表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
103/129

第103話 単眼のガーゴイル(1)

 翌日、ボクは一人で第四階層に向かった。

 もちろん、一人で岩壁の門を何とかしようと考えているわけではない。これは攻略のための事前準備、いわゆる予備調査ってやつだ。みんなで話し合った通り、ガーゴイルは普通の手段で突破できる敵だとは思えない。力押しではなく、何か知恵を絞った工夫が必要なはずだ。そのためにはもっと情報が必要だと考えたわけだ。

「とりあえずここまではオーケー、っと」

 スライムは昨日の今日でだいたい半分くらいの大きさまで復活していた。まだ通路を完全にふさいでいるわけではないので問題なく通過する。

 その先の敵は昨日全部倒しておいたので、まだリスポーンしていない。白井さんの言う通り、ほとんど戦闘のないまま岩壁の門までたどり着けた。

「うーん、改めて見るとやっぱりガーゴイルだけ浮いて見えるよね」

 昨日見たときもなんだか違和感を感じたけれど、ガーゴイル像が動き出すことを知って見ると、像と台座と門の前の石柱は後付けされたものだと分かる。

「さてと」

 石でできたように見える扉に近づく。表面には様々な魔物が彫られている。左右の扉は線対象になっていて、彫られている模様はざっと見た限り同じだ。小さなサイズの魔物はレリーフのように薄く彫られているだけだが、ところどころに大きなサイズの魔物が彫られており、それらは彫像のように立体的に飛び出している。つまり、ちょうどいい足場や手がかりになるものがあるということだ。

 今回一人で来た目的は、この扉を登って扉の上部やガーゴイルを間近で観察することにある。

 さっそくボルダリングの要領で最初の手がかりに両手を掛け、片足を乗せる。第一目標のガーゴイルまでは十メートルくらいありそうで、ボルダリングというよりはリード競技に近いかもしれない。ただ、飛び出た石像がいくつもあるので難易度は低い。

 一手ずつ先を確認して、次のホールドをどう取るかをイメージする。手がかりが薄い場所では松脂代わりに付着術式を使用するつもりだ。

「よいしょ、っと。ふー」

 ガーゴイルの真下に到着する。ここは円盤状の台座があって少々手がかりが少ない。ガーゴイルの足にぶら下がって懸垂で上がることも考えたけれど、なんだか不意に動き出しそうでちょっと遠慮したい。スタミナも握力もまだ残っているし、少し横に移動してガーゴイル像を回り込み、上からアプローチしよう。

 像の後ろを通るときに観察したところ、ガーゴイルには尻尾が生えていないようだ。なんとなく悪魔的なイメージから、長い鞭のような尻尾があると勝手に想像していたけれど、思ったより類人猿に近い体をしている。

 ガーゴイルの上に回り込むと、円盤状の台座自身が足場になってほぼ歩いて横移動ができるようになった。しっかりと足場を確保し、ブーツの付着術式で安全を確保した上でガーゴイルの背中を観察する。筋肉が隆起した広い肩から飛膜で出来た翼が生えている。折りたたまれた状態では非常にコンパクトだ。太い脚はよく見ると獣毛で覆われたような模様になっており、体毛のないつるりとした胴体とは異なっている。足の指は長く力強く、親指が他の指と対向していてがっちりと足場を掴んでいる。

 前に回り込んで伸ばした右腕を見る。手の指も太くて力強い。人間の頭などは握りつぶせそうな印象がある。分厚く固そうな爪は先端が三角形に尖っており、鉄鎧くらいは切り裂けそうだ。前腕は小手でもはめているかのように獣毛に覆われている。上腕は胴体と同様につるりとした印象だ。もっとも、昨日の戦闘で鉄つぶてをぶつけた手ごたえとしては、硬質の岩の塊でしかない。

 右腕を足場に二体のガーゴイルの間に割り込む。すでに石化しているとはいえ、二体の視線の間に入るときは一瞬自分が石化して転げ落ちるイメージが脳裏をよぎる。恐怖の一瞬を過ぎて逸らしていた目線をガーゴイルの顔面に向けた。

 こちらを睨みつける禍々しい半月状の一つ眼。瞳の代わりに刻まれている魔法陣。

 この魔法陣がたぶん石化を引き起こしているのだろう。持ち帰って魔法陣研究部に見てもらおう。石化の対策が立てられるかもしれない。持ってきた紙を眼球にかぶせて拓本を取る。

 紙を押し付けている手が上瞼うわまぶたに触れる。そこはギザギザの山型になっており、それがより禍々しさを掻きたてる。石像となり生気を失ってなお恐怖を感じさせる邪眼はしかし、どこか見覚えがあった。

「この眼の形……もしかして」

 ストレージから片割れの鏡を取り出す。取り落とさないように注意しつつ、半円の向きを合わせてガーゴイルの眼に押し付ける。

 カチリ、と音がしそうなくらいぴったりとはまり込む。

 どういうことだろう?

 門の前にあった石柱とガーゴイルの眼にピタリとはまる鏡。この鏡は互いの鏡面に映ったものを相手に届ける魔法陣が組み込まれている。

 もし、この鏡をガーゴイルの眼にはめたまま石化を解除したら、ついになる鏡には石化の視線が映し出されるだろう。

「そういうことか!でも鏡は一組しかないし……。鏡は石化解除にも必要だから……うーん」

 昨日の岩壁の門の石化解除シーンを思い出す。

 確か、石柱に透明鏡状態にした鏡をセットしたあと、しばらくしてからひよりに促されてガーゴイル像を見た。そのとき連中は下を向いて、まだ右腕を伸ばした姿勢のままだった。最初に聞こえたゴゴゴという岩が擦れるような音は台座が回転する音だったようだ。つまり、石化を解除してからガーゴイルが動き出すまでには猶予の時間があるということになる。

 もしかしたら。

 確認のために急いで扉の表面を降りる。帰りはもうボルダリング技術を無視して手足の付着術式を利用したヤモリの動きでぺたぺたとくだって行った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