第46話 PK事案
通路の先から金属と金属がぶつかる音が聞こえる。荒い息遣いに混じって獣の唸り声が漏れる。
「グゥ、ハッハッハッハッ」
「ガァッ」
「ふん」ザシュッ
「キャン」
どさっ。毛皮をまとった肉塊が床に転がる音。
「りゃっ」バンッ
「グガッッ」
グサッ。
「ゴボゴボ……」
力任せに板状の硬いもので叩き伏せ、尖ったもので喉笛を突き通す音。
「おら、もっと抵抗して見せろよ、おらおらあっ」
「ギャン」
ガンガンと力任せに数回叩きつける音がして静かになる。
「ちっ、歯応えのない」
通路の反対側から複数の足音が足早に近づいてくる。
「音がした。こっちだ」
「あいつ、こんなところまで一人で降りて来ているのか?」
「ちっ、イキりやがって。大けがしてても放置だ、放置」
クランク状に曲がった通路から三人の男子生徒が現れた。
「なっ?」「えっ?」「これは……」
三者三様に驚愕の声が漏れる。
同時に、床に斃れている五体のコボルトがパリンと砕けて光の粒子となって消える。その中央で腕や脇腹からダメージエフェクトを巻き散らしながら仁王立ちしている男が一瞬鬼の姿に見えた。
「時任ッ」
「何しに来たんですか?先輩方」
「何って、おまえを追って……」
「コラッ、時任、おまえ強化薬をどこにやった?すぐに持ってこいっつっただろぉ?」
一番気の短い男子生徒が被せるようにわめく。
「これのことですか?」
時任と呼ばれた男子生徒がストレージからアンプルの小瓶を取り出す。
「おまえッ、やっぱり持ってたんじゃねぇか!」
「時任。それを返せ。生徒会の追及も厳しくなってきている」
「それは良くない薬なんだよ。わかるだろ?」
「いまさら何を。最初にこれを持ち込んだのは先輩方ですよね?」
「それは……」
「だからこそ責任をもって処分するって言ってるんだ」
「調子がいいですね。最初は自分たちだけが恩恵を受けようとして、ヤバくなってきたらこっそり処分ですか。本当に責任を取るっていうのなら、生徒会に洗いざらい自白すべきだったんだ。……塚本一人に押し付けた卑怯者のあんたたちに、責任なんて台詞を吐く資格はない」
昏い怒りに満ちた言葉を血を吐くように溢す。
「……」
「う、うるせーよ。いい気になんな。力尽くで取り上げてもいいんだぞ」
「力尽く?はっ、力なんてないくせに。強化薬の効果はとっくに切れているんでしょう?薬のないあんたたちなんて、ひ弱な一般人以下の雑魚じゃないですか」
「なめんなぁっ!」
売り言葉に買い言葉で煽られ、気の短い二年生が時任に切りかかる。
「おい、こらっ。生徒同士の私闘は御法度だ。生徒会に知られたら今度こそ言い逃れできないぞ!」
ガスッ。
鈍い音が響く。二年生の振りかぶった剣が無造作に上げられた時任の右腕に食い込んだ音だ。だが、時任は痛がる素振りもなく、邪悪な笑みを浮かべている。
「「「!」」」
驚きに声を失っている二年生たちに向かって嘲るように時任が話しかける。
「知ってますか、先輩。強化薬には治癒効果があるんですよ。ダメージがある状態で飲めばそこから能力がアップして、さらに傷が治るんです。普通に重ねて飲むより効果的なんだ。こんなふうにね」
左手に持ったアンプルを親指だけでパキッと折り、中身を一気に嚥下する。
気圧されて後退る三人の前で、刀を受けた右腕の傷が、コボルトとの戦闘で受けた上腕や脇腹の傷が、見る間にふさがっていく。同時に時任の筋肉が盛り上がっていく。腕が、太腿が、大胸筋がはっきりとわかるほどに太くなり、背筋が山のように盛り上がって猫背気味になる。
「先に手を出したのは先輩たちのほうですよ」
にたぁ、と悪夢に出てくるような顔で笑いながら時任が剣を振り上げた。
***
「他愛もない」
血振るいをくれるように直剣を一振りする。
「けど、雑魚よりは楽しめたかな。ニンゲン相手だとエストは手に入らないけど魔物よりはよほどいい鍛錬になりそうだ……」
床に散らばる戦利品には目もくれず、時任は通路の奥へと消えていった。




