第120話 魔術部、そして魔法道具同好会
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「石出部長、部活連から召集命令です」
「またアンノウンとやらの討伐だろう?何度やられれば気が済むのかねぇ。狭い屋内の集団戦闘では魔術師と剣士の連携は効果が低いと学習したばかりではないか、まったく。きみのほうで適当に志願者を募ってリストを提出しておいてくれ」
「いえ、今回は屋外戦闘だそうです」
副部長が手に持った書類を見ながら告げる。
「屋外?ダンジョン内なのに屋外もくそも無かろう。まったく誤字の校正もせずに通知文書をよこすとは……」
言いながら書類を受け取った部長の動きが止まる。
「……新規エリアの探索、ならびにアンノウンとの屋外戦闘だと?魔物との集団戦を予定?なんだこれは?」
「昨日解放された『岩壁の門』の向こう側じゃないですか?今現在は生徒会が封鎖しているので詳細は未確認ですけど、どうやらかなり広い空間があるらしいですよ」
「なに?聞いていないぞ?」
「部長、情報が遅いんじゃないですか?ダンジョンの新規エリアが開放されたっていう噂で朝からもちきりでしたよ?さっそく探索に出ようとした連中が生徒会の規制がかかっていて入れなかったって文句を言っていましたから」
「何ということだ……。他に情報はないのか?」
「生徒会から新規エリアの様子がわずかですが公表されています。門の向こう側は地底湖になっていて、例のマーマンとセイレーンが生息しているそうです。そのほかに河川エリアと山岳エリアもあるとか。屋外と言っても天井はあるみたいですが、セイレーンが飛び回れるくらいの高さはあるそうです」
「ぬふ、ぬふふ、ふははは!」
「うわっ、キモチワルイ。何ですか部長、その高笑いは」
「ついに私が提唱する『魔術の物理学的運用理論』の威力を証明するときが来たというわけだ。ふふふ、よかろう。魔物との集団戦闘とは願ってもない。我が渾身の魔術で蹴散らしてくれるっ!」
「ダメですよ、味方もろとも殲滅するような高威力魔術は控えてください」
「ふはははは」
「ダメだ、これは。いざとなったら後ろから殴って気絶させよう……」
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「ただいまー」
「コウくんお疲れさま」
「よう、コウタ。生徒会の呼び出し、どうだった?」
ヨギの能天気な台詞にピキッと青筋が立つ。
「よくも逃げたな~」
「そんなこと言ったって、呼び出しで指名されたのはコウタだったし」
「なんだとー!称号持ちのくせに、無責任だぞーっ」
「ゴメンね、コウくん。本来なら部長のわたしが説明に行くべきだったのに……」
「いいんだよ、ひよりは。詳しい話をするならボクのほうが適任だし」
「何だよそれ、オレへの対応と違い過ぎない?」
「ヨギは留年リスクを救った貸しがあるんだから、せめて一緒に来て生贄になるくらいの心意気を見せないとダメ」
「そうよ。ひよりは可愛いいからオーケーだけど、あんたは何の取り柄もないんだから身代わりになるくらいはしないとダメでしょ」
「ひっでー。オレだって素材を売って儲けてきたんだぜ?ほれ見ろ、これ。水牛の肉は料理研究同好会に売って商会の倍以上の値が付いたんだから。尻尾に至っては十倍だぞ?」
確かに、それぞれの素材は当初の期待値よりも高値で売れている。ほほう、思ったよりちゃんとお遣いをこなしてくれたんだね、ヨギくん。
「あれ?水牛の角って一本しか売れなかったの?」
「いや、もう一本は魔法生物研究所にあげてきた」
「バカタレ、それじゃ利益増えた分が相殺じゃないか」
「え?でもなんか欲しそうだったし。水牛の角は見たことがなかったみたいだし、魔法生物を研究しているなら喜んでもらえるかなーって思ったんだよ」
前言撤回。大雑把すぎるよ、ヨギ。おまえはお遣い失格だ!
「……それって女子でしょう……」
「え?いやまあそうだけど、研究所の所長は男……って、ぐぇっ、ぐるじぃ」
「こんのバカッ!見ず知らずの女子に気安くほいほい渡しちゃうなんて何考えてんのよっ!ダンジョンで初めて手に入れたアイテムは私にくれるって約束、忘れたの?」
「ちょっ、タンマ、タンマ。あれは魔石って話で……ぐびがじまる……」
「魔石は失くしちゃったんだから、アイテムで我慢してあげようって思ってたのにぃっ」
「そ、えっ、聞いてな……いや、あかりに渡す分は取ってあるから。ぐるじぃ、死ぬる……」
もがいていたヨギがくたっとなって動かなくなる。
「え?あるの?ちょっと、進、起きなさい!」
数回のビンタでヨギが意識を取り戻す。
「ぶはっ、あれ?ここは?セイレーンに首を掴まれて宙吊りにされたような……」
「気のせいよ。それで、水牛の角は?」
「あ、ああ。あとで渡そうと思って取っておいたんだ。はいこれ」
「ありがと……」
「一瞬走馬灯が過ぎって白井さんの顔をしたセイレーンに首を捩じ切られそうになったような……なんだったんだ、あれ……」
ヨギが頭を振ってなにかブツブツと言っているけど、白井さんの機嫌も直ったようだしそっとしておこう。
「ひよりのほうはどうだった?」
「うん。ちゃんと魔工部に渡してきたよ。必ず仕組みを解析して教えてくれるって」
「そっか。先に渡してある『マーマンの銛』もあるし、何か新しい道具を作るヒントになればいいね」
生徒会に呼び出されたときに掲示板にあったけれど、門の向こうの新規エリアは当面の間通行止めらしい。残念だけど、安全確認っていうなら仕方ないかと割り切っている。テツさんには道具の製作もお願いしているし、この待機時間を利用してボクも新しい武器を作ろうと思う。
「ところでさ。この前の戦闘で飛行タイプとか重量級の敵に対処する方法が必要だなって痛感したんだよね」
「うん」
「それでね。ネットで調べててこんな武器っていうか道具を見つけたんだけどさ。作れるかな?」
ボクはネットから手書きで書き写してきた古代の狩猟道具、ボーラのイラストをひよりに見せる。長い紐の先端に錘が付いており、手元の輪っかにそれが三本結びつけられている。
「コウくんが使っているスリングに似てるね」
「振り回して投げるっていう点では共通店の多い武器だよ。スリングと同じくらい古くからある狩猟道具なんだってさ。攻撃力は低いけど、相手の動きを止める役には立ちそうだし、投擲系の道具は扱いなれているから使えると思うんだよね」
「この錘の部分はコウくんの手持ちの鉄つぶてが使えそうだね。紐の部分はこの前の水牛の革から作ってみるね」
「うん、助かる」
とりあえず搦め手の道具は手に入りそうだ。あとはもっとダメージの出せる武器を手に入れたいけれど、そもそもボクは諜報向きのテクニックを磨いてきたからなあ。うーん、何かいいものないかな。




