第114話 出頭命令(2)
「どうやって開けたんだ。封印を解くには『鍵』が四つ必要なはずだ」
ここは生徒会の会議室。前日にもくろんだようには上手くいかなくて、称号に関係なくボクが事情聴取に呼び出された。ヨギはこれ幸いとばかりに放課後早々に姿をくらました。あんにゃろー、覚えてろー。頼んであったお遣いもすっぽかしてたら、ただじゃ置かないかんな。
「鍵って『片割れの鏡』のことですか?あれってやっぱり四つあるんですね。ボクが手に入れていたのは二個だけです。四つそろっていたらもっと楽だったんですけど」
「足りない状態で封印を解いたと?」
「はい。鏡の使い方はひよりが見つけました。封印を解除する魔法陣の起動方法は過足君のアイデアが元になっています」
ふざけていただけだけれど、ヨギのアイデアであることは間違いないから嘘ではないよね。うん。
「だが、封印を解除しただけではガーディアンに阻まれるはずだが?」
ふーん、やっぱり生徒会はそこまで具体的に知っていたんだ。他に一体どんな知識を隠しているのかな。といっても、無理に生徒会の秘密を探り出すつもりはない。好奇心が子猫を殺すっていうからね。
「それで、ボルダリング部に協力を依頼して攻略に参加してもらいました。ガーゴイルが動き出す前に、目に鏡をはめ込んだらガーゴイルだけを石化させることができるかなと思って」
「なんとまあ、びっくり仰天な手を使ったねぇ」
美宮先輩が驚きを通り越して呆れたような声を上げる。
「普通は『鍵』が足りなければ、足りない分を探すものだと思うけど……」
「それはそうですけど。ボクとしては同じ鏡がいくつもあるとは思ってなかったし、手持ちの一組で解決する方法を考えた結果なんですけど」
「そこが我々との差か……」
生徒会長が目をつむって天井を仰ぎ椅子にもたれかかる。
「その言い方だと、やっぱり生徒会は『岩壁の扉』がただの彫刻ではないことを知っていたんですね?」
「不敬だぞ、姫野」
敷島副会長がいきり立って身を乗り出す。
「かまわんよ、敷島君。封印門を開放した彼には知る権利がある。我々にはできなかったことを成し遂げたのだからな」
右手を上げて制した会長の言葉に、敷島副会長は不服を飲み込んで身を引く。
「確かに生徒会は知っていた。むしろ、長年あれに取り組んできたのだ。だが肝心の鍵が足りず、鍵の複製にも成功していない。もう何十年も打開策を探して秘密裏に活動してきたのだよ」
「どうして秘密なんですか?全員で取り組んだほうが成果が上がると思うんですけど」
「理想としてはそうね。でも現実は違う。生徒会が全力で取り組んでも解決できない状態が続くと、自ずと生徒会の権威は落ちるわ。権力に固執するわけじゃないけれど、このダンジョンの運営者として、生徒会は頂点に居続けないといけない。そこは絶対に譲れない点なのよ」
美宮先輩がいつものからかうような雰囲気を消して真面目な口調で語る。
「封印門が閉ざされて数年を経て、人々の興味は次第に薄れていったわ。学園では三年という短い期間で世代交代が起きる。門の存在は自然と寓話のように扱われるようになったわ。生徒会は敢えてその状態を放置したわけ。そうしていつしか封印門は『岩壁の門』と呼ばれるようになり、生徒会の中でのみ扱われる機密事項となったのよ」
敷島副会長がぴくりと反応したがそれ以上の発言はなかった。
「それで、門の向こうの様子がどうだったか聞かせてもらえないだろうか?」
「前にボクが転送された地底湖でした。セイレーンが三体。マーマンについては今回遭遇しなかったけど、きっと水中に生息していると思います」
「うむ、予想通りか。そうするとプールの底の転送陣はその地底湖の湖底につながっていると見てよいな」
「そうね。ったく連中も迷惑なことをしてくれたものだわ……。転送陣の調査は引き続きわたしのほうで魔法陣研究部と連携して進めます」
「頼む」
連中って誰だろう?そう思ったけれど、なんだか聞ける雰囲気ではなかったので聞き流すことにする。そろそろボクもこの息苦しい会議から解放してもらいたいし。
「門の向こう側で遭遇した魔物については運動部連合のほうで道庭と一矢さんが報告することになっています。詳しい話はそちらに確認してください」
戦闘系の話はヒコと一矢さんに丸投げしたい。『岩壁の門』攻略のほうはヨギに逃げられてしまったからね。
いい感じに締まったので話はここで終わりとばかりに腰を浮かせる。
「待て。『鍵』を渡してもらおうか」
「これですか?」
片割れの鏡をテーブルの上に具現化する。
敷島副会長が手を伸ばそうとするのを牽制するように、素早く鏡を掴み取る。手にした片割れの鏡を突きつけながら生徒会長に宣言する。
「これはボクがダンジョンで正当に手に入れたアイテムです。トラップリシンダーのときは影響範囲が大きいと思ったので譲りましたが、こちらのアイテムは思い入れもあるし、なかなか便利なんで所有権を主張します」
何度も取り上げられてたまるものか。ボクの決意は表情に現れていたと思う。
「なっ。それは封印門を開放するための重要アイテムだ。生徒会で管理する必要がある。個人所有など認められん」
「待ちたまえ、副会長。ダンジョンで手に入れたものの所有権はその者に帰する。それが大原則だ」
「しかし、会長……」
「封印門を開放するという目的が達成された以上、『鍵』の存在を生徒会で秘匿する必要はなくなった。開放者としての功績を称える意味でも、彼に所有を認めるのが筋であろう」
「……分かりました。会長の決定に従います」
敷島副会長は不満気ではあったが、それ以上の反論は控えて椅子に深く座り込んだ。
「姫野荒太君。その『鍵』の正式名称は『大賢の奇貨』という。賢明な者が正しく活用すれば思いがけない利益をもたらすことができる品という意味だ。君にはそのアイテムを持つ資格がある。これからもダンジョン攻略における活躍を期待しているよ」
「わかりました。期待に応えられるよう努力します」
なんだかずいぶん買い被られた気もするけれど、ここで話を長引かせるのも面倒だから当り障りのない感じで答えておこう。
そのあとも引き続き会議を続ける生徒会の面々を置いて、ボクは早々に会議室から退散した。
ふぅ。




