Phase.11 作戦開始
「準備は良いコータ?」
村内の門前に立つ俺に砦内の見張り番からアルマが確認を取る。
「一瞬だけ門を開けるからその間に外に出て、見張りの人から聞いた話だと大型二の小型が複数いるみたい」
「分かった。ちなみになんだけど大型ってどれぐらいの高さ」
アルマから知らされた情報から恐らく小型はゴブリンくらいのモンスターだろう。ただ運が良かったのか?森を抜ける中で俺は大型に出会ったことが無い。
「どれくらいの大きさって……、え〜っと、コータの頭の上にもう一人のコータを乗せたくらい?」
それ二倍じゃね!?しかもそれが二体もいるんだろ……。勝てるのか?……いや、俺はカードゲーマーだ。最初っから負けることを考えるなんてそんなの論外だ!
俺は深呼吸を一度し、左手の平に右手のグーを強く叩き込み気合を入れ直す。
「準備OKだアルマ!開けてくれ」
俺の言葉を後、アルマの操作によって村の門がゆっくりと人一人通れるくらいの隙間の分だけ開く。
開いた扉へ向け、俺は駆け出す。足早に門をくぐり抜けると、俺が通ったことを確認したアルマが門を閉じた。
これで逃げ場は無し。俺は村の門前を囲むように並び立つモンスターたちを目に映す。
距離にして約10メートル。真ん中に大型が二体その周囲で集団を作るように小型が六〜八体。
小型はやっぱりゴブリンだったか。問題は……
俺の目は仁王立ちする大型二体に集中する。一体は樹木の見た目のモンスター。根っこでの移動、木の枝の手、睨むような鋭い目とギザギザの木歯、頭は緑一色の葉っぱまみれ。RPGでよく見る木のモンスター【トレント】か……
そんでもう一体は人型のモンスター。二本ずつの手足に、腰に巻いているボロボロの布切れ、般若のような顔に大きな牙。たぶんオーガだろう。ただコイツが持ってる得物なんだが……
オーガと思わしきモンスターはどデカい斧を担いでいるのだ。
………… ………… ………… なんでその組み合わせで並んでんだ!?
正直まだまだ色々言いたいことはあるんだが、そろそろ互いに様子見が済んだころだろう。
俺は腰に備えてあるデッキケースに手を触れる。反対にオーガは斧を持つ手の握る力を強める。
「グゥオオオオオオ!」
周囲の草木を震わせるほどのでかい咆哮を放つオーガがその手の斧を俺めがけ振り下ろす。
向かってくる斧に対し、俺は一直線にオーガのほうへ駆け出す。斧が地面を揺らすのと同時にオーガの股下をくぐり抜け反対側へ。
踵を返しモンスターたちの背後を見つつデッキケースのボタンを外す。
「そんじゃ作戦開始といくか!」
俺の呼びかけに反応し、デッキから五枚のカードが自動で取り出される。取り出されたカードは胸元の位置で上三枚下二枚の形で展開・浮遊している。
手札を確認する俺の目は同時にモンスターたちの標的が砦に向けられているのを確認する。
一より十がお望みんですか?
「あの少年、反対側いっちゃったよ!?もしかして逃げるんじゃ……」
「コータはそんなことしない!」
砦の隙間からアルマの顔が見える。
……大丈夫だよアルマ
一瞬、彼女に視線を送った俺は浮遊する手札からカード一枚手に取る。
「留火機兵アルクル・コーンを召喚!」
正面に掲げたカードは俺の呼びかけに光り輝く。カードから出現したソイツは三角コーンを担いだカニの見た目の機械兵であり、コーン先端から火を燃え盛らせている。
しかし周囲のモンスターたちは未だ俺に、呼び出された機械兵に反応を見せることは無い。
「アルクル・コーンの効果発動!相手モンスターは強制的にこのモンスターへ攻撃しなければならない」
効果の発動でアルクル・コーンが燃える火の火力を上げる。それに反応してオーガ、トレント、すべてのゴブリンがこちらを向く。
良し!効いてる。これで村のほうは大丈夫。あとは順番にこいつら倒せば……
アルクル・コーンへ向け近づいてくるモンスターたちが次々に攻撃動作へと移行する。
「マジックカード!次元燃料をアルクル・コーンに重ねて発動。これによりアルクル・コーンは相手の攻撃を受けるたびにその攻撃力の半分を回復する!」
カードの発動と同時にモンスターの攻撃がアルクル・コーンを襲う。
俺はその光景を見守りつつステータス画面を開く。アルクル・コーンの攻撃力はモンスターの攻撃によって減らされるも直後、減った半分の数値が回復していた。
アルクル・コーンの攻撃力は六割を下回らないのを確認した俺はホッととりあえずの安心感を得る。
重ねて発動
モンスターや他のカードに対してカードを発動することでその効果を付与する。強化するものもあれば弱体するものもある。
重ねて発動は問題なく機能している。あとは順番にモンスターを対処していけば被害ゼロで勝てる。
このまま押し切る!残り三枚の手札から二枚を手に取る。
「開始早々、とっとと作戦終了といくぜ!剣機人ラディン、砲機人ウルガノン」
俺の呼び声に掲げたカードが光り輝く。眼前に二体の影、一体は剣と盾を持った人型機械が、もう一体は両肩に砲身を備えた黒鉄の人型機械が出現する。そのサイズは俺(身長約170センチ)の1.5倍ほど
「いっけーーー!」
そこから数分の出来事だった。
ウルガノンが村に被害が及ばない威力の砲撃の数でアルクル・コーンに集まるゴブリンどもを蹴散らし、オーガと力比べで拮抗した状態を形成。その間にラディンがその剣でトレントを斬り伏せる。
ウルガノンが抑えるオーガをラディンの剣撃が襲う。たったの三撃でオーガは大きな音を立てて地に伏せる。
「ふぅ〜……作戦終了っと、」
戦いの終わった目の前の惨状にふと緊張で強張った肩の荷を降ろす。
気配に気づき視線を砦のほうへ向けると、アルマがこちらへ手を振っていた。反応を示すように俺もアルマへ小さく手を振るう。
「慣れたもんだな……」
さて素材カードを回収するとしますかね。そう気合を入れ直し、俺は足元で転がるモンスターの亡骸に手をかざしていく。