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第122話 お留守番

「あいつ、大丈夫かな」

 白井さんが心ここにあらずといった表情でぽつりとつぶやく。

 生徒会が新エリアを封鎖して三日目。先行した調査隊とは別に急ぎ編成されたアンノウン討伐部隊にうちのパーティメンバーからはヒコと一矢さん、そしてヨギが招集された。

 剣術部一年生のホープであるヒコと弓術部トップクラスの実力者である一矢さんは分かるけれど、なんでオレが?とヨギは不満たらたらだった。ボクたちの遠征での戦いっぷりがヒコの報告で部活連上層部に伝わり、評価された結果らしい。

 対人戦闘訓練を欠かさず行っている剣術部と違い、魔術部では実戦的な訓練が十分とは言えず、初めて対戦する魔物に対して初見でどの程度対応できるのかは未知数だそうだ。その点、ヨギは部活連からすると貴重な実戦経験済みの魔術師という認識になる。そんなの過大評価だと抗議するヨギにボクも半分賛成だけれど、半分は部活連の言い分も納得できるところもあると思っている。

 ヨギは呼吸をするように自然に魔術を使いこなしていた。ウォーター・バレットのような飛翔物を操るタイプの魔術でも複数の弾道を器用に曲げてコントロールしていたし。ヨギ以外の魔術師の実戦を見たことがないのでどの程度技量が高いのか判断できないけれど、使えるかどうかで考えれば十分戦力になると思う。

 最後までだだをこねていたヨギが最終的に出征に参加することにしたのは、生徒会からの圧力によるところが大きい。美宮みるく先輩から、称号に相応しい働きを見せないと学園側にもそれなりの報告をしないといけなくなるわよと脅しのような苦言をもらったからだ。

 まあ、嫌がる理由は面倒くさいからという程度のものなんだし、身から出た錆ってことでボクは笑顔でヨギを送り出してあげた。

 ボクはというと、お留守番だ。

 ボクの戦闘スタイルは集団戦に向かないし、敵味方が入り乱れるような戦いの場では攻撃力も防御力も足りていない。

 まあ、ボクがやりたいのは探索だから討伐部隊に招集されないことに不満はない。

 不満はないよ?

 でも成り行きとはいえ地底湖にはボクが一番乗りだったんだし、体を張って得た貴重な情報も惜しみなく生徒会に報告したんだよ?

調査隊の最前線に加えてくれても良かったんじゃないかと思わなくもないじゃんね。

 不満を言うわけじゃないけどさっ。


 魔法道具同好会の部室では、ひよりが新しく完成した白井さんのアーマースーツのフィッティングを行っている。

「うん、いい感じ」

「なんか少し昔のロボキャラっぽくない?」

 全体に曲線で構成されたプロテクターを胴体、腰部、両腕両脚に装着するタイプの全身スーツだ。関節部も外側にはガードが付いている。ひよりはお気に入りの様子だけど、白井さんはデザインがお気に召さないらしい。

「でも露出が多いより全身カバーしているほうが防御力が高くていいんじゃないかなー。動きやすさも問題ないんでしょ?」

「それはそうなんだけど……」

「あとね、それ、手と足にちひろくんからもらった石化魔法陣を組み込んだんだよ。最新技術だよー。あ、安全のために石化は五秒で自動解除されるからね」

 ひよりがサラッと何やら物騒なことをいう。白井さんはふむふむとうなずきながら操作説明を聞いている。

 ボクは敢えて突っ込まずに目を逸らした。

「女神さま、だいぶ直ってきたね。顔も奇麗に修復できているし」

「うん、わたし頑張ったよー。毎日欠かさず修復魔法を掛けてお祈りしたんだから」

 いいながらひよりが今日の分の修復魔法を女神像に施す。女神像がいつものように淡い光を放つ。

「残りはあと左手の小指だけか。どこにあるんだろう。せっかくだから見つけて直してあげたいね」

「あ、忘れてた。小指はコウくんの御守りに入れたんだった」

 おいおい、女神像に対して敬虔なんだか適当なんだかわからない扱いだね、ひより。

 ボクは胸元からひよりにもらった御守りを取り出して中を開けた。

 転がり出てきた白く細長い石像の小指の先端が、女神像本体と同様に淡い光を放つ。

 御守りの中身は本当に女神像の一部だったようだ。

「もしかして今まで幸運に恵まれていたのは女神様の御守りのおかげだったのかもね」

 ボクは小指の先端を持って女神像の左手指の欠けた部分にそっとあてがった。

 その刹那、女神像の足元に魔法陣が広がる。

「えっ?なに?」

 驚いた表情のひよりと目を合わせる。が、一言も発するいとまもなく、ボクの視界は眩しい白一色に塗りつぶされていった。


 ***


「この先の断崖の前に陣を構えています」

 アンノウンの動向を偵察したチームが報告を行っていく。

「大扉の前にアンノウンを確認しました。アンノウンの前面をカバーする形で十四頭の水牛が一列横隊で展開しています。どのような方法でコントロールしているのか不明ですが、水牛はアンノウンの支配下にあると見られます」

 異なる種類の魔物が連携して布陣を敷くなど見たことがない。統率の取れた動きはアンノウンの固有スキルによるものだろうか。その場合、司令塔であるアンノウンを倒せばあとは烏合の衆として速やかに排除できるだろう。しかしそのアンノウンまで攻撃を届かせることが難しいのだ。

「敵は峡谷をふさぐ形で展開していますが、逆に言えば敵はその巨体を活かせる十分な広さが確保できていません。正面から当たれば水牛の壁を突破してアンノウンに到達できると思われます」

 参謀格の副部長が提言する。

 確かに戦力的には十分だ。開けた場所での集団戦を想定して最前列の剣術部メンバーには長槍を装備させた。その後ろに魔術師部隊、さらに裏に弓術部による弓兵部隊が控えている。

 残念ながら睨みあっている時間はない。下校時間というタイムリミットが足枷になるのだ。

「ひと当て行きましょう」

「そうだな。よし、全体前進!」

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