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第48話 三頭会議

「予定外の開催にも係わらず応じていただき感謝する」

「そのような気遣いは不要だ。代表者会議の招集権は生徒会にある」

「そうそう、私たちは生徒会を補佐する立場のしがない一生徒に過ぎないんですから、生徒会長がそんなふうに下手したてに出る必要はありませんよ」

 台詞の内容とは裏腹に、敬意を感じさせない態度で中世的な顔立ちの男子生徒が答える。

「ちっ」

 生徒会副会長の敷町が小さく舌打ちをする。生徒会長に対する不敬な態度をたしなめたいが、さすがに場をわきまえてこらえているのが苛立ちとともに伝わってくる。

 最初に応答を返した男子生徒は泰然自若たいぜんじじゃくとした態度で場が落ち着くのを無言で待っている。

 上背うわぜいがありがっちりとした体格の彼は、松下まつした紺気こんきという。部活動の中では最大規模の剣術部を率いる部長であり、戦闘系に分類される部活動を束ねる部活連合の頭取を務める偉丈夫である。

 もう一人の、中性的で整った容貌と首もとで切りそろえられた艶やかなストレートヘアが目を惹く男子生徒は金今かねこん眞秀ましゅうという。こちらは生産系の部活動を統括している魔工技術協同機構、通称アカデミーの代表《CEO》である。その活動内容の多くがダンジョンに係わる非公開事項の名のもとに秘匿され謎に包まれている錬金術部の部長を務めている。

 部活連とアカデミーは生徒会を頂点とする自治組織を構成する礎であり、各々の代表が一堂に会する三頭会議は、ダンジョン運営の最高意思決定機関に位置付けられている。

「さっそくだが、議題に入ろう。先日、ダンジョン内の生徒による私闘でプレイヤーキル(PK)が発生した」

 生徒会長、妙法院みょうほういん奈穂なおの鋭い視線が二人の代表者の表情の変化を観察する。

 松下の顔に変化はない。目を閉じ、聞き入っている。PKの当事者たちが剣術部であることから、事前に詳細を掴んでいたのだろう。

 眞秀はあからさまに驚いたような表情を顔に浮かべている。だが、どこか芝居がかっていて本気かどうかが伝わってこない。いつも飄々とした態度を取っているので、こういう場面でも表情から内心を読み取ることはできなかった。

「当事者は全部で四人。全員、剣術部の所属だ。現場は第三階層の通路で目撃者はいない。だが、やられた三名が自らの非を認める証言をしており事実関係に間違いはないだろう。彼ら三名が先に手を出し、返り討ちにあったそうだ」

 松下の眉が顔をしかめるようにぴくりと動く。

「ひゅー、三対一で打ち勝つとは、やるねぇ。誰なんですか?」

「個人情報を開示する必要性は感じない」

 ふーん、とつまらなさそうな相槌を打って眞秀が興味を失ったように背もたれに体を預ける。

 対して奈穂のほうはここからが本題とばかりに言葉に力を籠める。

「PK当事者の三名を問い詰めたところ、能力強化ドーピング剤への関与を認めた」

 今度は明らかに松下の表情が歪む。松下は後輩たちを正しく導けなかったことを強く悔やんでいた。

「へぇ、三人力以上の効果を発揮するなんて、強化剤ってすごいなあ」

 眞秀が軽薄な言葉を投げる。

(私は誰が強化剤を使ったかは明言しなかった。三人を返り討ちにした一年生が使用したことを眞秀は知っていた?これは彼が初めて見せた隙か?)

 奈穂は表情の読めない眞秀を見つめて素早く思考を巡らせる。

(いや、数的不利を克服した者が強化剤を使用したことは彼なら容易に推測できるだろう。少なくともそう主張されれば反論はできない……)

「三人は謎の人物から強化剤の提供を受けていたそうだ。相手は何らかの認識阻害魔法を使用しており、年齢も性別も判別できなかったらしい。三人の証言をもとに、取引現場になった部屋を生徒会で捜索した。場所はここだ」

 奈穂が第二階層の地図を提示する。マーキングされた場所は誰も使っていないエリアで、普段からひと気がなく怪しい活動をするのにはぴったりの場所だった。

「開かずの間が連なっているあたりですね。ここは鍵が掛かっていて入れない部屋じゃないですか?」

「我々が踏み込んだときには扉が開いていて部屋の中が荒らされていた。足跡も判別がつかないくらいにな」

「鍵が掛かっていなかったんだ。そりゃあ、誰かが悪巧みに使いそうですね」

「先週、調査したときには確かに施錠されてた。最近誰かが開けたのは確かなんだ」

 のらりくらりと発言する眞秀の態度に我慢できなくなり、敷町が追及するように口を挟む。

「じゃあ、誰かが鍵を持っているんですね」

 眞秀は敷町の剣幕に気づかない態度でいなす。畳みかけようとする敷町を奈穂が目で制止する。

「そういえば」

 そんなやり取りも意に介さず、眞秀がとぼけたトーンで言った。

「最近、万能鍵開けツールを入手した生徒がいるみたいですよ」

「なにっ」

 生徒会のメンバーが驚きを隠せず眞秀のほうを振り返る。眞秀はそれに気づかないふうで、指でもてあそんでいる毛先を見つめながら言葉を続けた。

「トラップ・リシンダーってやつです。知ってますよね?昔の記録には載っていますから。なんでも、鍵どころかどんな罠でも解除できる魔法の道具だとか。まあ、ダンジョン産のものなんだから魔法道具なのは当たり前なんですけど」

 あはは、と笑う眞秀が完全に場を支配する。

「手に入れたのは一年生の姫野荒太。魔法道具同好会です」

 奈穂を直視する眞秀の目が怪しい光を帯びる。奈穂は魅入られたように目線が外せなくなっている。

「しかし、彼は二学期からの転入生だ。強化剤騒動に関与できたはずはない……」

「ええ、もちろんそうです。でも、問題の部屋を荒らしたのは彼かもしれないし、そうじゃないかもしれない」

「何が言いたい」

「一介の生徒が持つには強力すぎるマジックアイテムです。生徒会権限で召し上げるべきかと」

 生徒会はダンジョン内の活動において絶対の権限を持つ。個人所有が認められているドロップ品であっても、生徒会が必要と判断した場合には強制的に収用することが可能だ。

「だがしかし、明確な容疑者でもない者から取り上げるのは……」

「生徒会にはダンジョン内の秩序維持という使命があるはずです。どこにでも入れるような手段を野放しにするのは危機意識が足りないのでは?それにこれは姫野君のためでもあります。今回の空き部屋の件だけでなく、今後同様な事件が起きたときに真っ先に疑われるのは彼ですよ。彼がそのリスクに気づいていないのであれば、生徒会が彼を保護する意味でも、くだんのマジックアイテムを取り上げるべきでは?」

 奈穂は眞秀の唱える正論に反論できる言葉を持たなかった。

「俺も眞秀の意見に賛成だ。後輩が道を誤らぬよう手を打つのは上に立つ者の義務だ。これ以上悲劇を繰り返さないためにも、危険の芽は摘んだほうがいい」

 松下の発言が決定打となった。

「わかった。魔法道具同好会と話をしてみよう」

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