Phase.28 面倒な相手にはドロップキックを
あれからまた暫くの時間が経過した。
村の門前に集まってくるモンスターの数は増していき、その戦力差に俺は新たに“砲機人ウルガノン”を召喚した。
ウルガノンの砲撃に小型モンスターの群れが一掃されていく。が、次から次へと森の向こうから同様のモンスターが数を引き連れてやってくる。
苦戦を強いられた虎型モンスター並みのモンスターが現れていないことが今のところ幸いだ。しかしこの数……
「襲撃の数にしても限度があるだろ。スタンピードかよまったく……」
それらを前に俺は呆れつつも心配と表情を歪ませる。
冗談で口にしたもののもしこのモンスターの集団がスタンピードによるものならそれを引き起こした原因はなんだ。
アルマが持つ石に住むアイツにそんな力があるのか?
時刻は三時を回った。
屋敷や村のほうも今のところ異常は見られない。けどこのまま何も起こらない筈は無い。そうでなければ目の前のモンスターの集団の説明がつかない。
戦闘は今のところ俺らのほうが優勢だ。そう目の前の戦闘の状況に安心している俺の元へステータス画面のアラート表示が開かれる。
知らせの直後、画面はアルマの部屋に潜伏させてあるリモーダの視点に切り替わる。
部屋ではアルマが持っている例の石が紫色の怪しい光を輝かせている。
輝きに耐えきれなくなったアルマが目を擦りながらベッドから体を起こす。石は彼女が起きたのを確認するとその姿を現した。
螺旋を描くように頭から伸びる二本の角、唇の隙間から牙をちらつかせニヒルな笑みを浮かべる。黒い体毛に、手足の肘や膝先は虫のような細い手足が伸び、背中からも虫のような羽を六枚展開している。
「ん……ドゥーノート?どうしたの」
寝ぼけたままアルマはそいつの声をかける。
「時間になったから君の願いを叶えにきたよ」
そいつの口にする“願い”の一言に寝ぼけていたアルマの脳が目覚める。
「願いって、お父さんとずっと一緒にいられるの!」
「そうだよ。お父さんとも、使用人とも、村の皆んなともずっと一緒に過ごせる世界……そう、あの世でね」
「へ……?」
そいつは口にする言葉とともに指先を一つアルマへ伸ばす。指先に禍々しいオーラを小さく纏めるとそれを一直線に彼女へと突き刺す。
「アルマ!」
画面越しのその状況に俺は思わず彼女の名前を呼ぶ。
画面に映るアルマはそいつのエネルギーに打たれ床に倒れるも少し驚きつつその体を起こす。
何があったのか?確認するようにアルマは自身の手で体を触る。同時に物音を聞きつけた誰かがアルマの部屋へと駆け込む。
「どうされましたかお嬢様!?」
勢いよく扉を開け中に入ってきたのはメイドのアポロさんだ。
アポロさんは部屋にいるそいつに驚きつつも冷静さを保ち、床に座り込んでいるアルマのもとへ駆け寄る。
「大丈夫ですかお嬢様?」
「ううん。なんとも無いみたい……」
「そ、そうですか」
アルマの反応にふと安堵の表情を見せた後、その目は怒りの感情を乗せ部屋にいるそいつへと向けらる。
「貴様、お嬢様に何をした!」
「これはこれはアルマの使用人さん。なに、ちょっと呪いを植え付けただけですよ」
「呪い……?」
「ええ、徐々に徐々に体を蝕む呪いです。痛みはありません。ただ徐々に衰弱して死に至るだけの呪いです」
「なんですって……」
「なんでって、それが彼女の願いなんだから仕方ないだろ」
そいつの言葉にアルマは驚き目を見開く。信じられないと言いたげそうにアルマは質問する。
「違う。あたしはお父さんと前みたいに小さなお家で過ごしたいって願っただけ。アポロや村の皆んなとも前みたいに平和に過ごしたいって願っただけ」
「だから叶えてあげてるんじゃないか。皆んなが“あの世”で一緒に過ごせるようにモンスターどもを村へ向かわせた。今だってモンスターの大群がここへ押し寄せている。村が無くなるのも時間の問題だ」
「嘘……だよね。だって最初に言ってくれたじゃんお父さんとずっと一緒にいられるようにしてくれるって……」
「嘘じゃない。ちゃんと一緒に向こう側に送ってあげる。その後はどうなるか分かんないけどね」
「嘘だ!」
「嘘じゃねって言ってんだろ!悪魔が人間に手ぇ貸すなんて聞いたことがねぇぜ!言っておくが、オレら悪魔が最も幸福と感じることは人間みたいな下等な生物が死の直前にそう浮かべる絶望の顔なんだよ!」
涙を流すアルマにケラケラと笑い声を上げるそいつ。その状況画面越しに見ていた俺は……
「ごちゃごちゃ、うせぇー!」
屋敷の廊下に並ぶ窓を破り、開いたままの部屋の扉を駆け抜け、勢いのままそいつにドロップキックをかます。
ドロップキックはそいつの腹に直撃。勢いもあいまってそいつは部屋の窓から屋敷の庭の方へと吹っ飛んでいった。
吹っ飛ぶそいつ他所に俺は座り込む二人へと駆け寄る。
「大丈夫!ふたりとも」
「……コータ〜」
呼びかけに大粒の涙で顔をぐしゃぐしゃにしたアルマが俺の名前を呼ぶ。その声色から彼女の安心したような気持ちが俺には感じられた。