Phase.29 勝つためには出し惜しみ無しで
Phase.29
「コータ……。あたし、あたしね……」
涙ぐむアルマが震える手で俺の服の裾を握る。
「あたしのせいで……村が、皆んなが、」
「大丈夫。大丈夫だからアルマ」
安心して欲しいと、泣かないでと、俺はアルマにそう口にする。
それでも彼女は首を横に振るう。
「あたし死にたくないよ……。あたしはただお父さんと一緒に居たかっただけなの」
「アルマ大丈夫だから。アルマは死なせない。アイツを倒してその呪いを解くだから待ってて」
ただお願いしただけ、ただその日常が欲しかっただけ、アルマはそう言って顔を俯かせる。
「大丈夫」と投げかける言葉に彼女の掴む力が抜ける。
悲しみに打ちひしがれるアルマをアポロさんにお願いした後、俺はヤツを吹っ飛ばした窓から飛び出し屋敷の中庭へと降り立つ。
「プテラン。お前は向こうの戦闘に戻ってくれ!」
傍で機械の翼を羽ばたかせるプテランガーンを村の門前へ飛び立たせる。
飛び立つプテランガーンを見送った俺は庭で転がっているヤツのもとへ近づく。転がるヤツとの距離があと三メートルほどになると近づく足を止めた。
「いつまで寝てんだ?とっとと起きろ」
俺の言葉に伏せるソイツは立ち上がる様子を見せない。
「奇襲を仕掛けるつもりなんだろうけどバレバレだからな」
「な〜んだバレてるのか。お〜っかしいな。みんな引っかかってたのに」
「それは今までのやつが警戒心無かっただけだろ」
だるそうな声とともに立ち上がるソイツに俺は呆れる。
「で、君誰?」
「生憎と恩人を手にかけるような相手に名乗る名前は持ち合わせが無いんでね」
「あ、そう」
そう返答した直後、一瞬にして目の前にソイツが飛んでくる。
意表を突かれた俺はソイツの拳をもろに喰らってしまった。力強い拳が全身に衝撃を震わせたと思えば、俺の体が屋敷の壁に激突していた。続く衝撃に思わず血反吐が溢れる。
ミスった。防ぎ損ねた
体に残る激痛に庭に膝を折る。ステータス画面のHPバーは一気にレッドゾーンに入っていた。
もう一発喰らったら即終了。そう考える俺の元に再びソイツが傍にやってくる。
振り降りる拳を間一髪のところで回避する。同時に対象を失ったヤツの拳が庭に直撃する。
拳の凄まじ威力によって庭にクレーターが生まれ、周囲に土煙が発生する。
今だ!
発生した土煙でお互いの視界が遮られたの目に、
「第二作戦開始!」
その言葉を口にする。
腰のデッキから再び五枚のカードが展開される。
「飛ばせ!烈機兵パルゲナ召喚」
輝くカードから一体の恐竜が現れる。
パキケファロサウルスの見た目を持ちながらその体は歯車で動いている。頭に形成されている拳の形をした鉱石を前に土煙の向こう側にいるヤツへ突っ込んでいく。
ドン!!
土煙の向こうから重い音が聞こえてきた。徐々に視界が晴れ見えてきたのは、パルゲナの突進を片手で押さえるヤツの姿だった。
「パルゲナ!?」
驚くも束の間、押さえ込んだパルゲナをヤツは蹴り上げ庭の開けた場所へと飛ばす。
「へぇ〜君召喚士なんだ。道理で距離を取るわけだ。じゃああれだ、魔物どもは君の召喚獣の影響で攻め込めてないわけだ……つまり」
そう言いながらヤツは俺との距離を詰めてくる。それに合わせて俺もただ後退りするばかり。
「君を殺せばオレの勝ちだ」
ヤツが一気に加速してくる。
繰り出される攻撃の数々を俺はただ回避するしか無かった。
防戦一方。そんな中、俺は展開されいる残りの手札を思い返す。
条件のカードは揃ってる。ただここであのノーマルカードを切りたくは無い。ヤツに勝ったからって帰れる保証は無い。今後こんなヤツと戦う機会は嫌でもたぶんやってくる。でも……違う
なんとか距離を取り手札のカードを取る。
「来い!恐機兵ティーレックス」
ティラノサウルスの見た目を持つ機械仕掛けの巨大な人形を呼ぶ。
召喚されたティーレックスは咆哮とともにその大きな牙でヤツへ噛みつく。
噛みつきが避けられるも続けて放ったムチのようなティーレックスの尻尾攻撃が回避動作を行うヤツの体にヒットする。
庭に膝をつくヤツを他所に俺のもとにパルゲナとティーレックスが戻ってくる。
ヤツの怒涛の攻撃を前になんとか条件を揃えられた俺は手札から更に一枚のカードを手にする。
「発動!機械鎧」
宣言したカードの輝きが俺とパルゲナとティーレックスの三体を包んでいく。
三つの影はやがて一つの影を作るとその輝きは空気中で四散した。