵が掛かっていた箱を開けたのはボクです。トラップリシンダーを手に入れたことでずっと閉じ込められていた中身を見ることができたんです」

「それでも秘匿していたことに変わりはない。現に今も浮遊術式の魔法陣研究部への提示はなされていない」

 副会長が手元の資料をこれ見よがしに手の甲で叩く。

「要求があれば販売しているんだから秘匿じゃないです」

 ムカッと来た。新しく見つけたモノは報告義務があるの?そんなルール聞いてない。ボクが知らないだけかもしれないけど、構うもんか。第一、未発見のモノかどうかなんて専門家じゃないと判別できないじゃないか。そんなざるなルール、徹底的に叩いてやる。

「関係者の間だけのやり取りでは情報の共有ができないだろう。積極的に知らせないのは秘密にしているのと同義だ」

「そんなルール、知りません。どこかに書いてあるんですか?」

「ルールは無い。だが、共存共栄がダンジョンの原則だ。秘匿しないのがマナーだ」

「マナーってことは守る義務はないっていうことですよね。そんな曖昧な理由で責められるいわれはありません」

「だが、みんなが守っているものだ。貴様だけが免れる道理はない」

「みんなって誰ですか?ボクは今この瞬間まで聞いたことがありませんでした。ルールじゃないってことは文書にして張り出しているわけじゃないってことですよね。そんなの知らなくたってこちらの落ち度じゃないですよ。知らないことは守れないでしょう」

「知らないほうが悪い!」

「何ですか、それ。教えないのが悪いって言ったり、知らないほうが悪いって言ったり。言うことが自分勝手ですよ。二律背反じゃないですか。自分たちに都合がいいように捻じ曲げるなんて、あなたがルールブックだとでもいうんですか?」

「私がルールブックだ!」

「言いすぎだよ、敷町しきまち日汰はるた。それ以上は専横を通り越して不敬に当たる」

 美宮みるく先輩が聞いたことのない冷たい声で制止する。

 副会長はぐっとこらえてから、生徒会長に向き直りこうべを垂れて言った。

「申し訳ありません、会長。『生徒会わたしたちが』というところを誤りました。大いに反省し、謝罪いたします」

 生徒会長は軽く手を上げうなずいて謝罪を受け入れる身振りを返した。

「すまなかった、姫野君。不明瞭なルールを課していたのは生徒会の不手際だ。謝罪する」

 生徒会長が頭を下げる。

「いえ。ボクも失礼でした。売り言葉に買い言葉で熱くなっちゃって」

「コウくんは、姫野君は本当に知らなかったんです。部長の私が手続きを怠ったせいです。申し訳ありません。ただ、信じてほしいのですが、魔法道具同好会として浮遊術式を秘匿する意志はありません。事後になって恐縮ですが、魔法陣研究部にこちらで集めた情報も添えて近日中に情報共有いたします」

「協力ありがとう。魔法陣はダンジョンを構成する魔法の基礎になるものだ。より深い理解を得るために全員で共有し研鑽を積むことを生徒会は皆に求めているのだよ」

「理解しています。私も魔法陣研究部が提供してくれる魔法陣を使っていろんな道具を作成させてもらっていますから」

 共通の理解を得られてよかったと生徒会長の顔に笑みが浮かぶ。だがすぐに表情を引き締めて話し始めた。

「ここまでの件で魔法道具同好会に非が無かったことを宣言しよう。それを踏まえたうえで、生徒会から君たちに依頼ではなく命令を下させてもらう。トラップリシンダーを生徒会に供出するように」

 断固とした声で生徒会長が言い切る。間違いなく決定事項としてボクたちに伝わる形で。それは説明ではなく通告だった。

 ひよりが心配そうにボクの顔を見る。美宮みるく先輩も先ほどまでとは打って変わってハラハラした表情で見守っている。副会長は安定の睨みつける表情だ。

「わかりました。いいですよ」

 ステータス画面を開いてトラップリシンダーを具現化する。少し立ち上がってテーブルの中央にゴトリと置いた。

「いいの?コウタくん」

 美宮みるく先輩が手を伸ばし、トラップリシンダーを受け取りながら言う。

 自分で言うのもなんだけど、頭に上っていた血が引いたことでいつも以上に冷静になれている。ボクもひよりもそんなに欲張りなほうじゃない。

「いいですよ。ダンジョンのドロップ品は第一義に生徒会に所有権があるということは知っていますし。それに、ボクは楽してダンジョン探索したいわけじゃないんです。探索を楽しみたいだけなんですよ」

 まあ、楽できるに越したことはないんだけど、今はそんなこと言える雰囲気じゃないし。

「ちょっと手に入るアイテムは減っちゃうかもしれないけど、ひよりは許してくれるよね?」

「もちろんだよ、コウくん。私もあるものを使っていろいろ工夫するのが好きなんだー。だからコウくんが手ぶらで帰ってきても、私は全然へっちゃらだよ」

「そこは少しは期待してよ」

「はいはい、イチャつくのは部室に戻ってからにしてね。会長、これでもう用は済んだでしょ?二人を帰してもいいわよね?」

「ああ、構わない。いろいろすまなかった」

「いえ、こちらこそ、好き放題言って申し訳なかったです」

「ふん、口先だけの謝罪など」

「謝るのはそっちが先だと思うんですけど」

「なっ」

 生徒会長には謝罪するけど、副会長のヤツには絶対謝らないもんね。少なくともあっちから頭を下げてくるまでは。

「さ、さ、用が済んだらこんなところさっさと退散しましょー」

 美宮みるく先輩がボクとひよりの肩を押して出口に向かう。

「こら、唐金からかね、おまえはまだ生徒会の処理が残っているだろう」

「聞こえない、聞こえなーい。さ、ひよりちゃん、行きましょう。疲れたでしょう?部室で甘いものでも食べましょうか。クッキー焼いてきたんだー。私ってば意外と女子力高いでしょ?」

 美宮みるく先輩はどさくさに紛れて生徒会の仕事をさぼることにしたようだ。ボクたちに気を使ってくれたのかな。それともダシに使われたか……。

 うん、絶対後者だよね。


「ダンジョン探索を楽しみたい、か。私の頭に浮かんだことのない言葉だ」

 三人が退出した会議室で、奈穂がつぶやきを漏らす。

 姫野荒太。彼の言葉が心に突き刺さる。痛くもあり、甘くもある。それは厳しく自分を律する生き方をしてきた奈穂にとって、初めて味わう感覚だった。

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