Phase.7 バーミリオン家のお嬢さん
暗い瞼の裏が黄色く照らされる。
ゆっくりと瞼を開け、目を覚ます。目の前は昨晩見た茶色い木製の天井が広がっている。
体を起こし窓のほうを伺うとカーテンの隙間から陽の光が覗かせていた。
朝か……
コンコンコン
起きたばかりの朧げな脳に部屋の戸を叩く音が聞こえてくる。
「アルマだけどコータ起きてる?一緒に朝ごはん食べない?」
尋ねてきたのは昨晩俺のことを助けてくれたアルマだった。
朝ごはん?一緒に食べるのはいいけど一体誰が出してくれるんだ?って、とりあえず扉開けないと
アルマの言葉にふと疑問を思いつつも外で待ってくれている彼女のために部屋の扉を開けに行く。
扉の前まで歩きドアノブに触れようとした時、
「コータ……起きてる?」
アルマが先に部屋の戸を開けた。
ゴン!? 痛っ!
自分のタイミングに反して部屋の扉が開いたため、扉の前に立っていた俺はその額で扉の側面を受け止めてしまった。
「あ!ごめんなさい。大丈夫コータ?」
額に手を当てる俺を目にアルマが申し訳なく心配そうに声をかけてくれる。
「大丈夫。俺のほうこそ直ぐに返事しなくてごめん」
額に手を当てたままアルマの言葉に俺は謝り返す。
「それで朝ごはんって……」
「そうだ朝ごはん!コータと一緒に食べたいと思ってたのよ。さぁ、行きましょう」
朝ごはんの一言にアルマはさっきまで元気を思い出すと俺の手を引っ張って何処かへ連れて出す。
「アルマ。俺たち今何処へ向かってるの?」
部屋を出て階段を降り長い廊下を歩き進める中、俺はアルマに質問する。
「朝ごはんを食べるんですよ。食堂に決まってるじゃない」
「食堂か……。アルマ、昨日から気になってたんだけどここは何処なの?」
食堂までの道のりを歩き進めながら俺は周囲を見渡す。
窓枠や柱それに床に敷かれている絨毯。目に見えて明らかな高級品では無いもののそこそこ値が張るものだと見られる。埃一つ無い丁寧な清掃が行き渡っているのか?それぞれが輝いているようだ。
「ここはこの村を統治するバーミリオン家のお屋敷です」
「へぇ〜統治者のお屋敷か〜。通りで隅々まで綺麗な訳だ。ん、……バーミリオン?」
アルマから耳にした屋敷の名前に聞き覚えのあった俺はふと思いだそうとする。と言っても思い出すのは直ぐだった。
「バーミリオンって確か……」
アルマに確認しようと口にした時、
「着いたよコータ。ここが食堂」
アルマは目の前に両開きの扉を掴んでいた。
彼女の手で開かれた食堂部屋。扉側から部屋の向こう側まで長いテーブルが備えられていた。テーブルには左右に五つずつざっと十席ほどの椅子が並べられている。廊下同様に食堂内も清潔さが保たれている。
すっげ〜。とそんなことを思っていると入口に立つ俺らに気づいた一人のメイドさんがこちらへ近づいてくる。
「おはようございます。お嬢様」
「おはようアポロ!朝食の用意をお願いしてよろしいかしら?あたしのとそれから彼のも」
「かしこまりました」
アポロと呼ばれたメイド服の女性はアルマからのお願いを聞き入れるとすぐさま左手に見える厨房の向こう側へと去ってしまった。
隣で起こるその光景にただ黙って見ていた俺は心の中で薄々とあることに気がついていた。
俺はとんでもないところに助けられたのでは……
「コータ!こっちこっち」
考え事に頭を悩ませているといつの間にか奥側の椅子の前に立っているアルマが俺のことを呼びかけていた。
アルマの呼び声に応えるまま俺は彼女がいる席のほうまで歩き出す。
「さぁ、座って。ここだと朝はいい感じで光を浴びれるんだ」
ウキウキしているアルマの笑顔を前にちょっと気が引けるも俺は彼女の言う通りに隣に座る。
「アルマ。ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「何?」
例のメイドさんが料理を運んでくるまでの時間。俺はさっきから気になっていたことをアルマに聞くことにした。
「アルマは、そのお嬢様なの?」
「お嬢様か〜。お嬢様と言えばそうだけどお嬢様かな〜」
投げた質問にアルマの表情が一瞬曇ったように見える。しかし直後、アルマは頬掻きつつ答えてくれた。
「バーミリオン家は村を統治しているって聞いたけどこの村はどんなところなの?」
「小さな村だよ。小さいけど村に住む皆は毎日働いてる。畑を耕して野菜や麦を作ってる」
「そうなんだ。アルマはどんな仕事をしているの」
「あたし!?あたしは……」
気になっただけの何気ないことを聞いたつもりが、アルマは少しばかり声を上げるほどに驚きを見せた。
アルマの返事を待っていると、
「お待たせいたしました。本日の朝食になります」
さきほどのアポロさんともう一人のメイドさんがお盆に乗せた朝食を運んできた。
運ばれた朝食はバターロールのような丸いパンが二つとサラダと二切れのハムのような薄い肉類が並んでいた。
「いつもありがとうアポロ!それじゃ、いただきます」
アルマは食事前の挨拶を終えるとパンを手に取り、そのまま一口齧りつく。
美味しいそうに朝食を食べるアルマを横に一度会話が終わると、俺も「いただきます」と言い自分の分の朝食に手をつける。