第100話 岩壁の門(2)
自分のポーチから片割れの鏡を二枚とも取り出す。裏面に半分の魔法陣が彫られていて石柱と共通するデザインになっている。素人目には鏡の裏面に描かれている模様は二枚ともほとんど違いがないように見える。とりあえず右手に持ったほうをはめてみよう。
形はピッタリだ。だけど厚みが合わない。石柱のくぼみのほうが深いのだ。当然何も起きない。
深さはちょうど半分くらい埋まった感じだろうか。なら、もう一枚あるんだからこっちの片割れの鏡もセットしてみよう。
二枚をくぼみにはめ込むと、ちょうど石柱の表面と同じ高さになった。
「うん、何も起きないね」
「やっぱり。片割れの鏡って何種類かあるのかな?」
拾ったものが偶然岩壁の門の鍵だった、っていうのも出来過ぎだけど、形も厚みもピッタリなものが無関係っていうのも考えにくい。何か謎があるんだろうか?
「うーん……。あ」
「コウくん、何か思いついた?」
「いや、このはめ込んだ片割れの鏡、どうやって取り出せばいいんだろうって思って」
ピッタリはまりこんでいるから指ではつまみ出せない。粘着テープでもあれば取り出せるんだろうけど、ダンジョンにその手の便利文房具は存在しない。と思ったら。
「もう、しょうがないなー、コウくんは」
そういいながらひよりが腰のポーチから紙テープを取り出す。どうやら粘着テープのダンジョン版は存在するらしい。それにしてもこんなところにまで文房具類を持ってくるなんて、さすがモノ作り系部活の部長だよ。
ひよりに取り出してもらった片割れの鏡を使ってもう一度挑戦。今度は先ほどとは違うほうの鏡の裏面を上に来るようにセットする。が、何も起きない。
「なあ、その鏡って離れたところの映像が映るんだろう?だったらどこか別のところにもう半分の魔法陣があるんじゃね?」
むむ、ヨギにしては鋭いことをいう。その線を当たってみようということになって、門の彫刻や壁の一部に半円形の模様がないか詳しく調べてみる。
「だー、無理無理。この中にはないよ。探しきれねー」
三十分ほど手分けして見て回ったけれど収穫はなかった。ヨギじゃなくても弱音を吐くところだ。実際に弱音を吐いたのはヨギだけど。
「なあ、コウタ。このくぼみ、底に何か描いてないか?」
床に足を投げ出して座っていたところにヒコが声を掛けてきた。ボクたちが休憩している間も地道に探し続けているなんて、さすが剣術部は精神力の鍛え方が違う。
「ん-、どうかなぁ。暗くて良く見えないよ」
じっくり見ようとして顔を近づけると暗がりになって良く見えない。懐中電灯が欲しいところだ。明かりといえば、そうだ。
「ひより、ちょっと紫外線照射装置貸して」
「ん-?ああUVライト。いいよー。はいこれ。直接光を見ちゃダメだからね」
「わかってる。ヨギで実証済みだし」
「むむ、何気にオレの経験がみんなの安全に役立っている?」
何事も前向きにとらえられるのはいいことだと思うよ。ヨギ。
UVライトをくぼみにかざす。LEDの光を反射してキラリと光る線が見える。良く分からないけど魔法陣っぽい。
「どうやら正解のようだよ。灯台下暗しってやつだね」
「かー、そんなところに隠してたのかよ。性格悪いよ、これ作ったヤツ」
「で、どうやってくぼみの底の魔法陣を取り出すの?」
はっきりと見えるわけではないから書き写すのは難しい。くぼみは単純に石柱を掘っただけのようだから何かのギミックで底面がせり上がってくるような構造でもなさそうだ。
「水を入れると浮き上がって見えるとか。ほら、光の屈折かなんかでさ」
「あれは多少深さが違って見えるだけで、くぼみの表面まで浮き上がらせるなんてできないわよ」
「テレビ石でもはめ込むのかなー。もしくは光ファイバー」
「テレビ石ってなに?」
「繊維状の結晶が同じ方向にそろってぎゅって固まっている石でね、紙に押し付けるようにして置くと印刷された字が石の表面に浮き上がって見えるの。昔良く行ってた科学館にお土産で売ってたんだよ」
「そんなもん、いまから手に入るのかよー。もっとこう、魔法道具でパパッとできないのかよー」
魔法道具……押し付けた面が見える……ヨギの眼……片割れの鏡。
「あっ!」
「ひゃっ、なんだよコウタ。驚かすなよ」
「お手柄だよ、ヨギ!」
「なんだよ、褒めてもなんも奢らないぞ」
「透明鏡だよ。ヨギがふざけてやってたヤツ。アレがここの鍵だったんだ」
「透明鏡って、ああ、あれか。向かい合わせにして向こうが見えるってヤツ」
「ああ。だからこうやって鏡の面を外側にして」
カチッと片割れの鏡同士が固定される。
「魔法陣を起動して」
起動時の光が収まると鏡の向こう側のヨギの顔が映しだされる。
「これをこのくぼみにセットする……」
「おおっ!」
二枚を張り合わせた片割れの鏡の鏡面が石柱の表面にピッタリと一致する。その鏡面にはくぼみの底に刻まれた魔法陣が映し出されていた。
石柱に描かれた半分と鏡面に映し出された半分の魔法陣が共鳴するように光る。肉眼では見えづらかった繊細な線をなぞるように光が走り、完全な形の魔法陣を描き出す。完成した魔法陣が石柱の表面から浮かび上がる。
ゴゴゴゴゴゴゴ
魔法陣から石柱を伝って光の線が地面を走り、門に到達したところで二手に分かれて伸びていく。
「よし、さすがオレ様、大手柄だぜっ」
「よくいうわ。あんたなんかふざけて遊んだり駄々こねたりしてただけじゃない」
「だがそれが正解を引き当てたんだ。オレ様、超ラッキー」
ヨギが浮かれている間にも岩壁に刻まれた扉の縁を光が走り、ぐるりと周囲を囲む。頂上に達した光の線が、扉の合わせ目を伝って下に降りてくる。光が一周したあとの扉の縁や合わせ目からパラパラと土くれが剥がれ落ちていく。
砂岩のような扉の表面が、黒々と重い金属のそれに変わっていく。
やった!やっぱりこの門は開けることだできるんだ、という感動と同時に、こんな重そうな扉をボクたちだけで押し開くことができるんだろうか、という懸念が持ち上がってくる。
期待と不安に鼓動を速くさせているボクの袖をひよりが掴んでひっぱる。
「ねえ、コウくん。なんかヘンじゃない?」
「どうしたの、ひより?」
「あれ……」
ひよりが心細そうな表情で扉の上部を指さす。
向き合っていたはずのガーゴイル像がいつの間にか九十度向きを変えて下を睨んでいる。台座がガーゴイル像ごと回転したようだ。突き出した右腕が石柱の前に集まっていたボクたちを指し示している。
扉に張り付くようにしてとまっているガーゴイル像の皮膚が石造りのそれから黒光りする御影石のような滑らかな姿に変わっていく。
扉のつなぎ目と同じように、ガーゴイル像の関節や翼の皺からもパラパラと土くれが落ちてくる。
「やば……」
記念すべき第100話です。
図らずも物語のほうもクライマックスに。
今までとは格が違う敵に立ち向かうコウタたちの運命は?!
……いや、部活なので怪我したり死んだりはしないんですけどね。




