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第119話 三頭会議(2)

「今回集まってもらった要件については改めて説明するまでもないだろう。昨日、半世紀ぶりに封印門が開放された」

 妙法院会長がテーブルを見回す。部活連頭取松下紺気、アカデミー代表金今眞秀。どちらの表情にも現在のダンジョンにおける最大級の事件に対して驚きの表情はなく、すでに織り込み済みであることをうかがわせる。

「われわれ開放派の悲願が期せずして達成されたわけだが、今後の行動について意思統一をしておきたい」

「ひとまず現状では安全確認を理由に一般生徒の封印門の通行を制限しています。このあとの動きとしては調査班を編成して新規開放エリアの状況確認と脅威度の評価を行う予定です」

 笠取書記からの報告に、松下頭取がうなずき肯定の意思を示す。金今代表は何が楽しいのか、含み笑いの表情を浮かべている。

「調査班の選出はこちらで対応を始めている。編成が完了次第、メンバー表を提出するので生徒会側でチェックしてくれ」

「了解した。メンバー表は唐金に提出を。編成の変更に関しては彼女の指示に従うように」

 妙法院会長の言葉に松下頭取は唐金と目線を合わせてうなずき返す。

「われわれアカデミー所属の部活動は後方待機ですね。新エリアから持ち込まれた素材や情報の分析を行うとしましょう。関連部署には臨時予算の支給を期待してもよいでしょうか?」

「状況次第だが多少の融通は利かせよう。だが商会ではわれわれ生徒会の年間予算に匹敵する資金エストをプールしているはずだ。アカデミー直轄の部に関してはそちらで対応してもらおう」

「それは構わないですけどね。ただ、あまりウチが資金面で幅を利かせると実効支配が進んで生徒会の立場が弱まることになりかねませんよ?アカデミーとしては忠誠心を疑われるようなことにはなりたくないですから」

 忠誠心と言われて妙法院会長が鼻白はなじろんだ表情になる。今更何をと思わなくもないが、生徒会の立場が弱まるのは避けねばならない。

「それなら、新規エリアの開拓がある程度進むまでアリバス商会での取引を低価格に抑えてもらえない?物資が不足すると価格勝負になって規模の大きい部活が有利になってしまうわ。当面は商会が標榜する市場原理を抑えて活動の活性化を目指す方向にしてほしいかな」

 生徒会で会計を任されている唐金が発言する。

「ふむ。確かに過渡期に寡占状態が進むと市場原理が意味をなさなくなりますからね。基本的な考えには賛同します。ただ、価格というのは難しくてね。市場を無視した低価格をつけるとそれが標準となって、のちのち適正価格に戻すことが難しくなります。そこをどうするか……」

 金今眞秀が頭の中でそろばんをはじく表情になる。

「そうですね。価格統制による差額分は生徒会から資金が出ていることにしましょう。そうすれば一般の部活動にもわかりやすい形で生徒会の援助が届くことになります。新規エリア開拓による経済活動が軌道に乗ってきたら生徒会からの援助を段階的に打ち切るという名目で順次適正価格に戻していくことができます。それに、価格統制期間に抑えた合計金額をアカデミーの貢献度として評価していただれば、我々としても有意義に取り組むことができます」

 なるほど、直接的な資金の移動を行うことなく価格問題を解決し、かつ名目上の合計金額で誠意を売るということか。実に商人らしい解決策と言える。隠された意図がないかと疑いたくなる気持ちがゼロではないが、問題はなさそうに思える。目を合わせた唐金も首肯を返すのを確認して妙法院会長が答えを出した。

「ではそのように対応願おう」

「わかりました」

 話が一段落したところで次の議題へと移行する。

「新エリアの状況について、先行したパーティーに対する聞き取り調査の結果を報告する」

「お願いしよう」

「封印門の外は開けた空間になっているそうだ。地底湖エリアと河川エリア、その奥に山岳エリアと続いている。山岳エリアは入り口部分まで到達しているが、奥がどうなっているかは未確認だ」

