Phase.9 許可を貰えた拠点
食堂で朝食を取り終えた俺はアルマとともに屋敷の応接室へと移っていた。
「それでは改めて、私がバーミリオン家第七代当主メルフ・バーミリオンと申します」
「千場鋼大です」
対面する形で応接室のソファに腰を掛ける俺とメルフさん。改まったメルフさんの挨拶に俺も学校で習った丁寧な会釈で返す。
「娘からある程度のことは聞いているが、君の口から説明して貰ってもいいかな?」
優しげな表情とは別にその言葉と鋭い目が俺の芯を見定めようと突き刺さる。
メルフさんの言葉に俺は怒ることなく。それがただ当然の行動だと理解する。娘の、アルマの善意とは言え、自分の家に見知らぬ人間が泊まっていれば警戒するのは当たり前だ。正直、食堂に足を踏み入れた時からその目には気づいてた。メイドのアポロさんが向けてくる目は今目の前に座るメルフさんのものよりも強い警戒心が感じられていた。
朝食を無味と感じたのもその目が原因。……いや、それは図々しい。
一瞬、俺は隣に座るアルマのほうを見る。視線に気づくことは無い。けど彼女も真面目な表情で話を聞く姿勢だ。
見ず知らずの俺を助けてくれたアルマにも信じてもらえるように、俺は倒れる直前までの出来事をゆっくりと話し始める。
アキバから乗った電車で見知らぬ駅に着いたこと。ここが何処か知るために地下の駅から地上に出たこと。森の中を歩くこと見えない壁のせいで駅に戻れなくなったこと。森の中で遭遇したモンスターを倒しつつなんとか村の入口まで歩いてきたこと。村を門前で力尽き。そこからアルマに拾われたこと。
ざっくりではあるもののここまでの出来事を話す最中、アルマとメルフさんは興味深そうな表情や恐怖したような表情とコロコロ顔色を変える。
「アキバに、ニッポン、なるほど。コータくんにそんな事情があったとは……。了解した。帰り方が分かるまでの間は屋敷の一部屋を好きに使ってくれて構わない。なにかあればその都度言ってくれ」
「ありがとうございます」
「そのかわりと言ってはなんだが、コータくんの力を少しばかり貸して欲しい」
「力……ですか?」
「ああ、君は単独で魔物の相手ができる。村も砦を築いているが、時折魔物の襲撃を受けることがある。そこで今後襲撃があった際、その討伐にあったてほしい」
「分かりました。俺に出来ることがあるなら力を貸します」
「そう言ってくれて助かるよ。それじゃ、これからよろしく」
メルフさんから差し出される手を俺は感謝の念とともに握手を交わす。
「では私はこれで失礼するよ。さきほど帰ってきたばかりでね。昼時まで眠るとするよ。アルマ、コータくんのこと頼むよ」
話を終えたメルフさんは俺とアルマを残し応接室を後にする。
残された俺はアルマからの「じゃあ、行こっか!」を合図に二人で応接室を出ていく。
「よかったわ。お父様からの許可が貰えて」
「ありがとう。アルマ」
「急にどうしたの?あたしは何もしてないよ」
「いや、助けてくれたこと。ちゃんとお礼言ってなかったな〜と思って……」
隣でご機嫌そうに歩くアルマにお礼を口にした俺は、彼女の案内のもと屋敷内の各部屋を巡っていく。
屋敷内を巡ること数時間ほど、俺はバーミリオン家の大体の内部構造を把握することができた。
屋敷は三階建、一階に食堂・浴場・書斎・メイドさんたちの各部屋、二階に客間が三部屋・アルマの部屋、三階はルフレさんの部屋とその上にある屋根裏部屋へ続く階段が、村に建つ屋敷って聞いてたからどれくらいの広さかと思ったけど結構大きいんだな〜
「……っと、これが家の屋敷。あと階段奥が中庭に続いてる」
一階へと下る中、階段の外へ顔を出し中庭へ続く廊下を指差す。そんなアルマに対し、「危ないよ」と危うく階段から転落してしまうのではと心配する気持ちを口に出す。
たった数時間の付き合いだが、アルマのギャップに驚かされている。一見大人しそうな清楚な見た目に反して、その実は好奇心旺盛な少女。だからなのか?俺のことを助けてくれたのかも?っと、目の前の彼女の行動理由を考える。
そんなことを思ってゆっくりと階段を降りていると、既に下り終えたアルマが屋敷の扉の前で俺へ向け手を大きく振っている。
「コータ!はやくはやく」
急かすアルマを前に俺は歩くスピードを僅かに早めるのだった。