Phase.1 車内での居眠りはご注意下さい
「バトルフェイズ。槍機人グングニーラでプレイヤーを攻撃!」
東京にある街の一つ“秋葉原”
アニメに漫画、ゲームにフィギュア、パソコンにコスプレ、あらゆるジャンルで溢れかえるこの街。
そんな街の外れにぽつんと佇む一軒のカードショップ。
店内奥のプレイスペースの一角からその高らか声が上がる。
「マジックカード“反射潜兵”を発動」
「え?」
「モンスターの攻撃を無効にし、そのモンスターが持つステータスの倍のダメージを相手プレイヤーへ与える」
一度でも攻撃が通れば勝ち。
そんな絶対の状況下で攻撃宣言を口にした俺・千場鋼大の耳に対戦相手のその言葉が入る。
「グングニーラのステータスは“二◯◯◯”よってその倍、四◯◯◯のダメージだ」
俺はフィールド脇に置かれたライフカウンターに目をやる。
ライフカウンターの数値は四◯◯◯
「カウンターカードはありますか?」
「……ありません。……通ります」
「対戦ありがとうございました」
世界大会店舗予選決勝戦
たった一枚のカウンターカードにおれの敗退が決定した。
まもなく電車が参ります。黄色線の内側に下がってお待ちください。
駅員からの注意放送が流れる駅のホーム。
「はぁ〜」
苛まれる負けた時の記憶にため息が出る。
勝ちを急いだか?1ターン待てば良かったか?いや、相手にターンを返して逆転されたら同じか。くそ!あのカードさえ持ってれば、あんなカウンターカード返せたのに。
なんてことを考えながら近くで開いた扉から電車に乗る。
夕方だと言うのに車内はガラガラで、他客の姿が無かった。
珍しい。こんな日もあるんだな。
7人座りの端っこの席に腰を落とし、支えに体を預ける。
帰ったら飯食って、今日の振り返りして、デッキ組み直して、それからえ〜と
揺れる電車に釣られてか?瞼が落ち始めている。
あとそれから、……何するんだっけ?
眠いのか?さっきまでハッキリしてた思考が徐々に鈍くなっていく。
それからは十秒もしない内に俺の意識は途絶えた。
「……ん」「……ううん?」
あれ?俺……寝てた?
繰り返すまばたき。徐々に俺の頭が働きだす。
今何時だ?
時間を気にしようとポケットからスマホをケータイを取り出そうとする俺は、ふと揺れの無い車内にふと気づく。
終点まで乗っちゃたのか?
止まっている電車にそんなことを思いながら取り出したケータイを開き時間を確認する。……しかしケータイの画面は真っ暗なまま。
あれ充電切れたか?
真っ暗なケータイを手に再度電源ボタンを押すもケータイが起動する様子は無かった。
まぁ、モニター見ればいいか
そう考え俺はケータイから視線を電車の扉上に動かすもそこに最新のモニターは無く。代わりに駅名だけが流れる電光掲示板が備えられていた。
あ〜このタイプか。……仕方ない。一度ホームに出て確認するか
終点ならこのまま電車に乗っていれば反対方向に走りだすから待てば良い。けどどうしても時間を知りたかった俺は一度ホームへ降りた。
扉ガ閉マリマス。ゴ注意下サイ。
へ!?
電車から降りた直後だ。ホーム内に響くそのアナウンスとともに電車は扉を閉め、ゆっくりと徐々に速く走りだしてトンネルの奥へと消えていった。
……え〜と、とりあえず時間確認するか。時計……時計……。あ、あった。けど……
降りた途端に発車した電車を気にしつつホーム内で時計を探すも発見したのは、ガラスフレームに大きなヒビの入った壊れた時計だった。その時計は1:00を過ぎた辺りで止まっていた。
壊れてる。……他には、
壊れた時計を前に内心焦りつつも動いてる時計が他に無いか?俺はホーム内を歩き出す。が、これの他に時計は無く。諦めて椅子に座るも新たに電車が来ることも無かった。
電車を降りて椅子に座ってから現在まで体感約十数分。
……さすがにおかしくね?
何らかの理由で遅延にでもなったのだろうと思う電車は(それにしてもおかしいと思うが)、けど人とすれ違わないのは明らかに変だ!
仮に本当に終電だったとしても駅員やら夜間点検のための作業員と出くわす筈だろう(たぶん)。それなのにいくら待っても人の気配すら感じられない。……というかそもそもここ何処なんだ?
おかしな現状に思考を巡らせる中、ふと俺はここの駅名を確認する。
『 』
……駄目だ。わかんね
本来駅名が書かれている札を見るも駅名は黒く塗り潰されたような状態になっていた。
油性ペンで塗り潰したのかと思い近づいて目を凝らすもどうやらそう言う訳では無いらしく。一文字も確かめることは出来なかった。
……とりあえず、外に出てみるか
このままここで電車を待つより外に出たほうが良いと思いホームから改札・地上へと続く階段へと歩き出す。
本当に終点の時間なら家族が心配しているかも知れない。その時はコンビニもしくは交番で電話を借りればいいか。
地上に出た後のことを考えながら改札のある階に来るとそこも人の気配は無く。改札を通るも警報音一つ鳴らなかった。
本当に終電なのか?だとしたら地上への出口は閉まってるんじゃ!一抹の不安を抱えるも階段を登った先の地上出口はちゃんと開いていた。
良かった。出口は開いてる。
出口が閉まっていないことに安堵しつつ俺は駅から地上に出た。……しかし次に俺の目に映ったのは夜中に猛スピードで車が走る道路では無く。
何処だ……ここ
空を覆い隠す程に枝を伸ばした木々がずっと先まで続く森の中だった。
枝の隙間から微かな陽光が森の中と俺の元に差し込む。