第128話 その後
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気が付くとぼーっと窓の外を見ている。
なんだか魂の一部が抜け落ちてどこかに飛んで行ってしまったみたいな気分だ。
「検温の時間ですよ」
親切な笑顔の看護師さんが毎日の日課をこなしていく。
「問題ないですね。午後の検査で先生のOKが出たら、週末には退院できますよ」
そもそも僕はなぜ入院しているんだろう。ここ半年ほどの記憶が混濁していて思い出せない。
先生は失くした記憶はすぐには戻らないが、何年も時間を掛ければ徐々に思い出していくだろうと言っていた。
両親も最近のことは話してくれない。精神的に不安定な状態が悪化するかもしれないからと先生からも止められているようだ。
病室にはテレビもネットもない。すぐ近くに大きな運動公園があるから窓からの景色は広くて眺めはいい。自然と窓の外へと視線が移る。
午後になって脳波や体の反応を見る検査をいくつかこなす。
一つ一つの検査の間の待ち時間が長くて退屈だ。
平日の病院は年配の人か幼児を連れたお母さんばかりで僕と同じくらいの年齢の人はほとんど見ない。
だから、次の検査を待つ長椅子に座る同い年くらいの制服姿の男子生徒がすぐに目についた。
入院患者ではないのか、携帯ゲーム機を持ち込んで待合室での時間を潰している。
何となく気になってそばで見ていると、男子生徒が僕に気づいて顔を上げた。
にこっと人懐っこい顔で笑う。
ズキンと胸のどこかが騒いだ。痛いような懐かしいような不思議な感覚。
「立ってないで座りなよ」
屈託のない笑顔で話しかけてくる。
僕は点滴のガラガラを引いて、男子生徒の隣に座る。
「高校生?」
「たぶん……」
おかしな話だけれど、自分が本当に高校生なのかどうか自覚がない。親からは退院後に通う高校の名前は聞いているのだけれど。
変な返しになってしまったけれど、男子生徒は気にしていないようだった。
「退院したらどこの高校に行くの?」
「××高校」
やけにずけずけと踏み込んでくるな、と思うけれどなぜか嫌じゃなかった。
「へえ、同じ高校じゃん。いっしょのクラスになれるといいね」
何がいいんだろう?
「あ、このゲーム知ってる?ちょっと古いから最近やっている友達が居なくてさ」
彼が携帯ゲーム機の画面を見せる。何人かでパーティを組んで魔獣を刈るゲームだ。僕が覚えているということは、去年流行ったゲームなのだろう。
「知ってる」
「やったぁ。これ、パーティ組まないとなかなか進まなくてさ。退院したら一緒にやろうよ」
確か、家にあるはずだ。退院したら探してみよう。
それから何となく彼が操作するゲームの画面を見ながら一緒に過ごした。
『時任さん、時任正宗さーん。三番診察室にお入りください』
インターホンから呼び出しがかかる。
去り際に彼が手を差し出して言った。
「僕、塚本っていうんだ。塚本明浩」
「僕は……」
戸惑いながら彼の指先をつまむように掴む。
「時任正宗くん。知ってる。いま放送で聞こえたから」
塚本と名乗った少年がニカッと笑ってがっしりと握手してくる。
「僕も転校生で友達少ないからさ。学校で逢ったら一緒に遊ぼうよ」
「うん」
なぜかわからないけれど素直に返事が出た。
診察室のドアを閉めるときに、彼はまた笑って手を振った。
急に退院の日が待ち遠しく感じられてきた。
***
このお話のもう一人の主人公的な立ち位置だった時任くんのエピローグです。
短い1,000文字ちょっとのお話ですが、コウタ達のわちゃわちゃした話とかなり毛色が違う文章になったので分割して投稿することにしました。
時任くんはダンジョン攻略を楽しむ天真爛漫なコウタと対照的な存在として設定しました。
筆力が及ばずあまり詳しい物語が編めずに時任君には申し訳なく思っています。
忘れることが解決というわけではありませんが、彼には復讐心で時間を無駄にするのではなく、楽しい青春を送ってもらいたいと願っています。
さて、あと一話、あと一話と言いつつ話数が伸びてしまいましたが、次が本当の最終話です。
このあとすぐに投稿しますので、忘れずに読んでくださいね。
あ、それとブックマークも忘れずにお願いします!(宣伝)




