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第44話 隠し部屋

 第三階層のセイフティエリアで泉の水を手ですくって飲む。程良く冷えていて美味しい。この水だけで回復効果があるんじゃないかな。

 付着術式による加速は思った以上に体力がいる。短距離とはいえ、常にオンにして走るとすぐに息があがってしまう。要所要所で使うようにしたほうが良さそうだ。

 呼吸が整うのを待ってトラップゾーンに足を向ける。今度は省エネでトラップ回避に挑戦だ。

付着スティック解除リリース

 三角跳びの壁を蹴る瞬間だけ付着術式を起動する。

 よっ、ほっ。着地。

 両手を上げて着地のポーズ。んー、高得点では?

 いかん、いかん。ひと気がないからって油断していたら、はしゃいで馬鹿やってる姿を見られてしまうかも。自重しよう。

 浮遊術式も試してみたい。床に重量で起動する罠がある場所で、少し手前から軽く助走する。

反発リップ

 見えない板に飛び乗る感じで浮遊術式を起動。両手でバランスを取ってスーッと床面を滑る。

解除リリース

 ずささーっ。乗っていた透明な板が消える感じで床に着地。無事、罠を乗り越えた。うん、使える。

「これ、売れるよ、ひより」

 ヒット商品誕生の予感に我が事のように嬉しくなる。

 とはいえ、ここは第三階層。魔物とも頻繁に遭遇する階層だ。油断せず、曲がり角ごとに索敵を行う。

「噂をすれば、スケルトンだね、あれは」

 覗き込んでいた鏡を引っ込める。

「スケルトン相手なら打撃系。ってことは、こいつのデビュー戦かな」

 スリングを出して鉄つぶてをセット。まっすぐ垂らしたスリングを胸の高さで保持して角を曲がる。スケルトンはこちらに気づいた風もなく、カタカタとゆっくり歩いている。数体いるけど、距離は十分離れている。天井も三メートルはあるのでスリングを振り回す余地は十二分にある。

 ゆっくりとスリングの回転数を上げる。

 呼吸を整えてタイミングを計る。

 集中。

 スリングの風切り音も耳に入らなくなり、先頭のスケルトンの闇を蓄えた眼窩がやけにくっきりと見える。

 ぶんっ

 ガコッッ

 命中。

 鉄つぶては真っ直ぐに飛んでスケルトンの頭蓋骨を粉砕した。

 すぐに次弾の鉄つぶてをセットする。今度はスリングのヒモを三分の一ほど手に巻き付けて短く持つ。左手で大型ナイフを抜き、逆手に構える。

 スケルトンは三体一組で行動していた。先頭の剣を持つスケルトンを倒したのであと二体だ。こちらの攻撃に反応してガシャガシャと鈍重な足音を立てながら迫ってくる。こちらは通路の曲がり角から一歩ほど前に出て待ち受ける。

 向かって右手の盾を持ったスケルトンに狙いを定める。相手は左手の盾を正面に構えているだけなので頭部はがら空きだ。相手の間合いよりもこちらのスリングの回転半径のほうが長い。

 ここだっ!

 右手に半歩踏み込んで、左のスケルトンの射線から逃れつつターゲットとの間合いを詰める。

 腕をサイドから振り、垂らしていたスリングを投げるのではなく殴るように振るう。

 ガスッ

 盾に遮られることなく、スリングのポケットに包まれている鉄つぶてが頭蓋骨を横手に打ち据える。頭蓋骨はあっさりともげて吹っ飛び、壁に激突して砕ける。体のほうは一歩進んだところでガラガラと崩れて骨の山になったあと、ダメージエフェクトを散らして消滅する。

 残る一体の振り回す剣を余裕で躱しつつ、二度スリングで打ち据えるとこちらもバラバラになって骨の山を築いた。

 左手の大型ナイフは使わなかったね。

 スリングって思った以上に使い勝手が良い。鉄つぶてをくれたテツさんとスリングを手作りしてくれたひよりに感謝だ。何よりトンカチファイターを卒業できたのが嬉しい。

「ヘンなあだ名が付く前でよかったよ」

 投擲した鉄つぶてを回収する。ドロップ品はとくに出なかった。


 さて、本日の目的の二つ目は例の小部屋の調査だ。何度か来ているので通い慣れた道って感じすらある。

 扉を開けると数匹のクロウラーがカサコソ、じゃなかった、シャカシャカと逃げていく。今日はそちらには目もくれず、壁のいつもの位置に貼り付いたヤモリを見据える。

 今回はいつもより少し距離をとった立ち位置だ。ヤモリ型クロウラーに意識があるのかわからない。けれど、じっとこちらを観察しているように感じる。

「今度は逃がさないよ」

 スリングを準備する。頭上でゆっくりと大きく回転。

 自分の呼吸と回転のタイミングが整ってくる。

 ふんっ!

 最後の二回転に力を込めて、タイミング良くヒモを離す。

 ドカッ

 狙い違わずヤモリに命中した。ヤモリは一撃で粉々の粒子になって霧散する。

「やった!」

 いつも逃げられていたあいつをついに仕止めた。やっふー。

 小さくガッツポーズを決めて、壁際に向かう。鉄つぶての回収だ。ダンジョンの中は投擲武器を回収しやすくて助かる。

「お、ドロップ出た」

 半円形の錫のメダルのような金属。複雑なレリーフが描かれており、裏側は鏡になっている。ボクはもう、同じものを一個持っている。

「片割れの鏡じゃん」

 何だろうな、この残念感。確かにアイテムは出たし、レアなものだと聞いている。それに前に手に入れたのと違って鏡には傷ひとつない良品だよ。でもなあ、もう持っているしなあ。二個あってもなあ。

 ブツブツ文句を言っていてもしょうがない。入手品をストレージに仕舞って上を見る。

 ずっと気になっていた、天井近くの突起物を調べるのだ。天井近辺にある手摺りとの距離を目で測る。一回ではぎりぎり届かない高さだけど、部屋の角を利用して二段飛べば何とかなりそう。

「せーの、付着スティック、ほっ、はっ、よっ……と」

 せーので跳んで空中で付着術式を発動、左の壁を蹴り、さらに上のところで右の壁を蹴る。最後は体を捻って正中線を軸に一回転し、延ばした左手で手摺りを掴む。パルクールで覚えた体の使い方が役に立った。

「ふー、なんとか届いた」

 両手で手摺りに掴まる。両足は付着術式を起動したままにして、平坦な壁に固定する。便利だ。

「魔法陣を仕込んだ手袋も作ったら、もっと便利になるかも」

 良いアイデアに思える。戻ったらひよりに相談してみよう。

 手摺りにぶら下がったまま横に移動。突起物のある壁に近寄る。やはり何か仕掛けがありそうな感じだ。突起部分は出るのか引っ込むのか、壁とは独立して動きそうな雰囲気がある。さらに近づいて観察すると、突起部分の先端が平らになっていて鍵穴が空いているのがわかった。

「梯子を用意したうえに、鍵も持っていないと開かないのか。けっこう厳重だね」

 だけどボクには便利道具ある。

「てれってれー、トラップリシンダー」

 ステータス画面でエストをチャージし、トラップリシンダーを具現化する。それを右手にもったまま目一杯腕を伸ばして何とか鍵穴に差し込んだ。すぐにトラップリシンダーから壁へと淡い光が走って、壁の中で何かが動く振動が伝わってくる。

 ズズズ

 手摺りの下の部分の壁がゆっくりと床に吸い込まれていく。振動が止まったときには、部屋の奥への入り口がぽっかりと口を開けていた。

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