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第102話 強制帰還~二回目

「あー、くそぉ。やられたぁ」

 地上階のリスポーン地点に送られたのはこれで二度目だ。少ないと言えば少ないけれど、あの岩壁の門がらみでやられたのは二度目だから腹立たしい。

「コウタもやられたか」

 すぐ近くでヒコの声がして身を起こす。ヒコは床に胡坐をかいた姿勢で、石化させられた腕の感触を確かめるように手を握ったり開いたりしている。

「あんなに強い魔物が出るって聞いてないよ」

「ああ。俺もガーゴイルを見るのは初めてだ」

「あいつ、とんでもなく硬かったよね?」

「一合も切り結ぶ暇なくやられちまったからな。何とも言えないが、多分直剣ごときでは傷もつけられないんじゃないか」

 ヒコがステータス画面を表示するジェスチャーをしたあと、ここが地上階であることを思い出して苦笑する。

「それにあの爪の攻撃も強力だ。大盾が一撃で大破した。下に戻って確認は必要だが、たぶん大盾はロストしただろう。これまでの敵とは比べ物にならない威力だよ」

 ロストというのは破損の度合いが高すぎで修理不能になることをいう。大盾は手に入る防具の中で一番防御力が高いもののはずだ。つまり、ヤツらの攻撃は防げないということになる。

「そんなのが空を飛んでいるってだけでも脅威なのに、石化の状態異常まで持っているんじゃ太刀打ちできないよ」

「明らかに難易度のレベルが違うな」

「どう攻略すればいいと思う?」

「うーん……。すまん、思いつかない」

「だよねー」

 ぐへーと床に大の字になる。

 そうやってしばらく二人で悩んでいると、階下から白井さんとひよりが現れ駆け寄ってきた。

「コウくん!」

「よかった、無事脱出できたんだね」

 上半身を起こしてひよりのほうを見る。第四階層から戻るまでの道中で大きな問題には遭遇しなかったようだ。

「良くないよ、ばかばかばか」

 ぽかぽかと頭を叩かれたけれど痛くはない。

「ごめん、ごめんって」

 囮になるように動いたことを怒っているのかな?ボクが悪いわけじゃないけれど一応謝っておく。

「そっちは問題なかったか?」

 ひよりでは状況の説明は無理そうなので、白井さんにヒコが問いかける。

「来るときにもほとんど敵は居なかったし、帰りはエンカウントなしで戻って来れたわ。その点ではツイていたわね」

「雑魚敵の湧きつぶしはできているみたいだな。あと一日か二日くらいは現状を維持できると思うが、再アタックするにしても無策では今日の二の舞だし……どうしたものかな」

 どうやらヒコはもう次の作戦に思考を向けているようだ。

「二人が逃げ切れたってことはさ、ある程度距離を取ったら攻撃対象から外れるのかな?」

「その可能性はあるな。どこまで下がればいいかは検証する必要があるが」

「遠くまで追わないのなら、あいつらは門番っていうことなのかしら?」

「そうだね。ボクは最後の動きまで見ていたけど、あいつら、ボクの止めを刺そうとはせずに門の定位置に戻って扉の石化作業をしていたから。敵を殺すことよりも門を通さないことを優先しているように思えるよ」

「門番か……。そう考えると通常の敵と比べて難易度が高いのも納得だな。通り抜けるのに何か条件があるっていうことか」

「単純に通したくないだけかも知れないわよ」

「なんで?ダンジョンのギミックって通り抜ける前提で作られているものなんじゃないの?」

「それはゲームの話でしょう?現実問題として、門番を置くのは人を通さないためじゃない」

「そうだとしても、完全にふさがれていないなら通り抜けられるってことでしょ?」

 白井さんは肩をすくめるだけにとどめた。

「いずれにせよ、突破方法が見つからないことにはどうにもならないぞ」

「そうね。空を飛ばれるとわたしじゃろくに戦えないし」

「剣も盾も効かないしな」

「うーん、八方ふさがりだね。振り出しに戻る、か……」

「振り出しじゃないよ。岩壁の門の石化を解除する方法は分かったんだから前進だよ、コウくん」

「ああ、そっか。仮説が実証されただけでも大きな成果だったね」

 ガーゴイルがあまりにも強力な敵だったから頭から抜け落ちていたけれど、そもそも岩に彫った扉が本物の扉であることを証明できたのは大きな成果なのだ。

「そういえばその門を開けなきゃいけない主役はどこいっちゃったの?」

「「あ……」」

 ヒコと二人で顔を見合わせる。すっかり忘れていた。

 と、タイミングを見計らったように下校を促すチャイムが校庭に鳴り響く。同時に、近くの床に光のパーティクルが集積して人の形を描いていく。

「ぶはぁっ。やっと戻れたぁ」

 仰向けの姿勢で復活したヨギが米つきバッタのように飛び起きる。

「おぉ、お帰り、ヨギ」

「お帰り、じゃないよ、薄情もん~。怖かったんだよー。ずっと真っ暗なところに閉じ込められて、指一本動かせなくてさー」

「いや、だってボクたちもリスポーンしちゃったし。時間的にも迎えに行くのは間に合わないかなあって思ってさ」

 半泣きのヨギに肩を揺さぶられながら謝る。

 それにしても完全に石化しても意識は残るのか。興味深いね。

「石化をもとに戻す方法もわからないし、現場に戻っても結局下校時間になってリスポーンするのを待つしかなかったからな。すまん、力不足で」

 ヒコも申し訳なさそうに頭をさげる。

「よかったね、ヨギくん、下校時間が近くて。何時間も無感覚の空間に閉じ込められたら発狂するって聞いたことあるよー」

「な、なんですとー。危機一髪だったんじゃん。頭おかしくなったらどうしてくれんだよぉ、コウタぁ」

「そんなこと言ったってなぁ。石化の解除ってヨギにとどめを刺すくらいしか対処方法が思い浮かばなくてさ。石の体を砕けばよかったのかなぁ。高いところから落とすとかしてさ」

「あ、石割りならわたし得意よ。そうね。この太さなら何とか手刀で割れるかも」

 そういいながら白井さんがヨギの首をサラッと撫でる。

「ぞわわわぁ、結構です、遠慮します。下校時間まで待ちますぅ~」

「おーい、カバンカバン~」

 ひぃ~と悲鳴を上げて走っていくヨギを彼のカバンを抱えて追いかける。ちょっとからかいすぎたかな。

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