Phase.23 脇目も触れぬ状況
「レオライオ!もう少し頼むぞ」
全身に響き渡る苦痛に俺は不規則な呼吸をこぼしつつ立ち上がる。
そんな俺の目の前を同じようにダメージを負ったレオライオが近づいてくる虎型モンスターへ両手の盾を構える。
立ち上がる俺らに対し余裕を見せていたモンスターは急に近づいてくるその速度を上げる。気づけばあと一歩のところまで来ており、その巨大な爪を振り上げていた。
モンスターの攻撃に即座にレオライオが盾で受け止める。
盾と爪が接触した瞬間、周囲に重い衝撃音と衝撃波が響き渡る。
攻撃を耐えるレオライオの足元にはあっという間に小さなクレーターができていた。
モンスターはレオライオに集中している今なら……
レオライオの背後から俺はモンスターが振り下ろしている腕のほうへ回り込む。
「剣機人ラディン!あの凶悪な腕を切り裂け」
俺は手札から取った一枚をかざし、勢いとともにその言葉を叫ぶ。
俺の呼び声に光り輝いたカードから剣を手にする人型機械モンスターが出現すると同時に、そのラディンはその西洋風な両手剣でレオライオに振り下ろされている腕を切り裂いた。
切り裂かれた腕は空中を舞う中、周囲にその血を撒き散らしたあと“ドサッ”と地面に音を立てた。
グゥオオオォォォ!
腕から溢れでる血とそこから発生する激痛に虎型モンスターは苦しみの咆哮をあげる。
咆哮は草木を揺らすほどで、おもわず俺も自分の耳を押さえ込む。
咆哮が鳴り止んだ後、モンスターはその目を赤く染めていた。
涙を浮かべながらその牙を力強く噛み締める。
ギリリ、ギリリリ、と歯音を鳴らしてはその口を大きく開け、その牙で噛みつこうと迫る。
「レオライオ!」
迫り来る牙にレオライオが再びその盾で防ぐ。その間にラディンがもう一方の腕を切り裂くが傷をつけるだけで真っ二つにするほどでは無かった。
やっぱり召喚した直後の初撃にはなんらかのバフが掛かっている
レオライオが自身よりも強いと考えられるモンスターにここまで耐えているのがその証拠だった。
自分でルールを見つけていかなきゃなんて何時の時代のシステムだよ。まったく……
そんなことをぼやきつつ俺は更に一枚を手に取る。
「この一枚で一気に攻め落とす!来い。槍機人グングニーラ!」
手にしたカードが光り輝く。出現したモンスターは人型機械モンスターであり、その手には自身の高さよりも大きな一振りの槍が備えられていた。
グングニーラはレオライオの横から虎型モンスターの目目掛けその槍を放つ。
一振りの一閃が虎型モンスターの目をぶち抜く。
その攻撃にモンスターは噛みつきの攻撃をやめ、転がったあと地面をのたうち回る。
耐えがたい苦痛に叫び声を吐き散らしながらも口から止めどない呼吸と唾液をこぼしながら再びこちらを向く。
普通の生物なら今の一撃で脳にもダメージが入り動けないはず。しかしなおもそのモンスターはこちらへ敵意を向ける。
どんだけ執念深いんだよ……
再び戦闘態勢を構える虎型モンスターに俺は三機を集まるよう呼びかける。
そして一番先頭にレオライオを、二番目にラディンを、三番目にグングニーラとし三体を一直線に並べる。
ステータス画面を確認すると直列に並ぶと三機のモンスターのステータスが上昇しているのがわかった。
よし。元の世界通り陣形効果は問題無いみたいだな
陣形効果
俺が持つこのカードのゲームフィールドは前衛、中衛、後衛の三箇所が各プレイヤーのフィールドであり、その中で特定のモンスターを特定の配置で置くと“陣形効果”と呼ばれる恩恵を受けられるシステムがある。
俺が今回やったのは”機人騎士の模倣陣形“である。
「そんじゃ作戦終了のお知らせと行きますか」
構える両者の中、先に動いたのは虎型モンスターのほうだ。
敵は後ろ足で小刻みにステップを踏んだあと、その勢いを乗せ両腕で振りかざして来た。
出力の上がった三機はその攻撃をレオライオが受け、受け止められた健在の腕をラディンが切り落とし、痛みで咆哮を上げた口へグングニーラが槍をブッ刺すと同時にその槍からビームをぶっ放す。
顔面に風穴の空いたそのモンスターはやがて大きな音を立て地に伏せた。
想定外のモンスターに一時はどうなるかと思ったが、なんとか勝つことができた。
俺はモンスターの死体を前にただ呼吸を整えるしか無かった。その理由は一抹の身の安全と同時にアポロさんに言われていたことを思い出したからだ。