「うむ。記述通りのようだな。空間は広いが基本的には一本道の構成らしい。例の部屋は山岳エリアの奥か……」

「遭遇した魔物はセイレーン、水牛、スライム。セイレーンは精神攻撃を持っており男子は無力化される危険性が高く注意が必要だ」

「そういえばコウタくんのパーティーってアタッカーは男子だけじゃなかったっけ?セイレーンの攻撃にどうやって対処したのかしら?」

「セイレーン対策に弓術部の女子部員を勧誘したようだ。セイレーンの精神支配は戦闘が開始されると解除されるらしい。彼女は、遠距離攻撃でエンカウントを確定してから男子部員を投入する作戦を推奨していたな。それともう一人、近接戦闘に特化した女子メンバーがいて、姫野荒太と連携して一体倒したそうだ」

「近接戦闘で?一体どうやって……相手は飛行タイプだったんでしょう?」

「魔法道具同好会で特殊な防具を開発したらしい。セイレーンに掴みかかられても無傷だったそうだが、まあ無茶な戦法ではあるな」

「セイレーンの攻撃に無傷って、どんなオーバーテクノロジーなの?魔法道具同好会っていったい何者?」

「防具のおかげもあるのだろうが、その女子生徒の戦闘力も相当なものらしいぞ。相手が弱っていたとはいえ、徒手空拳で水牛を仕留めたらしいからな」

「なっ!?そんな生徒いたっけ?どこの部員?」

「もともと帰宅部で最近姫野に誘われてパーティーに参加したそうだ。その生徒は実家が空手道場で格闘術はそちらで鍛錬していてアマチュアの大会での戦績もなかなかのものらしい。うちは格闘系の部活動は手薄だからな。今後そっち方面の活動もテコ入れが必要かもしれん」

 少し表情を崩して対話を楽しんでいる様子が見えた松下頭取が一息入れて姿勢を改める。

「水牛戦の際、パーティーに参加していたうちの部員がアンノウンらしき個体を目撃した」

「アンノウン……例の正体不明のヒューマノイド型の魔物か」

 松下頭取がゆっくりとうなずく。

「目撃した部員によると、最初水牛の群れは非活性で、距離を置いてやり過ごすことが出来たそうだ。あとから来たと思われるアンノウンが水牛に襲い掛かり、パニックになった群れが姫野のパーティーにエンカウントしたらしい」

「それはまた運が悪いわね」

「……運の問題ではない可能性が高い」

「どういうこと?」

「パニックになった群れは自分たちのダメージも顧みず突っ込んできた。通常、開けた空間で十分に距離がある状態ならば反撃を受けた時点で攻撃を見送るかより危険が少ない方向へ逃走するものだ。それが真っすぐに突進してきたそうだ。そのうちの一頭は洞窟に逃げ込んだ姫野を追って狭い通路を奥の方まで入り込んでいったらしい」

「確かに。パニックになった草食動物にしては明確な殺意を感じるわね」

「対峙したうちの部員も、相手から憎悪に似た印象を受けたと言っている。もし、アンノウンが意図的に魔物を暴走させて人を襲わせることができるのだとしたら、今までうちが味わわされた敗北の原因も分かるというものだ」

「魔物同士の連携と凶暴化か……やっかいな」

 再び松下頭取が重々しくうなずく。

「アンノウンが新エリアに入ったことが確実である以上、ヤツの排除が最優先だろう。個々で当たっても損害が増すばかりだ」

「了解した。調査班とは別に討伐隊を組織してことに当たってくれ。アンノウンが排除できるまでは当面封印門の通過制限を継続する」

 妙法院会長があらためてテーブルを見渡す。

「封印門の開放が成った今、我らの究極の目的に向けて皆の尽力を期待する!」


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