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第49話 後悔と満足

 ***


 なぜ、こうなった?

 会議を終え、人払いした生徒会会議室で妙法院奈穂は自問する。

 強化剤の製造に眞秀が絡んでいるのは明白だ。あのようなものを作り出せるのは錬金術部以外にあり得ない。だが、証拠がなかった。物的証拠はもちろん、状況証拠さえも。

 PKの件は行き詰まる調査に偶然射した光明だった。被害者であり、加害者であった者が尋問の中でぽろりと漏らした言葉尻から追及した結果、ついに強化剤を使用した本人に行き当たった。証言をもとに調査を進めれば、物的証拠が必ず手に入ると思った。

 だが、真犯人は周到だった。身元は魔法で隠蔽されており、現場は事前に証拠を消されていた。派手に動いた以上、何かの痕跡は残るはず。そこからまた次の証拠に迫ればいい。そう考えてPKの件を理由に三頭会議を開催してまで金今眞秀を問い詰める場を用意したというのに。

 会議では、PKの被害者である三名が私闘に及んだ責任と能力強化剤を使用した罪でダンジョン入場資格の剥奪処分とする決議が下された。今も強化剤を使用していると思われる一年生は、三対一という状況から正当防衛との見方もできるため処分保留となり、本人の事情聴取を待って判断することとなった。さらに本件に巻き込まれる形で魔法道具同好会には貴重なマジックアイテムの取り上げという裁定が下された。

 理性ではどれも正しい処分だと分かっている。が、どうにも正しい行いとは思えずもやもやする。証人は外に追いやられ、強化剤を濫用している者は野放しだ。トラップリシンダーの接収も我々が望んだことではない。どれもアカデミーに利する結果に思える。

「あちらのほうが一枚も二枚も多く手札を用意していたということか」

 魔法道具同好会のことは予め情報を掴む機会があったはずだっただけに悔やまれる。あちらを優先して転入生と話をできていれば、あるいは事前にトラップリシンダーの存在を知り得ていたかもしれない。私の判断ミスだ。

 トラップリシンダーの接収は必要なことだろう。悪巧みを巡らせるような者の手に渡ったらと考えると脅威は計り知れない。最新の情報によると、例の砂袋の一件も彼が絡んでいるらしい。第二階層の罠の解除の件といい、敷町君は彼をトラブルメイカーと考えて警戒しているようだ。

 だがそうだろうか。私には停滞するダンジョンを活性化するキーマンに思える。ほんの一か月弱の間に伝説級のマジックアイテムを手に入れ、数年ぶりに砂を採取してガラスの生産を復活させ、商会を混乱の渦に巻き込んだ少年。会ってみたい。会って胸襟を開いて話し合いがしたかった。

 しかし、それも今となっては叶うまい。彼との初めての対話は、絶対的な権力を振るう場面となるだろう。

「気が重いな」

 テーブルの脇に立てかけた剣の柄を撫でる。

 今の私は、この剣を握るのに相応しい存在には到底及ばない。いつか成れるのだろうか。いつか届くのだろうか。

「それを私は望んでいるのだろうか……」

 与えられた役割を現実のものにする。それが幼いころからの夢だった。大好きだった祖父が語り、尊敬する父が望んだ夢。ダンジョンで活動できる三年間でたどり着くことは到底かなわないだろうと誰もが諦めつつ、それでも追い求め、次代へと引き継いできた希望。手が届かないからこそ夢と呼ぶに相応しい。最近ではそう考えるようになっていた。

 自分の代では成し得なくとも、次代に引き継ぐものを残す。その目的において、姫野荒太から武器ツールを取り上げることがプラスになるとは思えない。

 眞秀の狙いは何だ?奴はダンジョン開放派ではなかったのか?姫野荒太の翼を奪う行為はダンジョン封印派に利する行為としか思えない。

「わからない……」

 だが、混沌からダンジョンを守るのもまた私に与えられた重要な役割だ。今はそれを行うことしかできないなら、正しく実行するよう努力するしかない。

 深い思黙の海に沈んだ心を奮い立たせて立ち上がる。だが携えた剣は重く、とても重く感じられた。


 ***


「代表、よろしかったのでしょうか」

「何がだい?」

「生徒会にトラップリシンダーを握らせることになりました」

「そうだね」

「どこにでも入れる手段を持たせて本当に良かったのでしょうか?彼らが決断をすれば、我々の秘所にも侵入が可能になります」

「彼らには使えないよ。彼らは暴君にはなれない。万民の安寧を保証するという立場上、誰かが秘密にしておきたい場所に土足で入る行為は自らの正義を否定することになるからね。それに」

 眞秀が笑みを浮かべる。

「鍵がどこにしまってあるか、わかっているほうが都合がいいだろう?使いたいときは取りに行けばいい」

 ふふふと微笑む横顔は、人間離れした美しさをたたえていた。

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