第115話 鉄鉱石
「テツさん、お久しぶりです」
「よう、コウタ。しばらくぶりだな。どうした、疲れた顔をして」
「ん、いやー、さっきまで生徒会に捕まってたんです。会議ってくたびれますね。あんなのを毎日繰り返している大人は大変だなー」
「はっはっは、違いないな。親に感謝だ。で、今日は何の用だ?無駄話をしに来たってわけでもなさそうだが」
「やっぱりわかっちゃいます?」
ボクはニヤリと笑みを浮かべてストレージから品物を取り出す。
ゴトリとカウンターに置いたのは、例のひよりが投げつけてきた鉄鉱石だ。
「こっ、これはっ……」
テツさんが目をまん丸に見開いて震える手を伸ばす。
「やっぱりテツさんには一目でわかっちゃうんですね」
「鉄鉱石……しかもとんでもねぇ高純度の……」
カウンターに肘をついて座り、テツさんの表情の変化を眺める。ニヤニヤが止まらない。テツさん、新しい武器を思う存分作りたいって言ってたもんね。
「どうです?使えそうですか?」
「使えそうも何も、こんな良質な鉄鉱石は見たことがねぇ。おまえ、これをどこで……いや、そんなことはどうでもいい、もっと手に入るか?」
ムフフ。期待通りの反応だね。じゃあ、次もイケるかな?
「じゃじゃーん」
ボクはストレージの中の鉄鉱石を全部カウンターの上に並べる。合計で百キログラムはくだらないと思う。例の第四階層の枝道で床に落ちている分をありったけ拾い集めてきたんだよね。アイテム化してストレージに入れられなかったらとても運べない重量だったよ。
お宝の山にテツさんが再び声を失う。狙い通りだよ、いえ~い。
あんぐりと口を開けて呆然とカウンターの上に並んだブツを見つめていたテツさんが、ハッと表情を取り戻す。
「これってあれか、鐘が鳴ったヤツが関係あるんだな?」
コクリとうなずく。
「ってことは、ついに。ついに見つけたんだな、鉄鉱石の鉱床を!」
「そうです。第四階層の未踏領域で見つけたんです。まだ誰も知らないから取り放題なんですよね。もっとも、すぐにでも知れ渡っちゃうと思いますけど」
「いいのか?そんな情報をほいほいと俺にしゃべっちまって」
「あんなに派手にアナウンスされたんだし、目端の利く人ならもう今日にでも探しに出てると思いますよ。隠しておけるほど小さいものでもなかったし」
「……コウタ。おまえもう少し欲深くならねぇと損するぞ」
「大丈夫。今日こうして一番に持ってきたんですから、まだ価値が高いうちにがっぽり儲けさせてもらうつもりですよ」
「そりゃあ、知らない仲じゃないから買取価格に多少の色は付けるが……」
「そこなんですけどね、テツさん。悪いんですけど、この鉄鉱石は買取じゃなくて材料として使ってほしいんです」
「おう、持ち込みでの武器製作も大歓迎だぜ」
「せっかく気分が乗っているところに申し訳ないんだけど、注文は武器じゃないんです」
「こっちは鉄が打てればなんだってありがたいさ。で、何が入用だ?」
「つるはしを作ってほしいんです。この材料でできるだけたくさん」
「……なるほど、考えたな」
テツさんにはボクの目論見が一発で伝わったようだ。
そう、この材料で鉄鉱石を掘り出すためのつるはしを作るのだ。それを貸し出してレンタル料を徴収する。当面は鉄鉱石は高値がつくだろうし、ろくな道具もない状態で採集に向かうよりも多少の出費があっても採掘量を増やしたほうが利益が出ると考える人は多いだろう。ボクはダンジョン探索に時間を割きたいから鉄鉱石を掘る時間はあまり取れないと思う。それなら鉄鉱石採掘で一山当てたい連中に道具を貸し出して、レンタル料を徴収するほうが時間を有効に使えるはずだ。ボクは助かるし採掘者は儲かる、そのうえ鉄鉱石の流通量が増えるから鍛冶屋も嬉しいというわけだ。
ある程度鉄鉱石の流通が安定するまでの一時的な稼ぎにしかならないと思うけれどそれでいい。そのころには鉄製の武器や防具の価格も落ち着くだろう。ボクが目指すのはお金持ちじゃない。ダンジョン探索なんだから。
二人の思惑が一致して、ニヤニヤ笑いが止まらない。
「よろしくお願いします。テツさん」
「おうよ。任せとけ。超特急で作ってやらぁ。こっちはここんところガラスの製造ばかりでなあ。やわっこい物に飽きてたんだ」
二人でがっちりと握手を交わす。
「誰かさんがガラスの悪口言ってると思ったらコウタくんじゃない。なに男同士で気持ち悪いことしてるの?」
奥から瑠璃瓦先輩が顔を出す。
「おう、ちょうどいいところに来た。ガラス工房の独立運営を前倒しするぞ。これからは鉄のほうでも炉の使用が増えるからな」
「そんなこと勝手に決めないでよ。確かに魔高炉の増設は済んでるから動けなくはないけどさ」
「そうぼやくな。こっちが本格稼働すりゃあ、おまえが欲しがっていた板ガラスの製造ラインも作れるようになるからよ」
「えっ?それってマジ?って、これ鉄鉱石じゃん!」
「ああ、コウタがまたやらかしたのさ。今度は鉄鉱石の鉱脈だ。忙しくなるぜ」
「こうしちゃいられないわね。急いで人を集めるわ」
瑠璃瓦先輩が慌てて出かけて行った。
「なんか大変な騒ぎになっちゃいましたね。すみません」
「がはは、嬉しい悲鳴ってやつさ。何を謝ることがある。おまえは生産系部活の救世主だよっ」
バシッと思いっきり背中をどやしつけられる。
「イテテ」
鉄鉱石が流通し出せばいろんな鉄の武具が作れるようになるだろう。いまは直剣が最大の武器だけれど、これからは個人の体格や好みに合わせた武器が作り放題だ。楽しみだね。テツさんは休む暇が無くなるだろうけど。
「そうだ、そういえばテツさんに聞きたいことがあったんですけど」
「なんだ、改まって?」
「ここでは武器や道具は作ってもらってますけど、防具はないですよね。どの部活で作っているんですか?」
「ん-、そうだな。昔は作っていたのかも知れないが、ここ何年も防具は作ってねぇな。革鎧の類なら細々と個人経営的なクラフトマンが手掛けていたりするが、鉄鎧とか鎖帷子なんかは扱っている部活はないと思うぞ」
「そうですか。うーん、どうしようかな。せっかく鉄も自由に使えるようになるし面白い材料も手に入るようになったんだけどな……」
「とりあえず革製品専門のクラフトマンを紹介してやろうか?高木っていうんだが、あいつなら防具関係の状況は俺よりも詳しいはずだ」
「よろしくお願いします」




