第42話 個人練習
さて、ようやく木人の列の端にたどり着いた。途中、弓の的が並んだ練習場を通りかかったけれど、何とか誘惑をこらえた。もうかなり時間が経っている。放課後の時間は長いようで短いのだ。
壊れた木人のところでスリングの投擲練習に取り組む。
初めは三メートルくらいの距離で、馴れてきたら五メートルくらい離れて投擲を繰り返す。うん、馴れてくるとスリングってけっこう命中精度が高い。鉄つぶての重さもちょうどいい案配で、スリングを振り抜いたときに自分の手から投げたような感覚で狙いの誤差修正も容易になってきた。
最初は木人の胴体の真ん中を狙っていた弾も、頭頂部や肩、腕、大腿部と狙い分けできるようになってきた。弾速を上げた全力投球の感触も確かめる。スリングを回転させる回数や、アンダースローやオーバースローでの精度も確認する。
「よし、つかめてきたぞ」
「へぇ、面白いことやってるのね」
背後から声がかかる。
振り返ると、矢立てを背負った女子生徒が腕組みをして壁に寄りかかっていた。よく見ると左手に小さめの弓をぶら下げている。
「あんた、C組の転校生でしょ?」
「うん」
「それ、スリング?なかなか渋い選択ね」
「ボクの体格じゃ前衛は難しいから、中距離からの攻撃手段を練習しているんだ」
「鍛冶屋には売ってなかったと思うけれど、それ、ドロップ品?」
「ううん、手作りだよ。ひよりに作ってもらったんだ」
自分の手製だと誤解されると困るから説明する。
「へぇ、手製の武器って初めて見たわ。けっこう使えるもんだね」
女子生徒はもたれていた上半身を起こし、左手の弓を見えるように掲げる。
「あたしのは部の貸し出し品だけど、けっこう良い品なんだよ」
割と小振りで小回りが利くタイプの弓のようだ。上下に滑車がついていてメカメカしい構造になっている。たぶん、コンパウンドボウっていうやつだ。
「威力も」
いつの間にか右手に摘まれていた矢をつがえて一気に引き結び、一呼吸でぴたっと姿勢を決めると素早く射掛ける。矢は目で追えない速さで飛び、木人の頭部に吸い込まれるようにして突き立った。木人の頭部がもげそうな勢いで跳ね上がる。普段のヒコとの朝練でも滅多に傷をつけることができないほど固い材質でできているはずなのに、矢じりはしっかりと根本まで突き刺さっている。
口をOの字に開いて矢を見つめるボクの表情に満足したように女子生徒は優雅に一礼した。
「あたし、A組の一矢七香。弓術部よ。あたしもダンジョン攻略に本気で取り組んでるの。あんたもそうなんでしょ?」
「ボクは」
「姫野荒太。知ってるわ。最近活きのいいのがいるって部活連じゃちょっと注目されてるんだよ」
「それはどうも……」
部活連って何だろう?あとでヒコかヨギに聞いてみよう。
「あんた、ソロでダンジョン潜ってるみたいだけど、パーティ組まないの?」
「うーん、友達とは一度組んだことあるけど戦闘ではほとんど役に立たなかったんだよね。もう少し鍛えないと足手まといかなって」
「ふーん。まあ、あんたとは役割がかぶりそうだし、パーティメンバーっていうより競争相手ってパターンのほうが多そうね。じゃあ、次にダンジョンで会ったら競争だ」
一矢さんがニヤリと笑う。なんだか勝手にライバル認定されている?
「ところで、さっき言ってたひよりって、彼女?」
去り際に一矢さんが尋ねてきた。
「違うよ。部活の友達。ボク、魔法道具同好会に入ってて、彼女はそこの部長兼クラスメイトなんだ」
「ふーん、じゃあね」
自分から聞いてきたくせにどうでもいいような口調である。
不思議な人。マイペースって言うかなんていうか。
それにしても木人をこんなに壊しちゃってどうしよう。元から壊れてたっていっても、ここまでボロボロじゃなかったんだよね。あとでひよりに修復魔法をお願いしようかな。
一矢さんが持っている弓の種類を間違えてました。(訂正済み)
誤)コンポジットボウ
正)コンパウンドボウ
でんじろう先生の動画でやっているのがおススメに出てきて間違いに気づきました。
あれー?ってなって調べたら弓の種類としてはどちらも存在するのね。
勉強になりましたー。




