Phase.13 触れちゃいけないこと聞いちゃいけないこと
アルマに引っ張られるまま連れてこらえたのは、彼女の屋敷・バーミリオン家の庭だった。
村の当主の庭と聞いてたからどれほど豪華なものなのか?と予測していたが、到着した俺の目に映ったのは辺り一面の草原だった。
庭の草原を前に呆然とする俺をアルマが再び手を引いて走り出す。
「ほら、こっち!こっち!」
ウキウキと草原を駆けるアルマ。そんな彼女のペースに合わせようと俺も走り出す。が……
「うわっ!?」「きゃっ!?」
足がもつれた俺は手を引くアルマを巻き込んでその場で転げる。
「い、ってて……あ、」
気がつけば俺はアルマに覆いかぶさる体勢だった。しかも片手は草原を、もう片方の手は……彼女の胸を掴んでいた。
俺の手の感覚に先に気づいていたのか?アルマの顔は少し赤く恥ずかしそうな表情をしていた。
「ご、ごめん!……あ、ああ!?」
その状況を理解した俺はすぐさまに起き上がりその手を放す。も起き上がる勢いが強かったせいでそのまま後ろへと転がり倒れる。
すぐさま起き上がり再度謝るもアルマから返ってきた言葉は、
「……エッチ」
の一言だった。
そりゃそうだよな〜と思いながらも立ち上がるアルマに
「本当にごめん。でもわざとじゃないんだって!」
両手を上げて謝り続ける。
謝ることしか出来ずこの後どうすればいいのか?悩む中、アルマがゆっくりとこちらへ近づいてくる。
草原に座り込む俺に立ち上がるのを手伝うようにアルマがそっと手を伸ばす。
許してもらえたのか?アルマの手を掴もうと俺も手を伸ばす。が……
「捕まえた!」
「へぇっ!?」
俺の手を掴んだアルマは、そのまま押し倒すようにして覆いかぶさってきた。さっきとは逆の状態になった。
アルマは俺の顔の前で両手をわしゃわしゃと動かしては、その手で俺の両頬を引っ張りだした。
「ふぇ、ひょ、いひゃい。いひゃい」
アルマにそう訴えるも俺はされるがまま下手に抵抗できない。
暫くその状態が続くとやがて疲れたのか?覆いかぶさっていたアルマが離れ俺の隣に横たわる。
「ハハ、ハハハ、はぁ〜面白い!」
「アルマ?」
「大丈夫だよ。もう怒ってないよ」
笑い転げる驚きを隠せない俺に対して、アルマはこちらへ笑顔を見せてくる。
「ほんと……ごめん」
「いいて、引っ張ってたあたしのせいでもあるし。まぁ、ちょっと恥ずかしかったけど」
改めて頭を下げる俺にアルマは許してくれた。
それから暫くの間、何も喋ることなく。ただじっと二人で空を見上げていた。
広い青い空に、ゆっくりと流れる白い雲。異世界と認識していながらも自分の世界と似ている部分が多い。そのことにどこか違和感を覚える。
気になっていたそのことをアルマに聞こうとしたが、
「ねぇ、コータ?」
彼女のほうがさきに聞いてきた。
「なに?」
「魔物と戦ってる時ってさ、怖くないの?」
「怖くない。って言いたいところだけどまだ怖いかな」
アルマからの質問に俺は正直に返す。
「森を抜けてきたって言ったじゃん。あの森は進むたびに魔物と遭遇するんだ。倒しても倒しても次から次へとわいてくる。昨日だってほぼ飲まず食わずだった」
「それで疲れて村の前で倒れちゃったんだ?」
「そう。そして君に拾ってもらった。倒れる直前、正直死んだと思ったよ」
「そうだったんだ。あたしに見つかってラッキーだったね」
自分が助けてあげたことが嬉しいのか?アルマの声に少し跳ねたように聞こえる。
「ねぇ、アルマ」
「なに?」
話の中、ふと気になったことを彼女に聞く。
「アルマはあの日、どうして外に出ていたの?」
その問いが意外だったのか?アルマの顔から笑顔を消えそうになる。
「さ、散歩だよ散歩。たまに気分転換に一人歩きたくなるんだ」
作り笑顔か?アルマは早口にそう説明する。
「そっか……」
なにかを取り繕うとするアルマを前に俺はそれ以上聞かなかった。
俺らの間にまた沈黙が生まれる。その沈黙はさっきまで以上に続くのだった。