Phase.5 とにかく休ませてください
ゆっくりと瞼を上げる。
死に絶えたゴブリンの残骸に、吐き出した吐瀉物がまだその辺りに残っている。目の前に映る光景は目を瞑る前とほとんど変わっていない。
「ふー……」
その状況に安堵の息が溢れる。
不用心に視界を覆ったが、幸いにも命の危険に晒されるような状況には無かった。
俺は預けていた木から背中を離し、散らばっているゴブリンの残骸へと近づく。
ゴブリンの残骸のステータス画面を立ち上げ、画面右下にある【ドロップ】の表示されているボタンをタップする。
ボタンをタップするとゴブリンの残骸は光輝いた後、一枚のカードになって残骸のあった場所に落ちた。
俺は血の滲む草の上に落ちたそのカードを手に取る。
【素材カード:ミニゴブリンの牙】
ミニゴブリンから採取できる牙
武器や防具の加工品として使用されている。
売却価格 銅貨二
「発動!」
俺は手にしたそのカードを再び地面へ向け、その言葉を口にする。
俺の発した言葉に反応してそのカードは光出し、カードは一個の牙となって地面へ落ちた。
「なるほど。こういう感じか」
目の前で起きる現象に感想を溢す。
俺に設定されている【召喚士】という職業の効果らしく。倒したモンスターのドロップ品なんかをこうやってカードにして持ち運べる。
素材で荷物が嵩張らないのはいい事だ。死臭も残らないし、ただカードでも枚数が貯まれば重いから売れるなら売ってしまおう。
そんなことを思いつつ俺は辺りに転がっている残りの残骸全ても同じように【ドロップ】を行った。
結果
【素材カード:ミニゴブリンの牙】七枚
【素材カード:ミニゴブリンの皮】四枚
【素材カード:ミニゴブリンの斧】三枚
合わせて十四枚のカードを手に入れた。
全てのカードを腰のケースにしまった後、俺はそばに置いておいたゴブリンの斧を手に取る。
「「武器は装備しないと意味がありませんよ。」な〜んて……」
何時ぞやに聞いたそんな台詞を口ずさみながら自分と斧。それぞれのステータス画面を開き、斧を装備するよう設定する。
ステータス画面を閉じ、片手に持つ斧を素振りする。
「案外軽いんだな」
数回振り、その感想が溢れる。
「よし!それじゃ行くか」
振り終えた斧をベルトに挟み、俺は最初に歩いていた道。駅から続いている一本道を見直す。
歩き出そうと一歩踏み出した時、ふと地面に着いている吐瀉物が目に入る。
「…………」
さすがにこのままはあれか。
それに罪悪感を抱く俺は足で蹴り削った土を吐瀉物の上に被せる。
見えなくなるくらい土を被せたら、再び顔を目指す道の方へ向け歩き出す。
「……はぁ〜、逃げたとは言えまたあの距離歩くのか」
「はあぁぁぁぁ!」
「でぇぇりゃぁぁぁぁ!」
「うぉぉぉぉりゃぁぁぁぁ!」
はぁ、はぁ、はぁ、……モンスター多いは!
次々と飛び出してくるモンスター対処した俺は、息を切らしつつも空へ向かって現状に対する不満をぶちまける。
最初にゴブリンと遭遇した地点を超えてからか?嫌味なほど多い頻度で俺は様々なモンスターと遭遇していた。
ゴブリンでは無かったが、リアルで見たらそれはもうキモい植物系モンスターや自分の手と同じくらい大きい昆虫系、泥団子の見た目をした土塊のモンスター。
お陰で新しい素材カードを何枚か手に入れたが、その反面全速力でダッシュしたのか?と言わんばかりに俺の体は疲れていた。
レベルも4から7に上昇。各ステータスも合わせて上昇しているが、回復している訳ではない。
目に見える擦り傷に反して体力・精神ともにきつい。
命の奪い合いという慣れない環境に加え、目に飛び込んでくるモンスターの臓物に再び腹の中から何かが込み上げてきていた。
その都度、俺は地面に膝を折り、その手で口元を強く押さえ込む。
歩いて、遭遇して、倒して、立ち止まって……、そのせいか進む速度は始めより遅い。
ステータス画面で確認することができる太陽の動き。
太陽のアイコンはもう少しでオレンジ色のラインへ辿り着こうとしている。たぶん、向こうの時間でいう16時か17時くらいだろう。暗くなる前にはこの森を抜けたいな。
はぁ〜……。とまたため息を落とし、俺は歩き進めるために足を動かす。